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異世界転生?いえ、元世界転生です!  作者: 剣原 龍介
青年の章

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第二十一話・オルランド伯爵家での日々②

 昼食を終えた後、アレックスはギルバートと共にポルトゥースの街の観光に出た。

 港町であるポルトゥースは、大きく分けて三つの港湾区画を持っている。

 それらは海岸線に接している第一外壁と第二外壁で区切られた形をしており、ポルトゥースの北側から順に軍港、商業港、漁港として機能している。

 アレックス達が最初にやって来たのは、そんな三つの港の内の一つであるポルトゥース南側の漁港だった。

 漁港につながる市場通りの入り口で、アレックス達は馬車から降りていた。

 そのまま、通り沿いに漁港へ向けて歩みを進めていく。


「さて、アレクサンダー君。漁港まで来てみたけれど、この時間帯になると漁港の方は人通りも大分疎らになって来るんだ。昼前には漁を終えた漁船が帰ってきてその日の市が立つのだけど、その賑わいも昼過ぎには落ち着いてしまうんだよ。今からだと、目につくのは漁を終えた漁師達が漁網を繕ったり漁具の手入れをしている所くらいしか見られないから、これと言って見る物もないと思うんだけれど……」


 ギルバートの言う通り、漁港から延びる市場通りは人も疎らで閑散とした雰囲気だった。

 海から吹き付ける潮の香の中に、微かに生臭い魚の匂いがするのは魚市の名残だろうか。


「そんなことはありませんよ、ギルバートさん。こうして歩いてみれば、そこに生活している人々の営みが良く分かります」


 市場通りを抜けて海側へと出ると、漁港の岸壁には多数の中小型の船が係留されていた。

 陸に上がった所では、漁を終えた漁師の男衆達が車座になって漁網の手入れをしていたり、女性達が魚を捌いて干し魚を作る作業をしているのが見える。


「へぇ、流石に王立アウレアウロラ学園初等部アウロラを首席で卒業しただけの事はあるね。良く物事を見ているよ。僕なんかは、そんな事が分かる様になるまでに随分と時間がかかったように思うけど……」


 アレックスを見遣って、ギルバートは小さく溜息を吐いた。

 アレックスはギルバートにその背を見せて、作業をしている人々を興味深く眺めていた。

 やがて、二人の前に海岸線へと突き出した城壁が見えてくる。

 城壁の海岸に突き出た先の海上には、円柱状の一際高い塔が築かれている。


「アレクサンダー君、あの塔が何か分かるかい?城壁の各所にある他の塔と比べると、一際高く築いてあるんだ。あれは、ポルトゥースの港の灯台設備を兼ねているんだよ」


 ギルバートに言われて、アレックスは城壁の先、海に突き出た塔を見上げた。

 昼間は見上げてもただの塔にしか見えないが、日が落ちればその様相が良く分かるのだろう。


「なるほど、そうなんですね。それで、この第一外壁の向こう側が商業港になるのですよね」

「そうだよ。それじゃ、今度はそちらに行ってみるかい?」


 ギルバートの提案に、アレックスは首肯した。


「えぇ、案内をお願いしてもよろしいですか?」

「ハハハッ、当り前じゃないか。そのために僕がついて来ているのだからね」


 漁港の端まで歩みを進めれば、高くそびえる第一外壁を見上げる形になる。

 外壁沿いは開けた広場となっている。

 灯台を望む眺望を目当てにしたのか、観光客と思しき人達が疎らに見えた。

 灯台を見上げれば、展望台と思しき場所にも幾らかの人がいるのが見て取れる。


「あそこに人が見えますけど、登れるのですか?」


 アレックスの疑問に、ギルバートはアレックスの指差す所を見上げた。


「そうだよ。灯台の下に観光客用の展望台があってね。灯台の上部は、衛兵用の見張り台と灯台の灯室になっているんだよ。見張り台から上には、流石に観光客は入れない様になっているけれど、その下の部分が観光客向けの展望台だね」


 それを聞いたアレックスは、灯台の下に目を向ける。


「あぁ、アレクサンダー君、残念ながらこちら側からは登れないよ。防衛の観点から、灯台の出入口は第一外壁の内側にしかないからね」

「そうだったんですか」


 アレックスとギルバートは、話しながら広場の一角へと向かう。

 そちらには、市場通りの入り口で二人を下ろした馬車が先回りして待機していた。


「それじゃ、この後は灯台の見学かな?」

「そうですね。是非、見てみたいです」


 そう言って、アレックス達は馬車へと乗り込む。

 そうして、ギルバートに行き先を指示された御者はゆっくりと馬車を発車させた。

 馬車は、灯台から少し離れた場所にある第一外壁の通用門を潜ると、その進路を再び灯台へと向ける。

 しばらくして馬車が止まったのは、先程までアレックス達のいた場所からは壁を挟んで反対側に位置する広場だった。

 そこは漁港側と同様に観光客が散策できる広場となっており、外壁と接続する灯台の下には小屋が建てられているのが見えた。

 小屋の前には、観光客達が行列を作っていた。

 それらは灯台を観光しようとする人々の列だ。

 その列を眺めやったギルバートが、アレックスを振り向いて口を開いた。


「さて、観光客が列を作っているけれど……」

「仕方がありませんよ。少し待つことになるでしょうが、大人しく列に並びましょう」

「えっ?いいのかい?僕達の名を出せば済むことだけど?」


 ギルバートの驚きの声を聴いて、アレックスは小さく微笑んだ。


「まぁ、確かに家の名前を出せば混雑していても関係ないのでしょうが、こんな事で家の力を振りかざしても名誉な事などありませんよ。それに、たまには庶民の様にしてみるのも面白いでしょう?」


