25 朝食。後
カルラはヒラリといすのうえに飛び上がる。
カルラは狼だが、カトラリーのセットまでしてあり、ちょっと笑ってしまった。
私もメイドさんの引いてくれた席に着く。
メイドさんたちは私たちが席に着いたのを確認すると、すぐにワゴンから料理をサーブしてくれた。
「バッシカとアリムのサラダです。どうぞ」
出されたお皿には水菜と玉ねぎのような野菜がドレッシングがかかっている。
カルラの前にも同じサラダが置かれた。
それをみて、ふと思った。
「カルラって、玉ねぎ食べて大丈夫?」
私が聞くと、何を入っているんだというあきれ顔をした。
「玉ねぎというものがなにかは知らんが、我は何でも食べるぞ?神々も食事はする。まぁ、嗜好品の域だがな」
「そうじゃなくて、犬科って玉ねぎとかダメなんじゃ……。いや、カルラは普通の狼じゃないから大丈夫なのかな?」
「何をぶつぶつ言ってるんだ。それより、2人で話したいことがある。メイドどもを下がらせろ」
「ちょっ、カルラ!……すみません、ゆっくり食べたいので、その……」
失礼のないよう言葉を選んでいると、私の気持ちを察してくれたのか、メイドさんたちは全ての料理をお皿盛ってテーブルに並べてくれた。
「ご朝食は以上です。では、私どもは失礼いたします。御用がございましたらこちらのベルをおならしください」
「ありがとうございます」
金の小さなベルをテーブルに残し、メイドさんたちは部屋を出ていった。
「カルラ、もうちょっと言葉に気を付けないと。メイドさんたちが傷付くようなことしちゃダメ」
私が注意するとカルラはフンと鼻をならした。
「あいつらには我の声は聞こえてない」
「え?」
「我の声はあいつらには鳴き声のように聞こえている。私は基本的に恵梨香以外にはそう聞こえるようにしている。だから恵梨香も気を付けろよ。さっきみたいに我としゃべると、変な目でみられる」
「嘘!」
「それと、これも黙っていてくれるか?」
「何を……」
カルラを見ていると、徐々にカルラの体のまわりに濃い紫色のモヤがではじめる。
そのモヤに体を包まれると、全体が大きくなっていく。
「カ……カルラ……?」
しだいにそのモヤが晴れ始める。
そこには、色黒の長身の男性がカルラの座っていたイスに座っていた。
真っ白な服が、小麦色の肌によくにあっている。
「え……?」
「これも黙っていてくれ。さぁ、スープが冷める。腹が減った」
とても驚いたが私もお腹が空いたので、食べ始めた。
「人間にもなれるなら、玉ねぎも大丈夫なはずだ……」
しゃきしゃきなサラダを食べながら呟いた。
「恵梨香、今日の魔力量の測定だが」
「うん?」
「今からダチェットがここに来る。すぐに済むからがんばれ」
カルラの言葉に私は立ち上がって驚いた。
「ちょっと待って!今から来るの?ここに!?」
「ああ、食べ終わった頃に来るといっていたからな。今日は時間がないらしいから、急いでいると言っていた」
そういうのは早く言って欲しかった。
これはのんびり朝ごはんを食べている場合ではない。
「食べ終わる頃って言ってたんでしょ?なんで今から来るの!?」
「それは準備に時間がかかったからだろ。外に用意させたり、給仕を先におえさせたり」
そういえばそうだ。
普通に朝食を取っていれば、時間はあったんだろう。
だが……。
「そんな予定があるんだったら、外にしたりとかややこしいこと言わないでよ!」
「ふん。人間の都合など我には関係ない。恵梨香も座れ。まだ途中だぞ?」
「そんなわけにはいかないよ!早く用意しないと……」
私が席を離れるのを見て、カルラは不思議そうな顔をしている。
そんなカルラはほっておいて、とりあえず服を着替えなければ!
今着ているのは、この部屋に来たとき部屋にあったワンピース型の寝間着だった。
メイドさんが来たから着替えるタイミングを失っていたのだ。
さすがに寝間着で男性に会うのは気が引ける。
しかし、今まで着ていた制服はカルラに破られてしまったし、どうしようかと辺りを見回すと、衣装ダンスようなものが目にはいった。
そのタンスを開けてみる。
中にはたくさんのドレスが入っていた。
「カ、カルラこれって借りてもいいのかな?」
「デオドラはこの部屋のものは好きに使っていいと言っていたぞ」
「そ、そう……。じゃあ、ちょっと借りよう」
私はドレスの中から、あまりフリフリではないすっきりしたシルエットのドレスを選んだ。
急いで部屋のスミで着替え始める。
だが、背中のところにある止め金具がうまくいかない。
一生懸命腕を後ろに回しているとノックの音がした。
カルラから見えないように部屋のスミにいたが、部屋の入り口からは丸見えになったしまう位置だ。
まだちゃんと服を着ていない。
「あ、あのちょっと待って……」
「恵梨香、入るぞ」
入り口の扉が開いた。
恥ずかしくて目を閉じた私に、ふわりと布のようなものが覆い被さった感触があった。
「恵梨香、魔力量の測定だが……」
「ベルモア卿。女性の部屋をいきなり開けるのは失礼ですよ!」
「いきなりではない。ちゃんとノック……貴様!何者だ!」
「あ、あなたはいったい……?」
え?アンバーくんとシャロッツ?
