第四章 すばらしき仲間たち 第五話 彼方から一 サバイバル
「このアシナガ甲虫は、この長い八本の足を頭の触覚で結わえて、体に原生林から採ったクマの木の実を乾燥させひいた粉をまぶし、同じく、クマの木の実から絞ったクマ油で揚げると、外側はカリカリ、中はジューシーな味わいとなるんだ。
ほら、旦那もやってみな」
男は、隣にいる少々筋肉質で袖の短いシャツ姿の少々すすけた若い男に、自分のやり方を真似させた。若い男は、言われるままに蔦で作った大型の虫籠に手を突っ込み、足を含めない体長五センチはあろうかという巨大昆虫を取り出した。そして、頭部に指先で一撃加えて暴れる虫を静かにさせると、言われたように触覚で長い足を束ねてつかみ、粉をまぶして、加熱された石の窪みにある煮えたぎった油にくぐらせ、揚げた。そして、それを一口ほおばると至福の笑みがこぼれた。
「うんめー」
「なあ、言った通りだろ?」
「おい、お前らも突っ立ってないで、こっちに、来て食えよ。こりゃあ、見た目以上にうめーぞ」
若い男が振り返った先には、同年代か、少々若い男女が数名と、小さな子供たちがいた。彼らの周囲は、何十メートルはあろうかという巨大な原生林うっそうとおい繁っている。
目の前は開けた平地があるが、陥没していて、中央には小型の宇宙挺らしきものが不時着していた。
お腹をならして、指をくわえていた小さな子供たちは、一斉に駆けよった。
「ほんとだ、・・・、テッド兄ちゃん、美味しいよこれ!」
「流石はマルコおじさん、料理の天才だね」
“おじさん“という言葉に眉間に皺を寄せるマルコだったが、子供たちの笑顔にそれもすぐに緩むのだった。
「だろ、早くお姉ちゃんたちも呼べよ」そう言われて、子供たちの中でも年長そうな男の子が、後ろの男女を呼びつけた。
「マキナお姉ちゃん、ウルスラお姉ちゃん、セルゲイ兄ちゃん、・・・、ローラ姉ちゃん、カレン」
「こらあ、タズナ。なんであたしにだけお姉ちゃんが付かないんだ」
不機嫌そうな女は、男の子の頭をこずいた。
「いやー、カレンはテッドの弟分って言うから、お姉ちゃんというのは失礼かな?って、ユズナが言うからさ」
「お前、俺のせいにするなよ。また、投げられたいのか」ユズナは、タズナに投げの構えをとる。
「こらあ、ユズナもタズナも喧嘩はよしなさい!すみません、カレンさん、わたしの躾が行き届かなくて」
男の子たちとそう年齢の変わらなそうな女の子が、丁寧に謝った。
「いいのよ、ユキちゃん。でも、流石はマキナさんの妹ね、しっかりしてるわ」
「いえ、いえ、わたし、家のことではユキには叶わないんですよ。研究と武道に明け暮れてますから」
「だったら、この機会にやっちゃうしかないんじゃない? 恋の方は全然望めなさそうだけど」
ウルスラは、周囲の男どもを見回して、いかにも残念そうに言った。
「ウルスラ、そりゃねーだろ、ここに健康で頼もしい男がいるじゃんよ」
半裸の逞しい男は、右指で自分を指しながらにやけ顔で、ウルスラに迫った。そこに物凄い勢いで重い正拳突きが男の右ほほ側面を貫いた。思わず男は背後の原生林の幹に背をつける。鋭く重い正拳突きは、樹齢数千年はあろうかという太い木の幹の分厚い表皮を陥没させた。
拳の摩擦で表皮からは煙が発し、拳が陥没した瞬間、大木は地震でも起きたかのように、拳が陥没した地点を震源地として、幹を伝って遥か二十メートルは上方にある葉枝を震わせ、葉枝で休んでいた昆虫や鳥を追い払い、根と地中の隙間からも蜥蜴などの小型の爬虫類が這い出して来た。
「いったい、誰のせいで、あたしらこんな辺境地にいるのかしら、ねえ、テッドさん」
カレンは、幹に埋もらせた右拳をゆっくりと離した。
「ちぇ、なんだもう離れんのか?もっちとくっついてろよ。まったく、サービス精神足りねーな」
カレンが離れた理由は明白だ。テッドがカレンの胸の谷間に挟まれ至福の歓びの中にいたからだった。その表情は土砂崩れ的にキモさすら感じられたのだ。そして、離れ際に彼女は蹴りを放ったが、テッドは即座にしゃがみ込んで前転し、石の竈から揚がった虫を手に取り、カレンの口に突っ込んだ。彼女は思わず噛みこみ、無言になた。
「・・・・・・、何、うま。これ、マジ、うま」
カレンは、テッドを押し退け、石の竈で、みなと食事をしだした。無理もなかった。丸三日の間、空腹を抱えていたのだから。宇宙挺にも数ヵ月は飢えを凌げる非常食はあったが、それらは本当に食べるものが無いときのもので、酸素もあり、人が住める惑星の場合は、その自然のものを食すのが無難である。
だが、成分調査は重要で、三日間要して、今しがたそれが解けたのだった。最初に解けたのは水だったが、直接飲むにはきついと言うことで、ろ過器を使い、さらに蒸留したものを口に含んだ。雨露ならば口に含んでも大丈夫だが、川の水には土壌に含まれる毒ではないが、多量に摂取すると、胃腸を壊す成分が含まれていたので、女性や子供に与えるには用心が必要だったからだ。
昆虫の揚げ物料理を与えた男、マルコはそいう知識と技量を持ち合わせているのだた。
「まったく、マルコ様様だな。お前をコックとして雇ってて良かったよ」
「でも、なんで昆虫なの?鳥や獣は居ないの?」
「獣肉が欲しいって、言いたいのでしょうけど、この星にはほ乳類はまだ居ないのよ。鳥類や爬虫類はいるけど、大きさがね」
「大きさが何よ、マキナ」
「とてつもなく、デカイんだよ。砂虫ほどじゃないが、人間様よりは遥かにでかいんだよ。あれじゃ、俺たちが彼らのお食事になりかねないぜ」
「だから、昆虫なんだな。こんだけデカイから、二、三匹も食えば結構満足できるし、栄養価も高いんだぜ」
テッドは、根っこの間に、花瓶のような形をした花を見つけ、それを摘み取り、軽く絞って中の液体を口の中に放り込んだ。テッドは、頬を膨らまし赤く染めて、足下をよろつかせた。
「旦那、見つけるの早いな。それ、ショットの原酒だろ。度数は弱冠低いが、幻覚成分あるからな。飲みすぎには注意しろ!」
「ちょっと、テッド。大丈夫、子供たち、真似しない?」
ローラが心配そうに、テッドの方を見る。
「大丈夫だって、この花の蜜の香りは亜熱帯の果物のようで、臭いがきついんだ。子供の嗅覚だと、鼻が曲がる臭いだぜ、ほれ」
テッドは別の花瓶花をつまんで、子供たちに近寄ろうとすると、子供たちは片手で親指と人さし指で鼻をつまんだ。
「な、子供たちにはこの臭いが糞のように感じるんだ。だから、近寄ることもできないさ」
テッドは、再び花の中の発酵した蜜を絞り口の中に放ると、頬を膨らませてアルコールを口の中で発散させて、吸い込み、ひと呼吸おいた。
「に、しても、どうして、こうなっちまたんだかなあ」
テッドは、大きな原生林の波打つように地表に露出した根に腰をおろし、片膝をつき、空を見上げて大きなため息をついた。




