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50話

よろしくお願いします

「お二人とも、私の前に出てはなりません」

ラティアはそういうと封印の魔法陣を幾重にもかけ、二人の前に立ち、短剣を握った。

『ラティア、ダメだよ。私を狙っているのでしょう?あなたは沙久羅を連れて逃げて。あなたはもう私のために命をかけることはしてはだめよ。私にはそんな価値はないのだから。お願い、沙久羅を連れて逃げて』

必死にラティアに縋り付いて美奈は叫ぶように意識を送った。

「美奈様、それはできません」

ラティアはそういうと美奈の手をそっと離した。

「そうだよ、美奈。そんなこと言わないで。私だって美奈を守りたい。今度こそ、美奈を守りたいんだよ」

沙久羅はそういうとゆっくりと立ち上がって、美奈を見下ろした。

『沙久羅?』

美奈は沙久羅の手にそっと触れた。

「何のために今まで倒れるまで訓練してきたと思っているのよ。こういう時のために決まっているじゃないの。魔王もラティアも異常なまでに美奈を守っていたからね。嫌でもわかるわよ」

沙久羅はにこやかに言った。

『凄いよ、沙久羅』

きらきらと瞳を瞬かせて沙久羅の手を取った。

「美奈、私にもあなたを守らせて。あの時できなかった、貴女を守ることをさせて欲しいの。今度こそ、守り抜いてみせるわ」

沙久羅は強い決意を瞳に湛えて、美奈を見ていた。

『…沙久羅』

美奈は沙久羅の名を口にして、その決意のほどを確かめていた。だが、その意志の固さをみて、大きく頷いた。

『私もできるだけ、あなた達をフォローするわ。だって、私の命は私のものよ。誰にもくれてやる気はないわ』

美奈はそういうと沙久羅の手を離した。


もう守られているだけではあなたの傍にはいられないことを知ってしまったのだから、私も戦うわ。


美奈は胸の前で手を組んでそう心で誓った。


この思いは届かなくて良い。自分のための想いだから。


そう思い、両手を頭上高く掲げた。自分に眠る能力が今ならはっきりとわかる。魔王からもらったのは想いだけではないことが今はこんなにも頼もしい。


でも、私たちの能力ではまだ足りない。

お願い、戻ってきて…魔王。

貴方が戻ってくるまでは絶対に死なないわ。


両手を下ろし、胸の前で固く結んだ。神に願うように、自分の想いが遠くに、愛しい人に届くように。

美奈の身体は白く輝き、体が宙に浮いていた。

『これからしばらくは私の結界があなた達を守るわ。私の能力が尽きたら、あとはお願いね』

美奈はそういうと両手を真横に開いて能力を放出した。部屋全体が光に包まれる。

「じゃあ、それまでは私も能力を溜めこんでおくわよ。ラティアさん、美奈を絶対に守りましょう」

沙久羅は美奈にそう返事をすると座り込み、両手を合わせた。体中の能力を両手に溜めこむように集中する。

「はい、命に代えましても」

ラティアも二人の前に立ち、いつでも攻撃に移れるような体制で待ち構えた。

外の気配は濃くなり、今まで経験したことのないような魔物の集団がこの部屋に襲ってきているようだった。だが、美奈の能力で物音さえも聞こえない。

静寂だけが部屋の中を満たしていた。



耀は薄明かりの中を壁を伝いながら歩いていた。イヴァーレは危険を察知しながら、沙久羅の気配を掴もうとしていた。

『こ、れは』

イヴァーレが止まって何かを確認しているようだった。

『主、下がれ』

イヴァーレの声と鋭い金属が石壁を削る音が甲高く鳴り響いたのは同時だった。

「ほほう、こんなところに人がいるとはな」

耀が伏せた状態で見上げると、目の前に大きな男が立っていた。その男は楽しそうに耀を見下ろし、品定めをしているようだった。

「闇の精霊、それも精霊神の一人か。なかなかに上物を味方につけたようだな、人間?」

男はこの世で生きているのを不思議に思っていたようだったが、イヴァーレの姿を見咎めて納得したようだった。

「では、お前が沙久羅の迎えというやつか」

男はそういうと耀を立たせた。

「本来ならば、人を生きて返すわけにはいかぬところだったが、今は事情があって、すぐに城に戻らねばならんのだ。ここからそう遠くはないが、時間が惜しい。能力(ちから)を貸せ、人間」

男は一方的にそういうと耀を肩に担いだ。

「ちょっ…俺は荷物じゃない」

耀は抗議して降りようともがいた。

「暴れるな、落とされたくなければ大人しくするんだな」

魔王はそういうと近くの開け放たれた窓から飛び降りたのだった。

ありがとうございました。

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