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44 エドガー卿と養子縁組、そして娘に。


契約の準備があると、陛下とアディック卿は部屋のすみにある階段を降りていった。


この下は国の歴史書や契約書など、国王が管理する重要な書類や書物がおさめられた書庫になっているらしい。


書庫に降りる前にアディック卿が私たちのお茶を入れ直し、エドガー卿の分のお茶と3段重ねのケーキスタンド、そしてホットサンドの乗った皿を1人分ずつ新たに準備してくれた。


ホットサンドの中身は鳥のハニーマスタード焼きっぽいものとスクランブルエッグ、キャベツとトマトとクレソンの様なものが挟まっていて、とてもボリューミーだ。


あのザイル殿下じゃないけど、お茶ばかりでお腹が空いていたのでホットサンドがとても美味しい。


「うん、やはりアディック卿のサンドイッチはうまいな。ここに来たものしか食べられないのが残念だ」


「え?これアディック卿が作ったんですか!」


「すごいですね。てっきり城の料理人が作ったものかと……」


アンバーくんとシャロッツが手にしたホットサンドを見つめている。


「この執務室にはいれるのは陛下が許可したものだけだからな。料理人は入れぬ。それに忙しい陛下に提供するにはここで作るのが一番良いのだそうだ。ほら、そこの奥にキッチンがあるだろう。簡単なものならあそこで作っているのだ」


「あ、だからこのホットサンド温かいんですね」


温かいものを食べることがもとの世界では当たり前だったけど、電子レンジなんて無いこの世界では普通じゃないよね。


「魔法で温めることは出来るが、持ち運び中の毒の混入や衛生管理、保管などの手間を考えれば効率が悪いのだ。それにアディック卿は料理がうまい。この執務室以外ではあまり作らんのだが、私はアディック卿の料理が好きなのだ」


「確かに、このホットサンド絶品ですね。お肉の味付けが最高です」


「そうだろう。私もこの味付けの肉が大好きなのだが、アディック卿のレシピは誰も再現できんと噂されていてな。私の屋敷にいる料理人にも挑戦させたのだがダメだったのだ……」


「え、これそんなに難しいんですか?」


アンバーくんがひと口サンドイッチをほお張る。


「これは、鶏のベリエット焼きでしょうか。しかし、普通のベリエットの味とは違いますね。何が入っているんでしょう……」


口元に手を当ててサンドイッチとにらめっこを始めてしまった。


「アンバーくん、ベリエット焼きって何??」


私がたずねると顔をあげて答えてくれた。


「ベリエット焼きは蜂が集めた蜜と何種類かの香草や香辛料なんかで味付けした鶏のモモ肉を焼いた料理の名前だ。普通は養殖された鶏を使うんだが、このサンドイッチの肉は多分野生の鶏だと思う。肉がよく引き締まっていて味が濃いから」


マスタードみたいな味と蜂蜜。多分ハニーマスタードチキンだ。


「アディック卿のベリエット焼きは普通のものに比べて甘酸っぱさとわずかな苦味があるのだが、それが香辛料の辛味をより際立たせて立体的な味にするのだ。それにベルモア卿の言ったとおり、肉は野生の鶏だが肉質が野生のそれとは違い柔らかい。他にはできんアディック卿ならではのレシピなのだろう」


「へー、それはすごいですね」


アディック卿のサンドイッチを感心しながら食べていると数枚の筒状に巻かれた用紙を持ったアディック卿と陛下が戻ってきた。


「おお、アディックのサンドイッチか。どうだ恵梨香、旨いだろう?」


「すっごく美味しいです。これ、ベリエット焼きって言うんですよね。肉が柔らかいのに皮はパリッとして……。もしかして2回焼いてるんですか?」


「おや、わかりますか」


「私もよく料理するので。私が作るときにはママレード……柑橘系の果物の皮を砂糖で煮たものを塗り込んでから1回お酒で蒸し焼きにするんです。それからハニーマスタード、ベリエット焼きのソースを塗って多めの油で揚げ焼きにした後、ソースをかけると肉は柔らか、外はパリパリになるんですよね」


