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2話

よろしくお願いします

沙久羅はこの学園がお祭り好きで良かったと思っている。嫌なこともその時は忘れられるから尚更だった。

「沙久羅」

 友人が声をかけてきた。この友人は自分が親に捨てられたことを知っているけれど、そんなことは構わずにいてくれる唯一の友だった。

「結希。帰ろっか」

 鞄を手にして、沙久羅は教室を出ようとした。

「今日も教えてくれるんでしょ?」

 沙久羅の友人、()()(しろ) ()()は楽しそうに聞いた。

「結希には負けるよ。でも、私の得意は黒魔法だよ。結希は白魔法じゃない」

「えぇ、沙久羅は白魔法もできるじゃない。それも上位魔法が使えるの知ってるんだからね。それより早くしないと練習場が使えなくなっちゃうよ」

 この学園には魔法など特殊能力者のための練習場が広く確保されていた。学園都市の外には全く見えないように地下に広大な敷地を確保していた。そこで多くの特殊能力を持つ学生たちが日夜訓練などをしていた。


 地下にあるとは思えないほどの照明の明るさ、疑似空も本物に近い状態で確保されていた。地下五百メートル、広さは学園都市とほぼ同じ百万平米超。所々に森林や公園のようになっている場所もあれば、運動場のようになっている区画もあった。夜の九時には消灯、閉鎖されるこの空間のことを知っているのは学園でも一握りの者達だけだった。

「今日は高等部の宮梛様が来てるって」

 どこで仕入れた情報だろうか、友人はそう言って、運動場に降りて行った。

「宮梛様って。あの精霊魔法とかを使うっていう?」

「他に誰がいるっていうのよ。もちろん、一緒に時梛様も来てるからさ。あの二人がいると目の保養になるよね」

 楽しそうに話すと、急いだ様子で結希は運動場に降り立った。その時、目の前には巨大な竜巻が立った直後だった。

「すごいよねぇ。この風を起こしているのがあそこにいる超がつくほどの美少女だもん。絵になるぅ」

 竜巻のすぐ近くにいるのに髪が緩く舞っているだけの少女を指して結希が言った。

 その少女を見守るように立っているのが時梛というこれまた絵になる美少年だった。

「でもさ、こうギャラリーが多いとやり辛いだろうね、あの人たち。明らかに嫌な顔している人いるし」

 時梛という少年は少し苛立っているような表情で周りを見ていた。少女は竜巻を抑えるとその少年を宥めるように何かを言うと森のほうに行ってしまった。

「そうね。私だってあんなにいたら白魔法発動できないかもしれないわね」

 結希はそう言うと運動場を通り過ぎて、いつもの林の近くに立った。

「それを考えるとあの人、すごいよね。あれだけの竜巻をギャラリーがいる目の前で制御しちゃうんだもん」

 手にした小さな水晶の玉を等間隔に落としながら沙久羅は言った。

「そうだよね。上には上がいるものよね。話しながらでも魔法陣組んじゃう人も近くにいるみたいだけど」

 羨ましそうな声で結希は返事しながら自分も最後の水晶を置いて言った。自分はその間話しをしていないと言外に言った。

「あ、それより結希、陣組んだんでしょ?発動してみなよ」

 話しをそらそうと沙久羅は催促した。

「はいはい。そうしますよ。昨日は治癒の上位魔法中心だったよね」

 そう言うと瞳を閉じて集中した。緻密(ちみつ)に組上げる魔法は集中できないと発動さえもできない。意識がそれただけで不発や暴発してしまうものだった。

「…―ヒクティー・マユン」

 結希が呪文を唱えるごとに水晶が光り出し、徐々に言葉が光の円陣を描いていった。

 風もないのに衣服や髪がふわりと浮かび、結希の身体も数センチ浮かび上がった。

「結希、その状態で私の言った言葉を繋いで」

 沙久羅の言葉に結希は頷いた。

「ゼリアス・イグリスト…フィヌエスト」

 沙久羅の言葉に結希が続いた。光はさらに白く輝き、その場所だけ昼の明るさよりも明るくなっていた。

「結希、これが白魔法最強の治癒魔法だよ」

 沙久羅が声をかけると光は急激に収束され消えた。

「…これ、すごく疲れるよ」

 肩で息をしながら結希は答えた。

「当り前でしょ。最強ってことはそれだけ体力、気力諸々を使うんだから」

 沙久羅は溜息をついて言った。魔法陣を使用しての魔術施行は一番扱いやすい分、時間がかかり、場所をとる。しかし、白魔法を行使するには一番手っ取り早い方法だった。

「彰芳君、黒魔術師だったよね。白魔法を覚えたい結希の気持ちはわかるけど、もともと超能力者の結希が白魔法を習得するのは大変だよ?」

 沙久羅はここ数カ月の結希の行動をみて、あきれていた。

「解ってる。でも、助けたいの。それにパートナーだしさ。それくらいできないと山路(やまみち)君が怪我したとき、何もできないよ」

 結希が不得手な魔術を沙久羅に教わっているのも、パートナーの山路 彰芳の存在が大きかった。

「…恋する乙女って…」

 沙久羅はあきれて小さく溜息をつくしかなかった。

「そう言えば、沙久羅のパートナーって藤梛君だったよね」

 沙久羅はその名を聞いてうんざりした表情になった。

「…そうだったね」

「そうあからさまに嫌な顔しなくても…確かに御曹司ではあるけれどね。藤梛家って謎な家だよね、お姉さんが当主なんてさ。確かさっきの宮梛様たちとも一緒にいるところ見たことあるよ」

 確かにそのことは知っていた。そのなにも不自由のない環境でぬくぬくしているのが許せなかったのもあった。転校してきた昨年の反響、今年はクラス代表。確かに性格は良かった。誰に対しても平等で優しいし、文武両道だし、家は金持ち。誰ともパートナーが組めなかった自分のパートナーに選ばれた時も文句ひとつ言わなかった。自分はかなり非難されたが、彼がそれを止めたのも何か気に食わなかった。

 Zクラスに限ってだが、パートナー制が設けられていた。相性が良い者同士を組ませて実習などを行わせるのだが、そのほかにも目的があると噂で聞いていた。今まではその噂、学園の警備にまわされたりするらしい、というのが現実になったことは一度もない。

「藤梛君て、不思議な子だよね。時々悲しそうな顔するんだよ。すぐにいつもの優しそうな笑顔になるから解りづらいけど、お姉さんの話とかすると痛そうな顔もするんだよ」

 結希はいつ、そんな観察をしていたのかというようなことを言った。

「不自由のない生活を送って来たとか、沙久羅は思ってるかもしれないけどさ、よく観察してみると今まで見えなかったことが見えてくると思うよ。パートナーなんだからさ」

 結希に背中を叩かれて、沙久羅はむせながら聞いていた。そんな顔を見たこともなかった。いつも当たり障りのないような笑顔で、淡々と物事をこなしているものだと思っていた。つらい表情なんて、知らなかった。

「山路君が今度、合同で訓練しようって言ってたから、やってみようよ。お互い、あんまり向き合ってなかったでしょ?チャンスだと思ってさ」

 結希はそういうと携帯でメールを打ち始めた。もうこのことは決まったことになってしまったらしい。

「…ち、ちょっと。私、まだ返事してな…」

「沙久羅は強引にでもやらせないと向き合わないでしょ。今回は逃がさないからね」

 結希は何回も逃げられてきたことを思い出し、強引に話しを進めてしまった。

「結希ぃ」

「だぁめっ」

 送信されたメールをみて、沙久羅はまた溜息をついたのだった。

ありがとうございました。

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