45 ダチェットのお使い、お家に行こう!
「さて、もう疲れただろう。今日はこれで終わりにしよう」
私の涙がおさまり、アディック卿が新しく淹れてくれたお茶を皆で飲んだあと、陛下が言った。
確かに今日はいろんなことがあってヘトヘトだ。
窓の外も夕陽で真っ赤に染まっているし、そろそろ帰りたい。
あれ? 帰るのってどこに帰ったらいいんだろう? それに、帰る前に有紗に会っておきたいし。
「あー、もう重かった!」
ばん!と勢いよく扉が開かれ、ドカドカと大荷物の人物が入ってきた。
大量に抱えていた荷物を床に置くと、出てきたのはダチェットだった。
「お疲れ様でした。遅かったですね」
アディック卿が冷たいオレンジジュースを差し出すと一気に飲み干す。
「っ、あー。生き返った。ごっそーさま。聖女様のお付きしろっていうから付いてったけど、やばい」
「有紗になにかあったの?」
「昼から付いてったんだけど、モーラ様のお茶会全部に連れてかれてた。15ものお茶会ハシゴした。今日は顔見せだったみたいで、次々行ったからすぐに終わったけどな。その後買い物だってモーラ様があらかじめ呼んでたドレスの仕立て屋と宝石商、その他の雑貨商と後宮のモーラ様の部屋で買い物。付いてくだけでくたびれたっっての」
「それは、大変だったね」
「んで、これは恵梨香の分」
そう言って指差したのは、ダチェットが持ってきた荷物の山。
「陛下がな、有紗が買い物したらおんなじくらいの金額でおんなじもん買ってこいって」
ってことは、これ有紗が買い物したものってこと?
「ご苦労だったなダチェット」
「まさかこんなに購入するとは思っていなかったので。一人で運ぶのは大変だったでしょう」
陛下とアディック卿がしげしげと山を眺める。
「恵梨香、見てみろ」
手招きされたので皆で山を見に行く。
ドレスが5着に指輪やイヤリング、ネックレスなどが入ったジュエリーボックスが2ダース。
高級感あふれる化粧品やお菓子などがたくさんあった。
「私の分って、こんなに貰えないよ」
「遠慮すんな。陛下の金だから」
「ああ。そうだな」
「いや、貰えませんよ!」
3人でやる!貰えない!と言い合っていると他の皆も貰っておけと言い出して、私はありがたく受け取ることにした。
有紗が貰っているのに私にはなしというのは良くないらしい。
正直言うと、どれも私好みのデザインだったのでとても嬉しい。
「気に入らなけりゃ交換もできっから」
「いや、めっちゃ気に入った。ありがとう。陛下、こんなにたくさんありがとうございます」
私があらためて二人にお礼すると、陛下が手を上げて笑う。
「欲しいものがあればいつでも言ってくれよ。なんでもとはいえんかもしれんが、可能な限りは用意しよう」
さすがにこれ以上はと言ったが、荷物を眺めていたカルラに「もっと買ってやれ」と言われた。
「恵梨香はヘルマ様の加護があるだろう」
「ヘルマ。ヘルマプロディー神の加護か!
