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「なぜ俺にこんな話をする?」


 ルドルの言葉に、エインはひじ掛けに置いた指をわずかに動かした。


「まぁ、今となってはお前とランが最後の仲間だからな、顔なじみと会話したいと思うのは自然だろ?」


「……急に嘘くさくなったな、そのためだけに、教義をいじって俺とランを不老不死にしたのか?」


「スジは通ると思うが?」


「ならなぜ今なんだ? もっと早くこういう場を設けることもできたはずだ、100年も時間を空けた理由はなんだ?」


「理由は二つ、第七世界の女神教が滅びる前にお前を呼んでも絶対に邪魔をしてきただろう? もう一つはお前の中の女神を殺すためだ」


「……!」


「どんなに信仰深いお前でも百年の沈黙に絶望しただろう? だからこそ会うタイミングは今だったんだよ」


 エインには、女神が第七世界を放棄している確信があった。


「俺に何を求めている」


「はは、俺も大分信用を失っているようだな。 ただ時折旧友と思い出話をしたいだけさ」


「そんなはずはないだろう。お前が俺の知っているエインなら必ず理由があるはずだ」


 エインはこめかみに親指を当て、微笑む。


「…ルドル、お前はこれからどうするつもりなんだ? 女神の正体も知り、世界の大きさも知り、俺の目的も知った、その上で今お前は何を考えている?」


「……お前の目的には賛同できない、お前のやろうとしていることは結局女神の位置に勇者が付くためだけに起こした虐殺だ。 手段の為にそこまでできる人間に支配された世界が良いモノなるとは思えない」


「なるほど、ではどうする?」


「お前を止める、嘗ての友人として、そのためにこの後の生は使うつもりだ」


「100年待った甲斐はなかったようだな、だがその後はどうする? 今の無能な女神に世界を牛耳らせておくのか?」


「そのつもりもない、女神に関して俺の中で確信があるわけではないが、もしお前の言う通りであるとするなら、うてる手もあるはずだ」


「内側から教義そのものを改変するとか?」


 エインのどこか馬鹿にするような言葉は、ルドルがうっすらと今考えていたことだった。


「ああそうだ、一人ひとりの力は小さくても、皆で団結して祈り続ければ世界は必ず変わる」


「そのやり方では邪教扱いされた挙句に殺されるのがオチだと思うがな」


「女神教の内側にいた俺だから出来るやり方もある」


「だったら俺が世界を牛耳った後にそうすればいいだろう? それでは何がいけない?」


「……お前は危険だ」


 ルドルはそう言って、試すようにエインに問いかけた。


「お前の性格は分かっている、万全を期しているはずだ、最悪世界中の人間を今すぐ殺せる、そうだろ?」


「……ふむ」


 エインは小さく息を吐いた、魔王を牛耳ったルール外の手段をルドルは把握していることを、この時確信する。


 訪れる沈黙をルドルは肯定と受け取った。


「エイン、世界中の命を掌に載せて正気を保てる人間なんて存在しないんだ、お前はゼアクスと戦っているときに壊れていた、人として大事なものが欠落している、だからこんな事を平気な顔して実行できる」


「酷い言いようだな……」


 エインは苦笑する、その笑みにエインの弱さを見たルドルは言葉つづけた。


「こうなるまで戦わせてしまった俺達の責任でもある、だから止める、あの時何もしてやれなかった俺の贖罪として」


「……それも面白いかもしれないな、やれるだけやってみればいい、実はこうなる気もしていた」


「……」


 エインの言葉の真意をルドルは測りかねていた。敵対した自分に対してどう動くのか全く予測できない。 半分神のような存在になった今、自分などその気になれば一瞬で消せるだろう。


「この城への転移は邪魔されないように魔王達には言っておく、七つの世界も好きに行き来して構わない、お前の思うように俺を止めてみろ」


「……!」


 ルドルは目を瞠る。 そんな彼を気にも留めないようにエインは話続ける。


「第一世界はすべての始まりの地だ、そこで女神について調べるのもいいだろう、第二世界は呪文研究が盛んだし、第三世界は精神関係の呪文に長けている、あの世界ならランを元に戻す手段もあるかもしれない、第五世界は魔王と勇者が戦っている状態に維持している、まぁそれぞれの世界の特色を自分の肌で感じるのもいい経験になるだろう」


「俺はお前の邪魔をすると言ってるんだぞ?」


「邪魔なんて優しい言い方でなくてもいいよ、はっきり殺すと言えばいい」


 エインは目を細める。


「まぁ、理由はさっきお前が言った通りだ。 俺も自分が壊れていることは自覚してる。だけどもう俺は止まれない、ここまで払ってきた命たちのためにもな、でも誰かそういう人間にもいてほしいと思ったんだよ」


「……お前を止める役割」


「そう、それで終えられるならば、その相手がルドルなら、俺も諦めがつく気がするのさ」


「……」


 だから生かしたし、だから魔王決戦前にあれほどのヒントをくれた。。ルドルはこれまでのエインの中の葛藤を感じた気がした。


「次会う時はいつになるかわからないが、精々励めよ」


「……そうさせてもらう、アウルやイリスの魂もそれを望んでいるだろうしな」


 ルドルは、拳を握りしめると踵を返し歩きだす、その瞳は決意に燃えていた。


 友人を、世界をこの混沌から救い出す、その使命が彼の背中を押している気がした。


「…出鼻を挫くようだが、基本的に肉体が死ねば魂も消える、世界の仕組みはお前が思うよりもずっと冷たいぞ」


 エインの言葉を背に受けながらルドルは大魔王の間の扉を開くと、そのまま歩を進める。 後ろの扉が閉まった。


「ごきげんようルドル様」


 扉が閉まると同時、横からの声にルドルは顔を音源に向ける。


「僭越ながら、ご挨拶させていただきますわ」


 にこやかな赤毛の女、魔界序列三位、ガルウィの言葉に、その体から迸る圧倒的な魔力にルドルは動けなくなった。


(なん――だこの化物は――)


 全身の毛が逆立つ、冷や汗が体中から噴き出し、胸が締め付けられるように呼吸が浅くなる。


「これから帰るのも大変でしょうから、ご自宅近くまで送って差し上げますわね」


 笑顔のままのガルウィ、その腕の優雅な一薙ぎでルドルの体はバラバラになった。

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