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61話

よろしくお願いします

数日後、魔王に呼ばれて沙久羅達は魔王との謁見の間に来ていた。

「そなた達に伝言が来ている。早く帰ってこい。だと」

魔王は楽しそうに言った。

「できるだけ早く帰りますよ」

耀がにこやかに答えた。

時々耀が魔王に呼ばれて何か話していたことは知っていたが、大分打ち解けているようにも見えるのに、なぜか時々耀がやさぐれている時がある。どうしてだろうと沙久羅は思うものの、なんだか聞いてはいけない気がして今まで聞いてはこなかった。

今も何だか耀の言葉は棘があった。

「時に沙久羅、美奈とはもう良いのか?」

突然振られて、驚きながらも沙久羅は頷いた。

「はい、美奈とはたくさん話すこともできました。やはり寂しいですが、美奈はここに居場所がある。私ではここにずっとはいられないから、美奈をお願いします」

沙久羅は数日前に語ったことを伝えた。

「美奈もそれでよいのだな?」

魔王の膝の上で静かに佇んでいた少女は大きく頷いた。

『私はここに居場所を見つけてしまいました。それに私がいなくなったらあなたはまた一人になってしまうでしょう?』

その場にいる者の頭に響く声が美奈の声なのだとそこにいる者はわかっていた。相変わらず、美奈の声は戻らず、下肢の動きも見せてはいなかったが、以前より努力をしているためか、やや言葉が出るようになってきていた。下肢の動きも少しずつ戻りつつある。

魔王の話では呪いをかけていた元凶がいなくなったことで戻ってきているのだろうとのことだった。だが、長い間使っていなかった声帯も下肢もすぐには回復できるものではなかった。

『沙久羅、あなたが私の希望なのは昔も今も変わらない。どんなに離れていようとも、私はあなたを見守っているわ』

笑顔で言うその瞳には大きな雫が今にも零れんばかりに浮かんでいた。

「泣き虫は変わらないなぁ、美奈は」

沙久羅は努めて明るく言った。

「向こうへの門ができ次第、帰ります。楽しかったですよ、魔王」

耀も笑顔で言った。

「まあ、いつかはまた会えるのだ。それほど悲しむことはない」

魔王は今までにない笑顔で言った。長い時を生きて笑うことさえ忘れた日々は終わりを告げ、魔王の本来の笑顔がもたらされたと同時に日の光が差してくるようになった。まだほんのひと時の間の事だが、魔界にとっては大きな変化だった。

「この世界も大きく変わっていく。美奈にはそれを見届けてもらわねばならん。我が伴侶としてこれからは忙しくなってゆくぞ」

魔王の大きな手が美奈の小さな頭を撫でた。美奈は嬉しそうに頷く。


良かったね。


沙久羅は心の中で祝福した。人界での過去は美奈にとって苦痛以外の何物でもなかっただろう。だが、ここにきて最初は同じだったかもしれないが、徐々に魔王と打ち解け、自らの居場所を見つけられている。悲しいけれど、沙久羅の傍は居場所ではなかったのだ。

「悲しむことはないんじゃないか」

耀が隣で小さく呟いた。

「これからここは変わっていく。ここが変われば、俺たちの世界とここは行き来できるようになるかもしれないじゃないか。可能性は思っていても良いと思う。それに、お前の体質ならすぐにでも可能だろ?」

耀の言葉に沙久羅は大きく頷いた。

「そうだね。そうだった。悲しむんじゃなくて、喜ばなくちゃ。だって、良いことだったんだから」

沙久羅は嬉しそうに頷くと、耀を見上げた。

「ありがとう、耀がいてくれたから私はここまで頑張れたんだ。私だけだったら、絶望感に打ちひしがれてここまでの事はできなかったと思う。こうして立つことも、耀に会う努力もしなかった。だから、本当にありがとう」

沙久羅は笑顔で礼を言った。

「俺こそ、ありがとうだな。沙久羅がいなかったらこの忌まわしいと思っていた能力を切り捨てることしか思わなかったと思う。これからも俺の傍で道標になってくれないか?俺は沙久羅がいないと道を見失ってしまうようだから」

耀は沙久羅を真っ直ぐに見つめて言った。

その真剣な表情に沙久羅は一気に体中の体温が上昇するのを自覚した。

「…あ、あの、それって……」

しどろもどろになりながら沙久羅はあわあわと慌てふためきながら耀に聞いた。

「これでも告白しているつもりなんだけどな。まだ俺たちは子供だから本当に約束だけだけど、必ず沙久羅を幸せにするから」

最初は照れたように言っていたが、最後は真剣に沙久羅を見つめていた。

「……うん、これからもお願いね」

沙久羅はそういうと手を差し出した。まだ子供だし、大人のようなことはできないけれど、きっと自分は耀と離れることはしないと思う。


もう、幸せを考えても良いんだよね?


自分に質問する。美奈を失った悲しみを今は後悔だけで終わらせることはない。自分にかかわったものを不幸にすると思い煩わなくて良い。

「さあ、帰ろう。みんなが待っているよ」

耀の差し出した手を今度はしっかりと繋いで沙久羅は歩き出した。



終わり。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

それではまた別のお話もお願いいたします。

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