反芻
「ずいぶんと派手にやったね」
シーキューブが、ガルウィの背後より声をかけた。
「あら?なんのことです? 私はだたエイン様のご旧友に挨拶をしただけですわ」
先ほどルドルをバラバラに吹き飛ばしたガルウィは、とぼけるようにそう言った。
「エイン様の指示かい?」
「そうね、この扉からルドル様が出てきたらと言われた通りに」
シーキューブ相手にこれ以上とぼけるのも無駄と判断したガルウィは素直にそう言った。
「交渉が決裂したのかな?」
「さぁ? そもそも何を話していたのかなんてここからじゃ聞こえませんし、シーキューブあなたはなぜここに?」
ガルウィは肩をすくませ、シーキューブに問いかけた。
「ちょっとエイン様に用があってね、そろそろ話も終わるころだと思ってきただけだよ」
「ずいぶんとタイミングよろしいんですわね」
「まぁね、昔からこういう勘は働くんだ」
「勘ねぇ……相変わらず掴みどころのない方」
ガルウィはそう言って興味を失ったようにひらひらと手を振ると、自室へと歩き出した。
「……」
そんな彼女の背に目を向けた後、シーキューブは大魔王の間の扉を開けた。
「……ッ」
朽ち果てた教会の祭壇に横たわっていたルドルは、飛び上がるように起き上がった。
冷や汗と体の震えが止まらない、あの赤毛の魔王と対峙した恐怖は、嘗てゼアクスと対峙した時とは別格のトラウマをルドルに刻みつけていた。
(あんな化物どもを……エインは従えているのか……)
恐ろしいと、ルドルはそう思う事しかできなった。
しかしだからこそ、とルドルは奮い立つ。 力を込めて立ち上がり、震える足で前へと歩き始めた。
「エイン様、ルドル殿はガルウィが送り届けたようですよ」
大魔王の間に入るなりシーキューブはそう切り出した。
「そうか」
エインはさして興味もなさそうにそう返す。
「あのまま帰してしまってよろしかったのですか?」
シーキューブの問に、エインは目を細めた。
「どういう意味だ?」
「彼は気が付いていますよ、エイン様が我々魔王を掌握した方法に」
「だろうな」
「同じ手段に出た場合、我々の目的の妨げになるのでは?」
「妨げ? ルドルがか?」
エインは馬鹿にするようにシーキューブを見る。
「可能性はあるのでは?」
「お前が何を懸念しているのか知らんがすべて杞憂だよ、ルドルが俺の策に気が付くのは必然だった、アレだけヒントを出し、アレだけ時間を与えたのだ、それでわからなければそれこそ脅威になりえない」
「……? なぜそんなことを」
この策を把握している魔王はシーキューブ以外にいない、他の魔王にすればあの大魔王を殺された時に、なにがしかの方法で全魔王の命がエインの手に握られたという事実のみまでしかたどり着いていないのだ。
それほどの生命線である策がバレている、にも関わらずエインには余裕があった。 というより想定内であるとすら言った。
シーキューブは、目の前の新たな大魔王が何を考えているのか知りたかった。
ルドルは大魔王城を経由し、第五世界のゲ―トをくぐる。
「……」
ルドルは過去を反芻する。
あの夜、妹を連れて戻ってきたエインは、魔王を倒す策を思いついたと言って、俺の質問に対してこう返した。
「六割弱、まぁ今までゼロだったのを考えれば挑む分には十分だろ?」
そして国の重役達を集めた会議では
「……初戦では、いいとこ五分かと」
といい、その後俺とのサシ飲みの時には
「……この策じゃ七:三で上出来ってところだな、もちろん三割勝てるって意味だ」
と言った。
この差は、ランをつれて戻ってきた時と、会議の時で作戦の内容が違うとするのであれば辻褄があう。
会議の時に語った作戦――全国民の魔力を集中して戦う策は、本来の勝率は三割ほどであったが、各重役に協力を取り付けるために五割と水増ししたということなのだろう。
では、最初にエインの話した勝率六割の策とはなんだったのか、それがエインの言うル―ル外の方法であるとするなら、その答えにルドルはたどり着いていた。
ルドルは第五世界の魔王城地下室を上がると、魔王の間に出た。
玉座に座る金色の目をした魔王は、ルドルの姿を見止めるが、興味をなくしたように視線を宙へそらす。
その様子を緊張しながら確認したルドルは、エインの言葉の信頼性に安堵した。
そのまま魔王城を抜けると走り出す、加護の力を使ってルドルは三日三晩走り続け、ついに魔物に荒らされていない町を見つけると、そこを拠点とすることにした。
まずは、エインと同じ土俵に立つ、何をするにも話はそこからだと思った
「なぜだと? 女神を殺すためだ」
シーキューブの問にエインは応えた。
「ルドル殿がそのカギになると?」
「俺の読みではランがカギになる公算が高いがな、いずれにしろ保険くらいの存在だ、ルドルにすべてを託しているわけではない」
「私にも話せないということですか?」
先ほどから要領を得ないエインの回答に、シーキューブは言った。
「そういう事だ、お前もさっさと自分の研究に戻れ、だが安心しろ俺の目的はお前らと同じだよ、それはこの先も変わることはない」




