表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/61

44話

よろしくお願いします

もう、何日が過ぎたのだろうか。本当に時間の経過が解り辛い。

 最近は立ち上がって数歩だが歩く事もできるようになっていた沙久羅がベッドのシーツを強く握った。

『…沙久羅、痛いの?』

 心配そうに見ていた美菜が沙久羅の手に自分の手を重ねて聞いて来た。

 それにはっとして顔を上げる。

「ごめん、知らずに焦っていたみたい。ありがとう」

 沙久羅はにこやかに答えた。自分の身体が思うように動かないのと変わらない日々。知らずにすぎてしまう時間に焦りを感じていた。

「ここは私のような人間にはきつい場所だね。不安や焦燥感を否応なしに煽られてしまうわ」

 溜息をついて美菜の横に座った。

『でも、沙久羅はずっと頑張っているわ。私は何も出来ない…本当に弱虫だわ』

 苦笑して美菜は言った。それでも沙久羅と一緒に下肢を動かす訓練は続けている。

「美菜は弱虫なんかじゃない。弱虫だったらこんなところにずっとはいられない。美菜は美菜の闘いをしてきたんだよ。それは弱虫とは言わない」

 沙久羅は美菜の手を取って言った。下肢の自由を奪われ、声まで奪われてなおも生きようとする美菜は本当に強いと思う。その彼女が今、目の前にいてくれている事がどれだけ自分を勇気づけてくれているか…。

「美菜は知らないんだよ。いてくれるだけでどれだけ私の支えになってくれているか。私は美菜がこうしていてくれているから頑張れる。それに、ここから助けてくれようとしている人がいると思うから、頑張れるの」

 時々話に聞く少年の事を美菜は羨ましく思っていた。

『沙久羅が羨ましい』

 美菜は溜息交じりに言った。

 行動力のある沙久羅。自分はされるがままに今までを送ってきた。

「私が?…私は美菜が羨ましい時があるよ」

 沙久羅は美菜を振り向いて言った。

「だって、傍にいられるじゃない。私は叶わないから。本当は傍にいてあげたい。心が折れそうだった彼の側にいてあげたかった。でも、それは叶わないから。……美菜は顔を見たいと思えば見る事が出来る。それは羨ましい」

 沙久羅は苦笑して、諦めた表情をしていた。

『……沙久羅』

 美菜はそっと手を重ねた。今、沙久羅を元の世界に帰してあげられたらどんなに良いだろうか。でも、魔王は帰そうとしない。それは自分と沙久羅の命を狙うものがいるから。今の沙久羅が戻ったとして、戦力になるはずもなく、無駄に命を散らすだけだと魔王は解っているようだった。

「解っているよ。大丈夫。魔王が美菜のために私をいかそうとしてくれている事は解っているの。でも、この世界はあまりにも時間の感覚がなさ過ぎて怖くなる」

 沙久羅の手は小刻みに震えていた。頼りになるのは美菜の存在だけ。時間の感覚がない世界で日一日と過ぎて行くのが怖かった。一体今はいつなのだろう。どのくらい時間は過ぎているのだろう……。

 どんなに焦っても仕方ないのだとしても、心はそうはいかなかった。

『沙久羅。頼りにならない私でごめんね。でも、私は沙久羅を元の世界に絶対に帰してあげる。だから、待っていて。この世界で沙久羅を死なせたりは絶対にしないわ』

 美菜は自分に言い聞かせるように沙久羅に告げた。

「無茶はしないで。でも、気持ちはとっても嬉しい。ありがとう」

 沙久羅は微笑んでいた。

 焦っても無駄である事は頭の中ではわかってはいるのだが、心の焦りは止められなかった。それでも冷静になれるのは目の前にいるこの友人がいてくれるからだった。もし、ここに美菜がいなかったらきっと自分はここから飛び出して魔族の者達の餌食になっていたのだろう。

『少し休もう。もうすぐラティアが食事を持ってくる時間だよ』

 美菜は沙久羅の手を取って言った。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