それではなおのこと、恵梨香には買ってもらわんとな」
「え?なんで?」
「それは素晴らしいですね。恵梨香様、ぜひともたくさん買い物をしてください」
「アディック卿?」
「恵梨香は金の女神に愛されているのか。恵梨香、帰ったら我が領地の特産品を買いに行こうか。肥沃な土地でうまいもんがたくさんあるぞ」
な、なんかみんなギラギラした目でこっちを見ながら悪い顔になってるんだけど。
「アレンさんまで。アンバーくん、アンバーくん。これどういうこと?」
「はぁ。皆様、無礼を承知で進言いたします。あまり欲にかられるのは女神に失礼かと」
アンバーくんの言葉に悪い大人たちはハッとして私に謝罪してきた。
「恵梨香、金の女神ヘルマプロディー様は商業も司っているんだ。女神の加護がある恵梨香が身に付けたり、欲しがったりするものはその加護でよく売れるんだよ」
「あー、そういう。まぁ、お世話になるんだし、私が役に立てるんならなんでもいいや」
「本当か!やったぞ!」
「はしたないですよ、陛下。ところで恵梨香様、交易品に興味はありませんか?」
「なに、金はいくらでも出す!なんでも買うといい!……いや、なんでもというのはちょっと言い過ぎた。領地の特産品を中心に買ってくれ!」
大はしゃぎする大人を横目に、アンバーくんとシャロッツが大きなため息をついた。
「恵梨香…」
「恵梨香様のそういう気前がいいところがヘルマプロディー神の加護に繋がったんですかねぇ」
いや、遠い目をしないでください。なんか間違えた気分になる。
「も、もうその話はそれぐらいで!」
「いい年こいたおっさんがはしゃぐんじゃねーよ。キッモ」
「「「………」」」
ドン引きしていたダチェットの一言で正気に戻ってくれたようだ。
「そうですね。恵梨香様、失礼しました。今後の予定でしたね。エドガー卿との養子縁組も済んだことですし、今日からエドガー卿の屋敷に移ってはいかがでしょう?」
「え、いいんですか?急にお邪魔しても。その、準備とか」
「前もってお伝えしてあるので大丈夫ですよ。ですよね、エドガー卿」
「ああ。恵梨香の部屋は用意ができている。それにな、お邪魔ではない。今日から恵梨香は家族なのだから、家に帰るのは当たり前だろう」
ニカッと笑うアレン義父さん。
ヤバい、ちょっとカッコイイ。
「お世話になります。ありがとう、アレンさん」
「家についたら他の家族も紹介しよう。皆、恵梨香に早く会いたがっていた」
他の家族。
そっか、アレン義父さんの家族も私の家族になったんだ。
「では、そろそろ行くか」
アレン義父さんが手を差し出す。
「あ、有紗に会ってから行ってもいいですか?」
明日もお城には来るけど、あいさつしときたい。
そう思ったが、陛下とアディック卿が首を横に振った。
「申し訳ありませんが、有紗殿にはこの後も用があり、お時間が取れそうにありません」
「そうですか…」
聖女として色々やることがあるんだろうな。
「すまん。恵梨香」
「いえ、また明日会えると思うので大丈夫ですよ」
「そうだな…」
「で、この荷物はどーすんの?」
ダチェットがベシベシと荷物の山を叩いた。
「そうだったな。まずはドレスなど今日いる分を持って帰り、残りはアレンの屋敷に送ってはどうだ?」
「えー、その送るのって俺っすか?陛下」
「もちろん」
「えー!」
山と陛下を交互ににらみながらダチェットが文句をいう。
重たそうな荷物の山だし、ちょっと気の毒だと思っていると、カルラがちょんと荷物の山に前足をかけた。
すると荷物の山の下に黒い影が拡がり、一瞬で山を飲み込んだ。
「カ、カルラ。何したの?」
「持っていくのだろう?我が運んでやる」
フフン、と得意そうに言うカルラを見て、ダチェットが震える声で言いました。
「今のは…空間魔法ってやつ!?闇の魔力を持つものだけが使えるって伝説の!!」
「で、伝説?」
空間魔法っていうのは知らないけど、アイテム収納はゲームでよくあるよね。
ゲームとかあんまり詳しくないけど。
「まぁ、空間魔法は使えるものが少ないだろうな。我にとっては呼吸に等しいことよ」
「カルラ様!ぜひ研究させてく…ださい!」
がばぁっとカルラに抱きついてダチェットがお願いし始めた。
最初はすごく嫌がってたけど、ワシャワシャと全身を撫でるダチェットの撫でにだんだん気持ちよさそうな声になっている。
「お願いしますよぉ、お願いしますよぉ」
「う、ええぃ!わかった!わかったからもうやめよ!」
とうとう根負けしたカルラが研究に付き合うことになったみたい。
ダチェット、陛下ですらカルラのこと結構慎重に対応してるみたいなのに、凄い。
「さぁ、そろそろ屋敷に帰るとするか!」
「はい。アンバーくんたちはどうする?一緒に行く?」
「いや、俺たちは神殿に報告があるから領地に戻る。また明日、恵梨香」
「そっか。じゃ、また明日ね!」
陛下たちにお礼を言って、私はアレン義父さんと、屋敷に向かった。
やっとお家に向かいました。
次は家族とご対面です。恵梨香ちゃん、緊張してます。
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