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対魔王人類同盟  作者: 茅ヶ崎栄太郎


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第11話 決意

獣人たちを受け入れてから少しして

ポツポツと亜人や獣人がやってくるようになった


森の近くの村に魔獣の牙や毛皮を売るようになったので

俺たちの存在が少しずつ知られるようになって噂になっているらしい。

獣人と亜人が混じって売りに来るので

珍しく思ったのかもしれない。


半年後にはダークエルフの一団が

王国の森林伐採で住処を追われてやってきた。

彼らは薬草と弓の知識を持っていた。


その翌月には金を騙し取られて税を払えず

投獄されそうになったドワーフたちが逃げてきた。

彼らの冶金技術は俺たちの武器と道具を

一段階上の水準に引き上げた。


集落の人口は増え続け

洞窟の前に建て増してきた木造の家は

いつの間にか端が見えないところまで広がっていた。

畑もかなりの面積になり、収穫した作物を

保存する為の大きな倉庫も作った。

暮らしが安定してからは子供が増えてきて

遊びまわる声がそこかしこで聞こえる。

数年前、俺たちが辿り着いた魔獣の森とは

まるで違う場所のようだ。


「こんな日がくるなんてな」


「ああ」


「お前が魔獣の森に来ると言い出したとき

 確かにそれしかないと思ったが

 俺はこんなに上手くいくと思っていなかった。

 でも、お前は最初からこうなると分かっていたんじゃないか?」


「まさか」


普通なら1つの知識を伝えるだけで何日もかかる。

しかも、この魔獣の森では安全に行動する為だけで山ほど覚えることがある。

だがそれもこいつの力があれば、わずかな時間で伝え広めることができる。


種族の壁を越えて

知恵と技が一瞬で伝播する。

これがどれほど異常なことか


こいつの力がなかったなら

これほど上手くいったとは思えない。


---


五年が過ぎたとき、集落の人口は千人を超えていた。

十年目には五千人近くなり、もはや集落とは呼べなくなった。


王国や共和国で迫害された亜人や獣人が

絶え間なく流れ込んできた。

角を持つ者。鱗を持つ者。翼を持つ者。

人族の世界で「魔族」と呼ばれ

居場所を奪われた者たちを

あいつは一人も拒まなかった。


洞窟を中心に広がった集落は

やがて石壁に囲まれた街になり

街は城壁を持つ都市になった。


魔獣の森から産出される希少な素材は

人族の商人たちと取引された。

魔石、霊木、万能薬の原料となる薬草。

外の世界では貴重なそれらが

俺たちの森には無尽蔵にあった。


富と人が集まり

技術が蓄積されて

二十年が過ぎた頃には

人口は十万を超えていた。


「魔王陛下」


その頃にはあいつはそう呼ばれるようになっていた。


「君までそれで呼ぶのか」


我が幼馴染どのが苦笑して応える。

城の窓から街を見下ろしながら。


そう、城だ。

手狭になったので増築を部下に任せて取引から戻ったら

どう見ても城にしか見えない重厚な建物が完成していた。

城が出来て少ししてから誰もがこいつを王と呼ぶようになっていた。


「十万人の上に立っているんだから

 陛下くらい我慢しろ」


「2人でいるときは勘弁してほしい」


「分かったよ」


魔王は窓の外に目を向けた。


眼下には活気に満ちた街が広がっている。

市場に様々な種族が行き交う、ここにしかない景色。

少し離れた鍛冶場からの金属を打つ音がかすかに響いている。

かつて訪れた共和国の街と

似ているようでまるで違う光景がそこにあった。


あの国にいたのは人族と少し違う程度の種族だけだったが

この街にはありとあらゆる者たちがいる。

最近は知能が高い程度の魔獣も混じって歩いている。

俺たちからしたら問題を起こさず、対話可能な相手なら何でも変わらない。

元々人も亜人も、動物も魔物も、見た目や社会の都合でそう呼んでいるだけで

生き物としてそれほど違うわけでもない。


ただ、新しい者たちが入ってくると

ちょっとした誤解や行き違いで争いは増えるものだ。

最初の頃はそういう心配もしたのだが

それもこの優しき魔王陛下が解決してしまった。


魔王の幻術の効果範囲は徐々に成長していったので

