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箱庭の掟


 アウルとイリスの転生を待ったエインであったが一向に来る気配はなく、城から派遣された兵士がエインを迎えに来たため、エインは後のことを神官に任せ一時城へ向かうこととした。


 城の一室に設けられた会議室


 楕円型のテーブルを囲むように座った国の重鎮たちがエインの話に耳を傾けている。


 エインは、魔王城への旅路や魔王と実際に戦った経験を通して話をしていた。


「……五年の旅の中で感じたことは、魔王城へ近づくにつれ、魔物が強くなっているということでした。


 その疑問も、魔王と戦闘をした今ならば理解できます、おそらく魔王城を中心に魔族を強化する空気のようなものが放出されているためでしょう、つまり私たちを蹂躙する力を持つ魔王も、城から離れてしまうと本来の力は出せないと考えられます。 そうでないのなら、魔王自らが世界を滅ぼすこともできたはずです。加えて、魔王城から最も遠いこの国の魔物が弱いことも説明できます」


「しかし、弱体化するといってもどの程度なのか、君たち勇者一向を屠る力など、弱体化したところで我々にとっては脅威以外のなにものでもない」


 豊かな髭を蓄え、丸眼鏡をかけた学者風の出で立ちをした参謀大臣が問いを発する。


「そうですね……しかし、ここで魔王にはもう一つの問題が発生します」


「もう一つの問題?」


 参謀大臣は眉を寄せた。


「ええ、魔族との戦闘中にも感じたことなのですが、魔王と直に戦ったことで確信しました。魔族は、神系の呪文を使うことができない」


「神系の呪文……回復呪文と空間移動呪文のことか」


「そうです、拷問を受けている最中、魔王の姿を確認しましたが、私たちとの戦闘で受けた傷はまだ残っていました。回復呪文が使えるならばわざわざ傷を治さない理由はありません。

 つまり神系呪文である空間移動呪文を持たない魔王は、ここまで攻め込むには自分の体で行くしかない。おそらく魔王城からこの国まで、どんな移動手段を用いようと1年は要すると考えられます。しかしこちらには空間移動呪文がある、魔王が留守にしている間に魔王城を落とされるリスクを、魔王が犯すとは考えにくいかと」


「うむ……、では仮に、軍を率いて魔王が攻めてきたとして、その戦闘能力はどれほどになると考えられるか?」


「オルガの感染能力から割り出せるのではないかと、オルガの感染率は魔王城から近い町と、この国でどれほどの差がありましたか?」


「確認できる範囲ではおおよそ、1000分の1ほどであったと記憶している」


「その数字がそのまま魔王の力に影響するとするなら……国の全軍でなんとか対応できるレベルではないかと思われます」


「なるほど……ならばその想定も含めてこちらで対策に取り掛かるとしよう、おい」


 参謀大臣は一人うなずくと、近くに立った側近を呼び指示を耳打ちする。


「よろしくお願いします、では、私はこれで」


 踵を返そうとするエインに、他の参加者達が驚いたように目を瞠った。


「待て、勇者よ」


 今までずっと黙って話に聞き入っていた国王が口を開く。


「は」


 国王の静止にエインの動きが止まる。


 肥えた体をゆったりと動かし、国王は優し気な瞳でエインを見つめる。


「これから、どうするつもりなのだ?」


「はい、まず教会へ行き、仲間の安否を確認します、もしまだ戻ってこないようならば、すぐにでも転移呪文で魔王城へ乗りこみ、仲間を助け、そして魔王を討つつもりです」


「…女神様の加護の効力は、すでに限界を迎えていると聞いているが」


「…はい、その通りです、一か月前、教会でお告げを聞き、もうこれ以上強くはなれないと告げられ、それは先ほどお告げを聞いた時も同じでした」


「さらに言えば、伝説の装備もすべて失ったのであろう?」


「はい、装備をすべて外された状態で転生したので、今、私のもとに伝説の装備はありません」


「…また捕まったらどうするつもりなのだ?」


 返答を聞く度に絶望的な状況が顕わになるだけの様子に、国王は若干の困惑を覚える。


 参謀大臣の言葉は遠回しにエインを静止するための言葉であると、この聡明な青年が気づかないはずがないのだ。 それでもなお、希望を失わない姿は、周囲にどこかやけくそにも似た危なげな予感を感じさせた。


「もちろん、策があります」


「その策とは?」


「……申し訳ありません、どこから魔王に情報が漏れるかわからない今。まだ申し上げることができません」


「う……うむ…」


 現に転生の仕組みが魔王に割られていた事実もあって、国王はこれ以上の追及を諦める。


「もう行ってもよろしいですか?」


「…うむ……武運を祈っておる」


「はっ、見事魔王を倒して見せます」


 勇者は一礼すると会議室から出て行った。


「……」

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