 アレックスの言葉に、ギルバートは少し考えてから口を開いた。


「う~ん。そう言われたらそうかもね。確かに、今日は別に視察で来たわけでもないし……。急ぐ事でもないか」


 ギルバートは、そう言うと馬車を降りた。

 馬車から降りたギルバートは、御者に一言言付けてから灯台に隣接する小屋へと歩いていった。

 馬車を降りたアレックスも、その後に続く。

 二人が行列の最後尾に並ぶと、観光客達の間からざわめきが起こる。

 こちらを注視してくる人々に対して、ギルバートは落ち着く様にと手で合図を送る。

 ギルバートが再び落ち着くように手で示すと、列を作っている人々のざわめきは次第に落ち着いてきた。

 そうして列に並んだアレックス達は、少しずつ前へと進んでいった。


「なっ!ギルバート様!!そのようにお並びになられなくても、こちらに仰っていただければ……」


 列に並んだアレックス達が灯台下の小屋の前までやって来ると、観光客を整理していた係員の男性が驚きの声を上げた。

 苦笑いを浮かべたギルバートは、その係員を手を上げて制して声を掛けた。


「職務ご苦労。こちらはお忍びで来ているのだから、いつも通りにしてくれて結構だ」

「ハッ……、それは……、いえ、分かりました。それでは、どうぞ展望台からの眺望をお楽しみください」


 敬礼する係員に答礼を返しながら、アレックスとギルバートは小屋を抜けて灯台の中へと入っていく。

 灯台の中に入ると内部は螺旋階段になっており、展望台へと登る観光客と展望台から降りる観光客がすれ違う様にして行き来していた。

 長々と続く階段を昇れば、やがて開けた場所に出る。

 階段は上に続いていたが、そちらには柵が設置してあって登れないように規制されていた。

 ここから外に出れば、そこが展望台だ。

 展望台に出ると、青く澄み渡る海の景色が眼下に見える。

 それから、灯台をぐるりと囲むように作られた展望台を人波に沿って歩けば、ポルトゥースの街並みが一望できた。


「良い眺めですね。ポルトゥースの街並みが一望できますよ」

「そうだね、アレクサンダー君。ここより高い建物と言うと城の物見塔くらいだからね。僕も灯台に来るのは久しぶりだけれど、本当に街並みが良く分かる」


 アレックス達はしばらく街並みを眺めていたが、人の流れに沿って歩いていると程無く灯台の展望台を一周し終えた。

 そのまま、人の流れに沿って階段を降りる。

 階段を下りて外へ出ると、小屋の脇に馬車が寄せてきていた。

 アレックス達はそのまま馬車に乗り込んだ。


「この後は、どうする気だい?行きたい所があるのなら、そこへ行くけど?」


 ギルバートの問い掛けに、アレックスは少し考えてから口を開いた。


「市場通りの方は見ましたからね。今度は商店通りの方を見てみたいです」

「そうか。それじゃ、商店通りに向かおう」


 そうして、ギルバートは覗き窓から御者台の御者に声を掛ける。

 ギルバートの指示に従って、馬車は静かに広場を後にした。

 商業港の湾岸沿いの道には、海と向かい合う様にして倉庫がずらりと並ぶ。

 港に係留した大型の商船では、今もなお積み荷の荷下ろし作業をする人夫が忙しなく働いている。


「この辺りは、大きな倉庫が多いのですね」

「そうだね。大型の商船が行き来する都合で、荷物の積み下ろしや保管のためにこの辺りは大きな倉庫が並ぶ倉庫街になっているよ。目的の商店通りに行くにはこの港の中央まで行ってそこから街中に入っていくことになるかな」


 アレックスの疑問に、ギルバートが答えを返す。

 そうしている間にも、馬車は幾つもの倉庫から成る倉庫街を通り抜けて港の中心部へとやって来た。

 そこから角を曲がってしばらくポルトゥースの街の中心部へ向かって進むと、倉庫街を抜けて馬車が数台並んですれ違えるような広々とした通りに出た。

 その通りが商店通りと呼ばれており、商業港に接続するここから中心市街の城前広場までを貫く様に道が通っている。


「アレクサンダー君、どこか見たいお店はあるかい?」


 ギルバートの問い掛けに、アレックスは頭を振った。


「はい、いいえ、ギルバートさん。これというお店があるわけではありません。ですから、街並みを眺めながら散策してみたいと思います」

「そうか……。それじゃ、ここから降りて歩いてみようか。商店通りでもこの辺りは貿易関連の店が多いから、何か気になるお店があったら入ってみると良いよ」


 そうして、通りに入る位置にある広場で馬車を止めたギルバートとアレックスは、揃って馬車から降りた。

 商店通りは人通りも馬車の往来も多く、ポルトゥースの街の賑わいをしっかりとその目に見せつけているようだった。


「それでは、ギルバートさん。とりあえずは街の中心に向かって歩いてみたいと思います」

「あぁ、それで構わないよ」


 通りを進むと、間口の大きな商店が幾つも立ち並んでいるのが分かる。

 軒先の様子を窺い見れば、この辺りは舶来品を多く取り扱う商店が店を出しているようだった。

 そうしてアレックスが店をのぞきながら通りを進んでいくと、何軒か先の商店から我先にと人が飛び出してくるのが目に入った。


「きゃぁ!」


 アレックスの耳に悲鳴が聞こえてきたのは、そんな時だった。

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