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52話

よろしくお願いします

「ぎゃぁぁ」

耀に薙ぎ払われ、数人の魔族が絶命した。

『もうすぐだ』

イヴァーレは先を示したが、見えるのは魔族の固まっているところだけ。


どれだけいるんだよ。


耀は肩で息をしていたが、呼吸を整えて、また走り出す。

手に握られた大剣は魔族の体液で黒く変色していた。

「なっ…にんげ…」

「大きな声は出さないでもらいたいな」

耀はそういうと目の前に現れた新たな魔族を大剣で薙ぎ払った。その勢いで両断された魔族は声も上げずに絶命する。

『この先の大きな扉の中にいる』

イヴァーレが指し示す場所にはさらに魔族の塊が今にもその大きな扉を壊さんとしているところだった。そこから見えるのはかなり薄くなっている結界のような膜が張っているところに魔族が群がってこじ開けようとしていた。

「このままでは…」

耀は綻びかけているその膜を見ながらイヴァーレから能力を分けてもらう。

「俺が突破するまでで良い、あれを強化してくれ」

そういうと耀の手から闇の能力が解放された。

「あれなら、俺の闇の能力と近いみたいだからな。何とかなるだろ。……イヴァーレ、行くよ!」

『わかっている』

耀の手に握られている大剣はいつの間にか黒く変色し、鈍い光から光沢のある美しい剣になっていた。

『魔族を斬ることで本来の能力に目覚めたようだな』

イヴァーレは耀の耳には聞こえないように小さく呟いた。

闇の能力を持つものは覚醒することはまずないと言っていい。魔族とやり合うことがないことがほとんどだから仕方のないことなのだが、珠を持つものは最初から覚醒しているし、持たないものはほとんどが闇の能力に先に押しつぶされてしまうことが多かった。

イヴァーレはその当主たちを幾人送って来たのかわからない。闇の能力に翻弄され、心が壊れていくのを間近で見ていなければならなかった。それが闇の精霊王となった自分の役目だった。


「俺はもう大丈夫だと思うよ」


ふと、娘を連れ去られた後に耀が言った一言が思い出された。


七家のものが揃い、会議をした後に自分の家に帰る途中にふと立ち止まって空を見上げて、耀はそういったのだった。

「俺はもう闇の能力に恐れを抱くことはないし、心が壊れることはないよ。だから、安心して俺を見守っていてくれ」

耀は大切な娘を目の前で連れ去られ、本当ならば今すぐにでも助けに向かいたい気持ちなのは見ていなくてもわかったが、そこを我慢して言うその言葉の裏にどれだけの覚悟があったのだろうか。

精霊であるイヴァーレにはわからない人の想い、心の強さというものをほんの少し垣間見ることができた。人は有限の生き物であり、他の生き物にはほとんど見られない感情というものに大きく左右され、脆く、儚い存在としてイヴァーレには映っていた。だが、耀を見ていると妻であるハスティアが言っていたことが少しだけわかった気がした。


人とは強い生き物なのだな。


人と接してきて初めて好ましく思えた。初めて会った時にはすぐにでも折れてしまいそうな弱い心でいた少年がたくさんの人と接していくことで強くしなやかに育つのだとわかった。彼女が人とのかかわりをやめようとしないのを今になってわかったような気がする。


今になって気づいたの?


ハスティアの呆れた声が耳元で聞こえてきそうだ。この戦いが終わったら、彼女とゆっくり話をしようか。では、まず目の前の事を片付けないとならないな。

苦笑して耀に支持された結界の補強から始めることにする。

「行くよ、イヴァーレ」

耀の声にイヴァーレも物思いから帰ってきた。

『任せておけ、帰ったらお茶を入れてもらうことにするかな』

イヴァーレの言葉に心底驚いた表情を向けた耀は次には笑顔で頷いていた。

「美味しいお茶をご馳走するから、ここを手早く片付けよう」

耀も嬉しそうにそう答えて、目の前に立ち塞がる魔族の者達を薙ぎ払っていったのだった。

ありがとうございました

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