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33話

よろしくお願いします

沙久羅は困り果てていた。少しはそうなるのではないかと思って、耀には現状を言わずにいたというのもあった。

 それが今、確実に現実になっていた。

 確かに以前のように耀に隠すことは無くなったから、能力の温存には良かったのだが、過保護すぎるのだ。できることもさせてもらえない。

「だから、このままじゃ私は何もできなくなっちゃうんだってば」

 怒っても何をしても耀は何もさせてはくれなかった。さすがに学園での生活はさせてくれるが、家に帰ってくるともう、何もさせてくれない。

「自分の事は自分でできるんだよ。これもリハビリなんだから放っておいて!」

 さすがに今日はストレスも限界に来ていた沙久羅が堪忍袋の緒も切れてかなり怒っていた。

「…でもな…」

 耀は沙久羅の足を見ながら言った。

「これは耀のせいじゃない。私が不注意から起こした事なの。それに、自分の事が出来なかったら、仕事にも支障があるでしょ?それだけは避けたいのよ」

 解って欲しいと懇願するように耀を見上げた。

 耀は大きく溜息を吐いた。

 沙久羅は解ってくれないもどかしさに更にイライラを募らせていた。

「ああ、もう!どうしてわかってくれないのよ。私は、あなたと一緒に同じ景色をみていたいだけなのに」

 自分で言ってしまってからはっとしたように口を手で塞いだ。これだけは言わないようにしていた。とにかく恥ずかしい理由。

 もし、この身体の事が公になってしまったら、自分は耀の傍にはいられないかもしれない。だから、訓練だけは絶対に怠ったりしたくない。生活の中でも不自然なことはないようにしたかった。

「…ごめん」

 耀は沙久羅の頭に手を置いて謝った。

「また、沙久羅の気持ちを考えてなかった」

 沙久羅の口から言わせてしまった事を後悔した。

「…わかって、くれたのなら…良いわよ」

 沙久羅は恥ずかしそうにうつむいた。まともに顔を見られない。まるで愛の告白をしてしまったようなものだ。

「でも、沙久羅の気持ちが聞けて良かったよ。俺的には嬉しい」

 頭に置かれた手が優しく撫でつけた。

「けどな、俺には甘えてくれて良いんだからな」

 顎を持ちあげられ、耀とふと瞳が合わさってしまう。その真剣な眼差しに吸い込まれるように見詰めてしまった。

「…うっ、解った」

 そのきれいな瞳と姉の祐希に似た顔立ちの美しい容姿に見惚れた。おかげで自分の顔が更に赤くなってしまったのは言うまでもないことだった。

「…沙久羅、可愛すぎ…」

 耀が先に瞳を逸らした。横顔でも解るくらい、耀も顔が赤くなっている。それがなんだかおかしくて噴出した。

「…笑うなよ」

 少し怒ったように耀は言ったが、顔はやはり笑っていた。

「強く言って、ごめんね」

「俺も、ごめん」

 二人は互いに謝ると笑顔で見つめ合った。

 こんなふうにいつまでも過ごせたらどんなに良いだろう。過去の事など忘れて…でも、沙久羅はすべてを受け入れることを選んでしまった。耀の傍にいるための選択。振り向いてくれなくなっても良い。ただ、傍にいられるだけで、それだけで幸せだと思える。それ以上を望んではいけない。

 自分の犯した罪は許されるものではない。

 沙久羅は心の中で溜息を吐いた。耀の優しさに望んではいけないものを望んでしまいそうで、怖くなった。

「沙久羅、まだ罪の意識が消えない?」

 突然、耀が聞いて来た。考えていた事が顔に出てしまっていたようだ。

「一つ、良いことを教えてあげるよ。人は一人では生きていけない。罪を償うのもひとりではできない事もあるんだよ。俺が半分背負ってやる。沙久羅のためじゃない、俺自身のためにそうするんだ。それなら、沙久羅も気兼ねしなくて良いだろう?」

 沙久羅の頭を自分の肩に乗せるように抱いて、耀は言った。

「人はね、本当に自分勝手なんだよ。誰かのためと言いながら本心は自分のためなんだ。沙久羅も亡くした友人のためと言いながら怖さを置き換えているだけ。そんなに俺は頼りない?俺を信じることはできない?」

 沙久羅に囁くように耳元で聞いた。

 何度も自分に問いかける。沙久羅にとって自分の存在は邪魔なのか。頼れる存在ではないのかと。しかし、答えをくれる者はいない。沙久羅も答えてはくれない。このままでは沙久羅のもとを離れるしか……

「…信じてるよ。耀が頼りないなんて思ったこともない。でも、私は友人を見殺しにしたの。そんな人間が幸せになってはいけないと思う」

 寂しそうに笑顔を浮かべて沙久羅は言った。ずっと、罪の意識は消えない。どんなに世間が許してくれたとしても、自分自身を許すことはできなかった。救うことができなかった、そうするしかなかったと言われたとしても、それで彼女が戻ることはなく、空虚な心が残った。

それを少しでも埋めたくて無理をすればするほど無意識の暴走は酷くなっていった。それでも罪の意識は増すばかりで、最近自分の身体が自由を奪われたとしてもその意識は消えず、また増していた。魔の能力を得れば得るほどに罪の意識は増す。彼女を救えなかったこの忌まわしい能力を嫌悪するほどに増していく。

「沙久羅、自分を許さなくて良いよ。俺はそれごと支えるから。俺がそうしたいからそうする。沙久羅は沙久羅のしたいようにすれば良い。自分勝手で良いじゃないか。俺はこの世界がどうなろうと構わない。でも、沙久羅がいない世界には居たくない。だから守るよ」

 ああ、如何してそんなことを言えるのだろう。

 どうして私をそこまで思ってくれるのだろう。ただのパートナーだったらそんなことはない。

「直接、口で伝えてなかったよね。…好きだよ、沙久羅。この気持ちくらいは信じて欲しい」

 耀は真っすぐに沙久羅を見て言った。迷いのない瞳。

 この瞳に自分は囚われてしまった。逃れようのない、澄んだ瞳は沙久羅の心を射抜いた。

「……」

 もう、何も言えずにただコクリと頷いて笑い返した。自分の気持ちに正直になって良いのだろうか本当のところは解らない。でも、今だけは…今この瞬間だけは素直になってみようと思えた。

 耀の顔が近付いてきて、唇がそっと自分の唇に重ねられた。

 思っていた以上に柔らかくて少し驚いた。

「今日は不意打ちじゃないからね」

 耀は耳元で囁いてくすりと笑う。

「耀はいつも不意打ちよ。いつもびっくりする」

 沙久羅は少し拗ねたように唇を尖らせた。

「私を好きになったこと、後悔しても知らないんだから」

 沙久羅は顔を赤くして責めるように言った。

「後悔はしないと思うよ。ああ、でもこれから忙しくなることについては後悔しそうだけどね」

 耀は綻ぶような笑顔を向けた。顔を赤くして答えてくれるこの少女を自分は守りたい。例え、それで自分の命が尽きてしまおうとも、構わないと思った。

「耀、私をひとりにしないで」

 沙久羅は耀の考えていることなどお見通しのように呟いた。

 その言葉にドキリとする。

「…わかった。一人にはしないよ」

 その言葉に安心したかのようにベッドに寝そべった。

「なんか、疲れた」

 沙久羅はそう言うと盛大な溜息を吐いた。

「遅くなったけど、夕飯食べるだろ?」

 耀の言葉に沙久羅は大きく頷いた。

ありがとうございました。

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