この頃には十万を超えるこの国のすべての民に届けることもできた。

分業が進んだので専門情報は必要な者に絞って伝えているが

皆が知るべき情報は毎日決まった時間に全員に伝えていて

そしてここが肝心なのだが、伝える思考の中に魔王の内心の声が

多少なりとも入り込んでしまう。というかこの魔王様は

内心の声がかなり駄々洩れなのだった。


新しく加わった者たちは大抵これに面食らう。

彼らが最初に聞く全体ニュースは自分たちの参入についての報せだが

ここに魔王が彼らを歓迎する気持ち、長旅で傷ついたことを心配し

この国を気に入って幸せに暮らしてほしいと願っていること

それらが完全に駄々洩れで伝わってきてしまう。

これが嬉しくないわけがない。


それでも生活が困窮すればトラブルを起こす者も出てくるだろう。

だが、それは俺の仕事だ。土地と家を確保して彼らの生活を安定させてやる。

何しろすぐ近くであいつが信頼に満ちた顔で俺を見ているのだ。

それに応えずにいられるわけがない。


「いい街だ」


声に出ていた。


「ああ」


魔王が静かに頷いた。


「……守らなければな」


その言葉の奥に

何かが滲んでいるのを俺は感じた。

だがその時は深く考えなかった。


---


魔獣の森に来てから三十年が経ち

人口は百万を超えていた。


魔王国と呼ばれるようになった俺たちの国は

魔獣の森全体に広がり、森の周辺部にまで版図を広げていたが

それは人族たちの国からは脅威だと思えたようだ。


最初に動いたのは王国だった。

国境付近に軍を集結させ

警告もなく森の外縁部の集落を焼いた。


報告を受けた時

俺は自分の耳を疑った。


「いきなり襲われたようです。

 集落の住民八十名が殺されました。

 男衆は狩りに出ていたようで、犠牲者は子供と老人が大半です。

 家と畑も焼かれました」


斥候の声が震えていた。


「何故襲われたんだ?」


「隠れていて生存した村の者が耳にした王国兵の言葉によると

 彼らは魔族の巣を焼きに来たのだそうです」


俺の視界が赤く染まる。


あの日と同じだ。

故郷の集落を焼かれたあの日と何も変わっていない。

あいつらは何も変わっていない。


「陛下に報告する」


俺は立ち上がった。


謁見の間で魔王は

俺の報告を黙って聞いていた。


表情は動かなかったが俺にはわかる。

幼い頃からずっと一緒にいた。

あの静かな無表情の奥で何が渦巻いているか。


「……対応を協議する。

 各部族の長を集めてくれ」


「はい、陛下」


穏やかな声だったが、穏やか過ぎるように思った。

また無理してやがるなこいつ。


---


王国の襲撃はそれきりでは終わらなかった。


年に二度、三度と兵を送り込んでは

外縁部の集落を襲撃して資材を奪い住民を殺していく。


共和国からも同様の襲撃が行われるようになって

襲撃回数は徐々に増えていった。


どうやら王国も共和国も、魔物の巣を見つけて

駆除しているぐらいのつもりらしい。

自分と同じ言葉を話す者たちを平気で殺す神経が分からないが

彼らにとってはそれが普通のことらしい。


俺たちは自警団を増員して対抗しようとしたが

正規の訓練をした兵士たちには太刀打ちできなかった。

魔王国は魔王の能力のおかげで内部での争いはほとんどなかったし

魔獣の森にわざわざ入ってくる人族はいないので

防衛の為の軍備もしてこなかった。

それに、多少戦える者を増やしても集落が増えすぎていて

すべてを守るのは難しかった。


交易でつながりがある商人に頼んで情報収集したところ

襲撃してきているのは王命を受けた領主の兵らしい。

商人から話してやめてもらえないか聞いたが

俺たちのような「魔族」と関りがあると知られると

商人の側も身が危ないので難しいと言われたし

俺たちが直接話しに行くと言うと

途中の街の衛兵に殺されてしまうだろうと警告されてしまった。


そうして決定的な解決を図れないまま

事態は更に悪化していった。


三十二年目の春には南の鉱山集落が共和国軍に制圧され

住民二百名が強制的に排除されて鉱脈を丸ごと奪われた。


三十五年目の冬には王国の騎士団が北の交易拠点を急襲した。

守備隊の三十名が殺され、積み上げた交易品は一つ残らず持ち去られた。


三十七年目には王国と共和国が共同で森の西側を侵攻した。

