第二十三話・事件のその後
「……という事があったんです」
城に戻ったアレックスは、キャサリンやアンジェリーナ、レスリー達の求めに応じて、その日の出来事を語っていた。
「あらあら、そんなことが……」
「凄いわね。偉いわよ、アレックス君」
「まぁ、アル君なら当然よね!」
三者三様の反応を見せる三人に、微笑を浮かべるアレックス。
「それで、その謝礼はフェルネス教団の神殿に寄付してきたのね?」
アンジェリーナは、感心した様に声を上げた。
アレックスは、アンジェリーナに対して頷いて見せる。
「はい、義姉様。神殿で事の経緯を話したら、ちょっとした騒動になりましたが……」
「まぁ、それはそうでしょうね。スプリングフィールド選公爵家の子が、いきなり神聖術士として現れたら私だって驚くわ」
アンジェリーナが、クスクスと小さく笑う。
それに対して、レスリーは興奮した様子を見せた。
「アル君ってば、本当に良い子よね!大体、辻治療の代金だなんて、わざわざ教団に言わなければ向こうだって分かりっこないのに」
そう、アレックスは事件のあった帰り道にフェルネス教団の神殿に立ち寄っていたのだ。
もちろん、その理由は店から受け取った心付けを教団に寄付するためである。
その折に、教団からは治療行為に対する報酬分を受け取っている。
別に、全額を寄付として納めていたわけでもないのだ。
「それでも、規則は規則ですよ」
アレックスの言葉に、キャサリンは鷹揚に頷いて見せる。
「そうね。それに、こういう事は意外と直ぐに話が広がる物よ。正直にフェルネス教団の神殿に行ったのは、とても良い判断だったわ。よくやったわね」
「はい、母様。ありがとうございます」
そうして、アレックス達が話をしていると、客室の扉をノックする音が響いた。
部屋付きとして扉の横で控えていた城のメイドが、静かに扉を開いて訪問者とその用事を確認する。
訪問者とその用事を確認したメイドは、アレックス達に向かってお辞儀をするとその内容を告げる。
「お客様、夕食の用意が整ったとの事でございます。こちらにどうぞ。ご案内をさせていただきます」
「分かったわ。それでは、皆、行きましょうか」
キャサリンの言葉に促されて、アレックス達はメイドの案内で食堂へと移動をしていった。
食堂に行ってみれば、既にオルランド伯爵夫人が席に着いて待っていた。
そして、アレックス達が食堂に入って来てからそれ程間を置かずに、フレデリックがオルランド伯爵、ギルバートと共に食堂に姿を現した。
こうして両家の面々が揃った所で、オルランド伯爵が食堂の端に控えた執事に合図を送る。
「さて、皆が揃った所で、早速夕食といたしましょうか」
台所へとつながる食堂の扉が開き、その日の夕食が運ばれてくる。
メイドの給仕によって配されたその日の夕食は、焼き魚と白パンにスープ、サラダとフルーツであった。
食前には神への感謝の祈りを唱え、静かに食事は始まった。
しばらくは、皆が食事に集中する。
そうしてメインの皿がメイドによって片付けられた所で、フレデリックが口を開いた。
「所で、アレックス。今日の出来事については、ギルバート君から話は聞いた。何でも、街中で狼藉を働いた賊を見事に退治して見せたそうだな。さらには、賊に襲われて深手を負った店の店主の傷を癒してやったとか……」
「はい、父様」
「その事はまあ良い。下賤の賊共相手に後れを取る様なお前ではあるまい。そもそもが、街中で賊に身をやつす様な連中だ。腕の立つ者なぞ居ようはずもない」
アレックスを褒める様な口ぶりで語るフレデリックであったが、その表情は決して良いものではなかった。
「とは言え、一人の親としては苦言を呈さぬわけにもいかん。あまり危ない事をして心配をさせてくれるな。賊の暴れまわる現場に、一人で突っ込むとは……。大事があってからでは遅いのだぞ。何しろ、お前はまだ子供なのだからな」
