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45話

よろしくお願いします

沙久羅が攫われてからもう三カ月が過ぎようとしていた。

 魔族の者達が動く気配はあるものの、決定的なものが見つからず、手を拱いていた。

「…なかなか尻尾を出さないね」

 溜息交じりに彰人が言った。

「不空でも掴めないのか。厄介だな」

 柚耶が天井を見上げた。

 以前に掴みかけていた場所は空振りに終わり、人間に入り込んだ魔族の姿も見えなくなっていた。ターゲットになっていた少女達が姿を晦ましたのだった。

「少し早まったかな」

 美羅依が悔しそうに唇を噛んだ。

「辛気臭い顔を突き合わせてても良い考えは浮かばないよ。とりあえず彼を見習う事をした方が良いんじゃないかな」

 美月がテーブルにお菓子やジュースを出しながら、窓辺で地図を広げて今までの経路などを辿りなおしている耀を指した。

「……えっ、あっ…あの、そんなに全員で見なくても……」

 気づいた耀が全員の視線を感じて後ずさった。

「真面目だねぇ、耀君」

 桔梗が感心したように耀の頭を撫でながら言った。

「あいつら、狙ってくるのは個人になるところだと思うんだよ」

 彰人が顎に手を添えて思案顔で地図を覗きながら言った。

「…根拠は?」

 柚耶が聞いた。

「たくさんあるよ。でも、一番妥当性で言うと俺達に力を合わせられたらあいつらも手出しができないんじゃないかと思うんだよ。今までだってそうだろ?」

 確かに彰人の言うとおりだった。

「じゃあ、個人にならなきゃ狙われないと、そう言う事だろ?」

 桔梗が当り前だと言うように言った。

「そうなんだよ。こうしているのも何処かで見ているかもしれない。俺達がまとまっていると厄介なのは良く解っていると思うんだよ。なんせ、あいつらは長い時を生きている。俺達の行動を良く知っていると思って間違いはないと思うよ」

 彰人は困ったように言った。それが今の状態を引き起こしているのは間違いなかった。

「いつまでたってもいたちごっこの様だよね」

 溜息をついて美羅依が言った。

「じゃあ、もし、個人に別れたら、私達の負け?」

 美月がそれは嫌だな。と言いながらコップにジュースを注いでいた。

「個人に別れるのを待っているのなら、別れたところをワザと見せて、誘き寄せるのも手だよね」

 祐希がある一点を指しながら言った。

「ここ、あいつらが拠点にしていたところなんだけど、最近また人の出入りが激しくなったって情報が入ったわよ」

「さすが藤梛の当主。情報網は不空と同等というのはだてではなさそうね」

 美羅依が感心したように祐希を見た。

「少し面白くないけど、その情報はなかったな」

 彰人が唇を尖らせて抗議したが、気を取り直して地図を見下ろした。

「…囮が必要かな」

 柚耶が小さく呟いた。このまま手をこまねいていては被害者が増えるばかりだった。今のうちに打てる手は打っておきたかったのは言うまでもなかった。

「そうね」

 美羅依も頷いた。今までだってやらなかった事はなかった。

「でも、犠牲者は絶対に出さないよ」

 美月が強い口調で言い放った。

「大丈夫だ。誰もそんな事は望んでない」

 桔梗が美月の頭を抱えるように抱きよせた。

「一番の囮は私よね」

 美羅依が苦笑した。たくさんの時間を共有した仲間達が辛い表情で美羅依を見た。

「大丈夫よ。皆が守ってくれるんでしょう?私は信じてるもの」

 晴れやかな笑顔で美羅依は言った。

「当り前じゃない」

 美月が美羅依に抱きついた。

「美月ちゃん。これが片付いたら美味しいケーキ屋さん、一緒に行こうね」

 晴れやかな笑顔を向けて美羅依は言った。

 誰を責める事もなく、自ら囮をかって出る。本当は怖くて仕方がない。もしかしたら自分の能力は及ばないかもしれない。でも、と思いとどまる。

「先に進まなければ道はないのよね」

 自分にも言い聞かせるように柚耶を見上げた。柚耶はただ黙って美羅依を見つめていた。

「耀君、私が君の守りたい人への道をつくってあげる。だから、今は見ていて」

 美羅依にそう言われては耀は何も言い返せなかった。手助けする事もできない。

「…耀、これは私達の問題なのよ。あなたは…あなた達は巻き込まれただけ。でも、先に行くのはきっとあなた達のような気がするわ。私達は過去に捕らわれ過ぎてしまっているのだから」

 祐希は苦笑して耀達を見た。少し、羨ましい。そんな瞳が耀達に向けられる。

「……じゃあ、手筈通りにお願いね」

 美羅依は話しあいの後、そう言い残して去って行った。

ありがとうございました。

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