参加の条件
城門を越え、教会へと足を向ける勇者。
石畳の街道を歩むその足が、冒険者ギルドの前で止まった。
勇者の進行方向に立ちふさがる10名の男女。
その出で立ちから、みなギルドに所属する者達であることが分かる。
「勇者様、お待ちしておりました」
一人の眼鏡をかけた利発そうな若い女が、一歩前へ踏み出す。
「…君たちは?」
声をかけた女、彼女が発する魔力の質から魔法使いであろうと察しをつけながらもエインは尋ねる。
「失礼致しました、私はカナと申します、若輩ながらこの連合の代表を務めさせていただいております」
「…連合?」
エインは眉を寄せる。
「はい、勇者連合です……ご存知ありませんか?」
カナはどこか残念そうに顔を曇らせる。
「すまない、記憶にないな」
エインはカナの後ろに控える9人をざっと見渡す。
戦士、武道家、賢者、職業はいろいろだが皆どこか緊張した様子であることが伺えた。
「勇者様のお人柄や活躍に感銘を受け集った有志です、今回勇者様のご危機と聞き微力ながら力になりたくここに集まりました」
カナはどこか興奮気味に言葉を発した。
「気持ちはありがたいが連れて行くつもりはない、道を開けてもらえるかな」
勇者のにべもない返答に皆の表情がこわばる。
「……私たちでは、役不足だと? 失礼ですが勇者様、今回集まった皆は連合の中でも精鋭です。必ずや勇者様の……魔王討伐のお役に立てるかと」
カナの頬が朱に染まっていた。
「……」
カナの返答にエインは一瞬逡巡する。
どうすればこの場を切り抜けられるか考えた。
結果、速度を優先することにした。
「……じゃあ、君と君」
エインはカナともう一人、後ろの面子の中から武道家と思われる男を指さす。
指名された二人の顔が喜びに染まった。
「二人で俺に一撃あたえて見せてくれ、それが条件だ」
「!」
「精鋭、口ではいくらでも言えるが、それは実際の実力が伴ってこそだろう?」
勇者の言葉に、カナと武道家の男は目を細めた。
「…確かに、その通りですね……ここでは手狭です、広間に移動しましょう」
カナは真剣な表情で頷く。
「条件を追加しよう、今この場でだ、場所を選んでいるようでは実戦では何の役にも立たないぞ」
早く済ませたいエインは出まかせを言う。
「しかしここでは」
周囲への被害を気にしてかカナがしり込みする。
「大丈夫だ、どうせ何も起こらない」
「……それは、どういう意味でしょう?」
「言葉通りの意味さ、君たちでは何もできないうちに勝負が終わる」
「……!」
目を瞠るカナを見つめ、コロコロ表情の変わる子だなとエインは思った。
「どうした?もう始まってるぞ? かかってこい」
勇者は手のひらを上に向け指でこちらへと促す。
「念のため人払いをお願いします、ガダムさん、行きましょう」
後ろに控える数名に周囲への安全を促したカナは、ガダムと呼ばれた武道家の男と共に、エインへと向け構えた。
「はぁぁぁっ!」
ガダムが地面を蹴る。
鍛え上げられた体から繰り出される拳撃は、エインの体をすり抜けた。
「!?」
驚愕を顔に張り付けたガダムの背後に立つエイン。
咄嗟に背後に感じる気配へ攻撃を放とうとするガダム、しかしすでに彼の意識と体の連動は首筋に打たれた手刀によって断ち切られていた。
「!???」
ガダムはバランスを崩し石畳に顔を打ち付ける。体の自由を失ったその事実にまだ意識が追い付いていないようだった。
「火炎呪――きゃ」
呪文を詠唱するカナの手をエインの手がひねる。
目にも止まらぬスピードでカナの前に移動し一瞬で彼女の関節を極めたエイン、痛みに膝をつくカナをそのままに、彼は周囲を見渡す。
「今の一連の動きが見えた者はいるか?」
エインの問に、応えられる者はいなかった。
「この中に無詠唱で呪文を撃てる者は何人いる?」
二人ほどが手を挙げた。
「君たちは俺に攻撃が当てられるかい?」
エインの問に二人の手が下がる。
この中で最も素早さに長けたガダムが瞬殺されたことが効いているようだった。
「魔王と戦うというのはこういう事だ。 その事が分かってもらえたかな?」
「すばらしいです」
腕を極められた痛みに顔を歪めながらも、カナはまっすぐにエインを見つめる。
「?」
「これが……勇者様の加護の力なのですね……っ。 勇者様、もし今の力で足りないというならば私たちにもどうか加護をお差付けください」
「……」
エインはカナの手を離す。そして口を開いた。
「残念だがそれはできない」
「なぜです!?」
「俺の信頼が足りない」
「……勇者様の…信頼?」
「俺と君たちが十年来の親友と言うなら話は違うが?」
「……!」
勇者の言葉を察して、カナは黙る。
女神の加護の……否、勇者の加護を受けるために必要な制約はそれほど簡単ではないという事をカナは知る。
勇者様への信仰だけでは足りないのだ。 お互いが通じて初めて加護の力を得ることができる。
「……重ね重ね失礼いたしました」
カナが道を開ける。 それに習うように背後の連合員達も道を開けた。
「ありがとう、君たちもその力をこの国を守るために使ってくれ、そうしてくれると俺も心強い」
「……はい」
どこか悔し気にカナは応えた。
自分の不甲斐なさか、考えの甘さか、勇者を一人で行かせてしまうことへか、カナ自身それはよくわかっていなかった。
「勇者様」
カナは遠ざかる背中に声をかける。
「どうか、お気をつけて」
エインは背中でその声を受け止めながらも、その瞳は魔王への憎悪の炎に燃え滾っていた。