「はい、父様。ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。以後、気を付けます」
そこまで言って、フレデリックは表情を緩める。
「しかし、そもそも民草の危機に際して、率先して立ち向かう事が出来ずして何のための貴族か。ローランディア選王国の貴族として、狼藉を働く者に果敢に立ち向かった事は称賛に値する。大体、アレックスの腕前であれば、並大抵の者では歯が立たんだろうしな。ともあれ、よくやったな、アレックス」
「はい、父様。ありがとうございます」
アレックスの言葉に、フレデリックは鷹揚に頷いて見せる。
「だが、竜を倒す様な勲を掲げる強者でさえ、つまらぬ理由で命を落とす事もある。決して驕らず、精進を忘れない様にな」
フレデリックの言葉に、アレックスは神妙な顔をして頷いて見せた。
「分かっているならば良い。とにかく、あまり親に心配をさせるような事はするなという事だ」
「はい、父様」
と、そこでオルランド伯爵が場を取りなす様に明るい声を上げる。
「しかし、さすがはスプリングフィールド選公爵家の御子であらせられる。賊を退治した手際は、大変見事なものであったと護衛の者が言っておりましたぞ!ローランディア選王国の貴族ならば武芸を嗜むのは当然の事とはいえ、実に見事なものであったとか」
オルランド伯爵がアレックスを褒め称えると、レスリーが我が事の様に喜んでいた。
「そうなんですよね!アル君ってば、お勉強もとっても良く出来る上に、剣術の腕前もとってもすごいんですよ!」
レスリーの言葉に、アンジェリーナが同意の声を上げる。
「そうね。アレックス君は武術や魔術で王立アウレアウロラ学園初等部アウロラの第一組の成績だけど、学術も第一組で初等部アウロラの首席卒業生だものね」
「そう言えば、聞きましたよ。アレクサンダー君は学術も武術も魔術も全て第一席の成績で、卒業生の中でも圧倒的な成績での首席卒業だったと……」
ギルバートもアンジェリーナの話題に乗ってきた。
「他にも、在学中に魔導師の称号まで獲得したとか?その上、神聖術士でもあるなんて、そんな人は他に聞いた事もないよ。いや、本当にすごい事だよね」
「だから言ってるじゃない!アル君ってば、とってもすごいんだってば!」
レスリーがむきになった様にむくれて見せると、食堂に笑いが巻き起こる。
一同がレスリーの様子を微笑ましく見ている中で、アンジェリーナが口を開いた。
「確かにアレックス君はすごいわね。それは、私もそう思うわ。でも、だからと言って自ら危険に飛び込んでいくような真似は感心できないわね。お義父様達に心配をかける様な事は、あまり良くないわよ?アレックス君」
「はい、義姉様。気を付けます」
「まぁ、アル君だって分かってるわよ。そんなに心配する事でもないわ」
そう言うと、レスリーはアレックスを抱きしめた。
「まぁ、本当に仲が良いのね」
二人の様子に、オルランド伯爵夫人は感心したのか呆れたのかクスクスと笑って見せた。
そこで、フレデリックが口を開く。
「まぁ、くどくど言う事ではあるまい。しかし、アレックス。明日はポルトゥースの街の観光はやめておきなさい」
「そうですな。昨日の今日で商店通りを中心に既に尾ひれのついた噂が広まっておるようですし……。神殿の事もある。会わなくても良いトラブルに巻き込まれる様な事になっても、面白い話ではありませんからな」
オルランド伯爵が、フレデリックの話に頷く。
アレックスは、素直に二人の話に分かりましたと頷き返すのだった。
そうしてその後も幾らかの雑談を交えながら、その日の夕食の時間は過ぎていった。
アレックスはフレデリックの言いつけ通りに、翌日の市内観光は取りやめた。
その日もまたギルバートや軍兵達と共にした午前中の鍛練が終ると、午後は宛がわれている自室で静かに読書をして過ごしたのだった。