「そ、そうです•••。まさか私のレシピを当てられるとは」


「ハハハ、城の料理人がわからなかったレシピを1度食べただけで言い当てるとはな」


驚いた様子のアディック卿の肩を陛下が笑いながらバシバシと叩いた。


「恵梨香!」


「え、エドガー卿?」


ガッと勢いよく立ち上がると私の肩をガシッと掴む。


「ありがとう。私の娘になってくれて。奇跡だ。これは奇跡だ」


ブツブツとありがとうとつぶやくエドガー卿の声がなんとなく涙声になったような気がした。


「えっと、こちらこそよろしくお願いしま…す?」


「恵梨香、私の家に来たらぜひアディック卿のレシピを再現してくれ」


「お待ちくださいエドガー卿」


「なんだアディック卿。レシピを盗まれるのが不満か?」


ニヤリと笑うエドガー卿に咳払いをして答える。


「そうではありません。恵梨香様はエドガー卿の養女になるのですよ。あなたの食欲の為に、恵梨香様に下働きの様なことをさせるのであれば…」


すうっと細められた目にゾットするような殺気が宿った。


視線はエドガー卿を捉えていてこっちを見ていないのに、その殺気は私の背筋を凍らせた。


「そんなことはさせんよ。料理人にレシピを教えてもらうだけだ。私は恵梨香を便利に使う気はない。恵梨香が望むことを全力で後押しするつもりだ」


「あなたは恵梨香様を養子に迎え後継人になるのですから当然のことです」


バチバチという音が聞こえそうな二人をなんとか止めに入る。


「え、えっと。養子縁組!手続きするんじゃなかったんですか?」


「アディック、エドガー。そのへんにしておけ。恵梨香が困っているだろう」


「恵梨香様。もしエドガー卿に無理強いされるような事があればすぐにお知らせください」


真剣なアディック卿の眼から視線をそらしつつ私は笑ってごまかした。



アディック卿が書庫から持ってきた書類を机に広げてすごい速さで色々と書き込んでいく。


あっという間に書き上げると、私とエドガー卿の前に差し出された。


「お待たせいたしました。こちらは養子縁組の契約条項です。養子縁組後にお互いの生命を守る為のものです」


読んで見ると確かにそんな内容のことが書かれていた。


簡単に読むと、


1、親子間での傷害禁止。相手が死んじゃうような怪我をさせようとすると、被害者はこの書類があるこの城に転移して、加害者は捕縛魔法で捕まるんだって。


2、搾取の禁止。相手の心が深く傷つくような事をすると、加害者に呪いがかかるらしい。


基本的に死にそうになるほど追い詰めるような事をすると防御魔法が発動するって感じかな。


私達が確認してアディック卿に書類を返す。


その書類を今度は陛下が確認して、手をかざすと書類の上に輪っかが浮かび上がった。


よく見ると細かな文字がびっしりと書かている。


多分、魔法陣とか言うやつだと思う。


「では、これより養子縁組契約を行う。親がアレン・エドガー。子が恵梨香。双方異議がなければこれに手を乗せよ」


陛下が言い出すと魔法陣が青い光を放ちだした。


私達は書類に手を乗せた。


すると、体が一瞬ダルくなったがすぐに元に戻った。


青い光が強く光ると、今度は白い色に変わった。


「契約は無事済んだようだ。この養子縁組契約、デオドラ・ウォーブ・ヴァンクリールが承認した」


ご苦労だったなと陛下に声をかけられ、書類から手を離す。


なんだか体が熱いような気がしていると、アディック卿が冷たく冷やされた水を私に手渡してくれた。


この世界の養子縁組の中には、書類上だけの繋がりではないものがある。


今行った契約は養子縁組契約の中でも最重要の契約。


契約した親の遺伝子を子に移植するというものだ。


さっきの倦怠感は、私の血の一部を書類の魔法陣が吸い取って、エドガー卿の血の情報と混ぜ合わせて体内に戻すときに起こるものらしい。


血そのものを混ぜる訳では無いから、血液による病気にはならないけれど、エドガー卿とは血の繋がった親子になった。


魔法ってすごいな。


「なんか体が熱いのも、契約したからですか?」


「いや、それはエドガー卿の体温が高いからだろうな。そのうち慣れるだろう」


「そうですか」


本当に血が繋がったんだ。


この世界に血が繋がった家族ができたと思うと、涙が流れてきた。


「え、恵梨香。なぜ泣く? 養子縁組がそんなに嫌だったのか?」


涙が止まらない私を、みんな覗き込んで心配してくれている。


それがまた嬉しくて、もっと涙が止まらない。


アンバーくんがハンカチをくれたので涙を拭った。


「すみません。嬉しくて。この世界に、家族ができたと思って…。エドガー卿、これからよろしくお願いします。あ、お父さんって呼んだほうがいいですか?」


養子縁組したんだから、そう呼んだほうがいいのかな。


「はははは!無理はするな。普段はアレンでいい。公の場では、義父ちちと呼んでもらうことになるが、そう難しく考えなくていい。これからよろしく頼む、恵梨香」


お久しぶりです!

やっと投稿出来ました。


またぼちぼちやっていきますのでよろしくお願いします。

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