「恵梨香とは取り込み中だ。少し外で待て」
声が近い。
どうやら私を隠してくれているのはカルラのようだ。
「な!そこに恵梨香がいるのか!恵梨香を放せ!」
足音が近づいてくる。
私はあわててアンバーくんを止める。
「ア、アンバーくん。ごめん、ちょっと今あの、あれ。困ったことになってるからちょっと外で待ってて」
「恵梨香!大丈夫か!今助ける!」
「恵梨香様、ご無事ですか!この者は恵梨香様のお知り合いですか?」
もしかして、変質者に襲われてると思われているのか?
ちゃんと説明すれば大丈夫かも?
でも、カルラのこの姿のことは口止めされてるから……。
「アンバーくん、シャロッツ。この人は私の……大事な人なの!だからちょっと外で待ってて!」
「なっ………」
「恵梨香様……」
何故かアンバーくんとシャロッツの息を飲む声がして、カルラが面白そうに笑いをこらえている音がする。
「そ、そうか……。すまない、俺は……外にいる」
先ほどまでとは全く違う、ふらふらするような足音が遠ざかっていく。
「ベルモア卿、だから言ったんですよ。恵梨香様、失礼いたしました」
パタン、と扉がしまる音がすると、カルラが布を取ってくれた。
布はベッドのシーツだった。
てっきり私だけを隠していたと思っていたが、カルラは自分ごと包んで顔だけ出していたようだ。
これは、見ようによっては大変な誤解を生みかねない状況ではないだろうか。
「カルラ。これって大丈夫なのかな?」
「なにも問題ない。ほら、後ろを向け。とめてやろう」
私が背中の止め金具をとめてもらうと、カルラは狼の姿に戻った。
「これで問題なかろう。聞かれれば、神だったとでも言えば文句もなかろう」
カルラのアイデアに感心する。
「そっか。神様だったらいいか!」
私が頷いているとカルラはニヤリと笑った気がした。
「とはいえ、あまり待たせては疑われてしまう。そろそろ声をかけた方がいいぞ?」
「そ、そうだね。アンバーくん、シャロッツ、お待たせしました」
扉を開けると、しおしおになったアンバーくんと苦笑いのシャロッツがいた。
「お、お待たせ」
「恵梨香様、お取り込み中に大変失礼いたしました」
シャロッツの言葉にアンバーくんがビクッとなった。
「そちらの方……。あれ、おられませんね?恵梨香様、先ほどの方はどちらに?」
シャロッツが部屋を見渡す。
「えっと、あの人は神様だそうです。カルラに用があってちょっとよったとか……。もう帰ってしまいました」
私がそういうと、アンバーくんに少し元気が戻った。
「じゃあ、さっきのは?」
「む、虫がいて!怖がっていたのを、見えない様にして助けてくれたの」
「じゃあ、何の関係もない……?」
こくんと頷くとアンバーくんは完全に元気を取り戻した。
「そうか!ならいいんだ。さて、恵梨香。すまないが、今日は時間がなくてな。朝早くに申し訳ないが魔力量の測定をさせてくれ」
アンバーくんはシャロッツに準備をするように伝える。
シャロッツはなにやら色々と机に並べていく。
「魔力量の測定って何をするの?ここで出来るの?」
「魔力量の測定は簡単だ。血を一滴この瓶の液体に混ぜる。すると色が変わるから、その色の違いで量を計るんだ」
そういってアンバーくんが机にあった手の平くらいのおおきさの瓶を手に取った。
それには真っ黒な液体がなみなみと入っている。
「液体の色は黒、緑、青、赤、黄色、と変わるのですが、その色の澄み具合や濃さなどで魔力量の多さが分かるのです。さぁ、準備が出来ました。少し痛いですが、我慢してくださいね」
シャロッツが私の指先に綿のようなものを当てる。
ツンとした匂いがしたので、おそらく消毒だろう。
そのあと、注射器のような筒を私の指に押しあてた。
画鋲が刺さったような結構な痛みがはしる。
筒のさきを瓶の方へ持っていく。
筒から血がポタッと落ちた。
するとどんどん液体の色が変わっていく。
血の色は変わらず、液体とも混ざらずに丸い形になり沈んでいく。
血の周りの色がどんどん透明になる。
最後は透明な液体のなかにスライムみたいな私の血が残っているという不思議な感じになった。
誰もしゃべらないので、私は聞いた。
「これって、またやっちゃった感じ?」
カルラ変身できたんです。
恵梨香ちゃんはまたもややらかした?
次話は有紗の結果と、今後についてです!
ブクマ、評価ありがとうございます!