三つの村が焼かれ、四百人以上が命を落とした。


俺たちは王国と共和国に何度も使者を送ったが

取り合ってもらえなかったし、使者として送った者も

度々殺されそうになり、実際に殺されたりした。

人族たちにとって俺たちは対話や交渉の相手ではなかった。

資材を産出する森に棲みつく魔物の群れが

たまたま人語を話す、その程度のものにすぎなかった。


---


三十八年目の秋には王国と共和国の連合軍が

過去最大の規模で侵攻してきた。

森の東部の大型拠点に踏み込まれ穀倉地帯が蹂躙された。


「被害の全容をまとめました」


俺は謁見の間で報告書を読み上げた。


「死者千二百、うち非戦闘員が七百以上。

 焼失した耕作地は全体の三割に及びます。

 他の地区の食糧をまわさないと冬を越せない」


魔王が言った。


「手配は間に合いそうか」


「そちらは任せておけ。

 問題はどうやって奴らの攻撃を止めるかだな」


「こちらも兵を増やし、哨戒網を整備すれば

 今回ぐらいの規模なら対抗できるだろう。

 だが、力で押し返せば更に多くの兵力で攻めてくるだろうし

 王国の騎士団全体を相手取るところまでエスカレートしたら

 それはもう全面戦争だ」


「……そうだな、だがこのまま殺され続けるわけにはいかない」


俺の敬愛する魔王陛下らしからぬ

苦渋に満ちた顔は俯き、涙をこらえているように見えた。


「そこで、1つ提案があるんだが…」


俺はこの数年考えてきた計画を話した。

魔王が俺を見た。


あの日、焼け落ちる故郷を背に

俺の腕を掴んで走り出したときと変わらない

幼馴染の目だった。


少しの沈黙の後、俺は言った。


「俺に任せてくれるか?」


---


四十四年目、魔王国の人口は数百万に達していた。


俺は諜報部隊を王国に送り込んで

魔王の幻術の媒介となる護符を王国全域に行きわたらせた。

後は魔王が王国に幻術を行使するだけだ。

王国に共和国が魔物に征服されたと誤認させた上で

王国が元々持っている共和国への憎しみを増幅してやれば

魔物への憎悪として感じられて奴らは共和国に侵攻するだろう。


幻術を開始する前の日の夜、魔王に呼ばれて謁見の間に向かうと

我が幼馴染どのは玉座に腰を下ろしてじっと何かを考え込んでいた。


「君に聞きたいことがあるんだ」


「何だい」


「人族は変われると思うかい」


思いがけない問いだったが魔王は真剣な顔だ。

こちらも真面目に考えるべく、これまでの事を思い起こす。


四十年前に王国に故郷を焼かれた日のこと

共和国に拒まれて魔獣の森に来るしかなかったこと

故郷を追われて同胞となった者たちが経験したあれこれ

いまや魔王国にも多くの人族たちがいるが

人族たちは人族同士ですら騙し合い争い合っている。

少なくともこの四十年の間、何も変わっていない。

何度使者を送っても襲撃はやまず

それどころか使者が殺されたこともあった。


「……正直に言っていいか」


「ああ」


「無理だと思う」


魔王は目を閉じた。


「そうか」


「違う答えを期待してたか」


「いや」


魔王はゆっくりと目を開けた。


「同じことを思っていた」


悲しそうな、残念なような顔。

この期に及んで人族の国を滅ぼさない選択肢を考えていたのか。

少し驚きながら、我が幼馴染らしいと思う。

だが、もう迷いはないようだ。


「王国と共和国を滅ぼして

 人族たちが二度と私の大切な民に手を出せないようにする」


立ち上がって、そう宣言した。

魔王がついに決断を下したのだ。


「準備は万端整っている。

 いつでも始めてくれ」


魔王が振り返った。


「……ありがとう」


「何がだ」


「君にばかり面倒な仕事をやらせている」


「数百万人に同時に幻術をかけるなんていう

 途方もない仕事をやるお前より面倒とは思わんさ」


魔王は少しだけ笑った。


洞窟に辿り着いた日の夜と同じ笑い。

四十年経っても変わらない俺の幼馴染の顔。

俺はこれの為に頑張っていると言っても過言ではない。


「頼んだよ」


「ああ、任せてくれ」


それが魔王国の戦いの始まりだった。


この翌年、人族たちの同盟は

人族たちの手によって灰になる。

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