49話
よろしくお願いします
「ほほう、魔界の将、カリスを討ち果たすとはやはり侮れませんね。神の使徒」
それを待っていたかのようにもう一人の将軍が美羅依を見下ろすように中空に姿を現した。
「ああ、助けを待っているのでしたら、諦めた方がよろしいですよ」
カグエリルは楽しそうに言い放った。
この街全体で暴れてくれるカリスの下僕は使い勝手が良かった。
「方々で暴れていますからね」
あちらこちらから爆発音や争う声、破壊される物の音が聞こえる。
今まで待ったかいがあった。この神の能力を持ち合わせている女を自分のものにしてしまえば、魔王に勝てる。
今ならば、カリスを打つために能力を使い果たしている状態。勝てないはずがない。
カグエリルは笑いが止まらない。カリスは良いように動き回ってくれた。自分の思うように。
「あなたが黒幕だということは知っていたわ」
美羅依はカグエリルを睨み上げた。
今まで多くの者が犠牲になった。不運にも器になった兄妹、それに殺された父、心の弱さにつけ込まれうまく利用された生徒たち。そして、今も暴れまわるこの街の人々。
この者が現れなければ犠牲になることはなかった人たち。
「まあ、隠していたわけではありませんので、すぐに割れるでしょう?」
余裕の笑みを浮かべて美羅依を見下ろした。
「私は万全を期す性分でしてね。別にこちらの世界だけで動いていたわけではないのですよ」
カグエリルはそういうと左手を振り下ろした。
その指先で空間が割れ、闇から巨大な魔物が幾体も姿を現した。
割れた空間は巨大なもので、小さな人など容易に入り込める大きさだった。そこにひとつの影が入り込む。美羅依はそれを見届け、カグエリルに気付かれないように能力を解き放った。
頼んだわよ。
美羅依は心の中で今はいないその人へ祈った。
突如として空間が大きく割れた。
「ここまでシナリオ通りだと怖いよな」
耀は小さく呟くと魔物が現れた隙間を縫って割れた空間に体を滑り込ませた。
先ほど大きな能力の解放を感じたが、あれが会長の切り札と言っていたものだったのだろうか。
学園都市の街中は喧騒と破壊、爆発音が鳴り響き、テロや戦争を思い起こす。
「あなたはそれらに気を取られないで、空間が割れるのを待ちなさい」
美羅依会長が作戦会議の時に言った言葉がよみがえる。
今も街を守ろうと学園の精鋭部隊や警察などが応戦しているだろう。本当はその戦闘に自分も参加しなくてはならなかったが、自分にはもう一つの使命がある。
パートナーを助け出す。
「待っている」と別れ際に言われた。その言葉を今こそ実現しようと思う。
魔物の現れた空間は暗闇の中で前も後ろもわからない。足がついているから下は地面なのかと思うだけである。
とにかく次々と現れる魔物を倒しながら突き進むしかないようである。
「こういう時に闇の聖霊って便利だね」
苦笑して闇の精霊王を見上げた。
『まあ、この闇との相性は比較的良いらしい』
イヴァーレはあたりを見ながら答えた。
「周りが見えてない俺はイヴァーレだけが頼りだから、よろしく頼むよ」
耀はとりあえずイヴァーレがいるだろう方向へ顔を向けた。
『任せておけ。それで、行先は?』
「もちろん、沙久羅のいると思われる魔王の居城で」
耀の真剣な口調にイヴァーレは嬉しそうにうなずいた。
『了解した。だが、私も行ったことのないところだ。…ふむ、沙久羅の気配をたどるとしようか』
「その辺は俺ではよくわからないから、イヴァーレに頼むよ。さあ、先に進もうか」
イヴァーレの後を追って、耀も歩き出した。
しばらく続いた闇は突然途切れ、どこかの通路に出たようだった。
松明で明るく照らされたその場所は地下なのか窓は一切なかった。
「……」
どこか遠くから声が聞こえるが、何を言っているのかは理解できなかった。自分の知る言語ではなかった。わかったのは何か怒っているようであることとこちらに走ってくる最中であることが理解できた。
人間が紛れているのを知られるわけにはいかない。
近くに手頃な部屋を見つけて入り込んだ。そこは誰かの居室なのか、ベッドと小さなテーブル、いすが一脚とシンプルなものだった。
「造りは俺たちの世界とそれほど変わらないんだな」
不思議そうに耀は一人呟いて部屋を見回した。
『耀、急いだほうがよさそうだ』
緊迫した声でイヴァーレが話しかけてきた。
「どういうことだい?」
耀は自分が見つかったのだと思って焦ったように聞いた。
『私たちはまだ見つかっていない。だが、そなたの思い人の命が危うい。片言しかわからなかったが「異世界の女を殺せ」と騒いでいるようだった』
イヴァーレは困ったことになったと考え込んでいた。
「沙久羅の居場所はわかるか?」
それを聞いて耀が焦らないはずはなかったが、イヴァーレは落ち着くように肩に手を置いた。
『焦っては助けられるものも助けられない。…今、場所を確認している。……ここから少し歩いたところのようだな』
イヴァーレの言葉に耀は無言でうなずいた。
ここまで待ったのだ。焦って彼女を取り戻し損ねることだけはしたくない。
「わかった。案内してくれ」
耀は焦る気持ちを抑え、イヴァーレを促した。イヴァーレもそれがわかり、すぐに案内した。
ありがとうございました。




