第四章 すばらしき仲間たち 第四話 命と心
「流石のお姉様もあの人にはかないませんでしたわね?」
「え、何が?」
「まさに蛇に睨まれたなんとやら、でしたわね」
「カレンさんが何をおっしゃりたいのかよくわからないのですが?」
「婚約者の方のおうちに行かれて、お姉様の正体がお義母様のタチアナさんにバレた話ですわよ」
「ああ、あの事ですか。確かにちょっとびびって、あたしとしたことが、ちびってしまいましたわ」
「お姉様が、ちびったのですか?」
「あたしとしたことが、ちょっぴり失禁してしまってましたの。その時は平然にしてたのですけど。お下にほんの微量の生暖かいもの飛び出しましたわ。
あの方、お近くで見ると凄い迫力なんですもの。あんな人とも対等に戦われるカレンさんをあたしは尊敬いたしますわ。あたしといたしましては、姉の座をカレンさんへお譲りしたいくらいですわ」
「そんなにびびっておられたとは胸中お察ししますが、お姉様のことですから自業自得でしょう。ですから、姉の座はお受け致しかねます」
ウルスラは痛いところを突かれ、悔しい顔をする。しかし、すぐに気を取り直しすまし顔に戻る。
「でも、そのお話。どなたから、お聞きになったのかしら、カレンさん?」
「お姉様が先日、商談に出られていた際に、近所を通りかかったとマリアさんがこられましてね、そのときのお話を寸劇で披露されてましたの。
来客扱いでしたから、お屋敷の方に上がっていただいてましたので、クレアもクスクスと笑っていましたわ」
あのブリッ子ババア、よくもペラペラと・・・・、ウルスラは握りこぶしをした。
「お姉様って、あのタチアナさんの娘さんに凄く可愛がられていらっしゃるんですってね。わたしも見てみたいですわ。
お姉様が、あの方にふにゅふにゅされて、可愛らしい声をあげているところを」
「なんだか、とても嬉しそうですねカレンさん」
「ええ、わたしも、お姉様の恥ずかしいお姿を見たいですから」
「でも、あの方は、人前では見せびらかし程度にされるだけで、部屋ではとても落ち着いてお話をされますのよ。カレンさん以外で、あたしが、心を許せるお方ですわ」
「それに致しましてもお姉様。わたくしたち、何ゆえこのような口調で話しているのでしょうか?」
「きっと、普段はとてもお上品なんですよ!と、でも読者に紹介したかったのかもしれませんね」
「はあ、なるほど納得ですわ。でも、疲れますので、そろそろやめませんか?」
「そうですね。やめましょう........とは、言ってもこの子たちがどかないと身動きできないわね」
ウルスラは自分の膝を枕に眠るアダムの頭を優しく撫でる。
「そうね。この子たちだと、テッドのように邪険には扱えないものね」
イヴは、カレンに抱かれて揺りかごにでもいるかのようにすやすやと眠っている。
「いつの間にかなついたね。最初はテッドやマリアにべたべただったけど。次第にあたしたちに寄り添って来た感じがするわね。
それと、心なしか、この子たちの容姿があたしたちに似てきているのは、気のせいかしら」
ウルスラは、アダムの顔をまじまじと見ては、誕生したころの写真と見比べてみた。確かに違っている。中性的で無人格だった二人は、ここ一年ちょっとで大きく変わっていた。
「お姉ちゃん、気のせいでは無いみたいよ。この子たちは、自分の主と認める者に容姿を似せていくのだそうよ。だから、あたしらは彼らにご主人と認められてはいるようよ。
こうまで身を投げ出して来るということは、これがその証明ってわけよ」
「なるほどね。でも、この子らがこうなって来て、あたしらに何かメリットがあるのかしら。優秀なクルーであること以外、この子らには求めてないのだけれど」
「そうよね、この子らの能力ってヒトを遥かに越えてるものね。話し相手にするというのが、目的にあるみたいなのよね。そのために家族に近い存在に感じられるというのがあるんでしょ?」
「明確な性別が無いのもその為なんじゃない。この子らには生殖器はついていない。
しかも新陳代謝は極めて高くて、ヒトのように大量の排泄をしないというから、ある意味人類が求める究極の頂点を実現しているのかもね」
「でも、この子たちに心は宿っているのかしら、動植物は心というか、個の考えなどはなく、生きるという生命存続の為に遺伝子に組み込まれたプログラムである本能だと言われてるけど、あたしたち人類にも本能はあるわよね。
でも、どんなに科学が進んでも人類は命を定義できないわね。
この子らは、科学者が命と心を模倣したに過ぎないのか、それとも自ら命と心を得ているのか、わたしには分からないわ」
「それはわからなくてもいいのかもね。わたしたちは、モニタも兼ねてこの船の全ての装備を余すことなく使って能力を引き出すことで報酬をいただいてる。
時期がくれば、全てのモノは返却しなくちゃいけないけど、そのリストにあの子らは、無かった。引き取ったときのリストには、あの子らはFUY-9000の拡張ユニットとして登録されていたけど、解凍後はリストから消えていたわ。
それが、あたしたちの疑問に対するひとつの答えだとわたしは思うわ。これは、マキナにお礼をしなくちゃね」
「そうね。あの子、研究室にこもって一生終えるのは嫌なんて言ってたし、時にはガス抜きでわたしたちが連れ出してあげなくちゃね。
あ、でも、お姉ちゃんみたいに無断で研究室からの拉致とかはダメだよ」
ウルスラは、カレンが何のことを言っているのか、瞬時にはわからなかったが、ようやく意味を理解し、それが名案に思えてきた。
「その手があったかあ!
カレンちゃん、ナイスアイデア。さすが、あたしの妹だわ」と、カレンを褒めるが、今度はカレンがきょとんとなる。
「善は急げよ。早速、プランをたてましょ。アダム起きて!」
ウルスラは、寝ているアダムをそっと起こした。アダムはパチリと目をさますと、すくっと起き上がり、ニッコリと笑顔を見せた。
「ウルスラさん、何やら楽しいお仕事のようですね」
「そうなの、ちょっとやっかいでさあ。あんたの手を借りないと無理なのよ」
アダムは一瞬目を閉じ、艦内情報を読みとって、ことのあらましを理解し、防犯システム記録を改竄した。
「なるほど、わたしたちのママを秘密裏に研究所から連れ出して、エンジョイさせたのち秘密裏に元に戻すのですね。
まるで、ピーターパンです。とても面白そうです」
ウルスラとアダムは、きゃっきゃと、はしゃぎながらフロアエレベーターでブリッジへ降りてしまった。
「ちょっと、お姉ちゃん、アダム、何考えてるの?」
カレンは、姉のまた悪い癖が始まったと戸惑うが、抱き抱えているイヴがそれを解決してくれると踏み、優しく揺さぶった。
「イヴ起きて、そして、お姉ちゃんとアダムを止めて!」
イヴは目をさましたように見えたが、実はアダムの目覚めと同時に目覚めており、ことのあらましは理解できていたので、むしろ、カレンが起こしてくれるのを心待にしていたのだ。彼女は、あたかもパチリと目を覚ましたふりをして、カレンの膝から滑り降りると、フロアエレベーターへ向かい、エレベーターの入口で振り返った。
「面白そうなので、わたしも参加してきます。カレンさんも参りましょう。きっと、刺激的な冒険があると思いますよ。さあ、早く、早く」
イヴは、まるで小さな子どものように、手招きする。カレンは、苦笑いし、頭をかきながらも、イヴのあとを追い、エレベーターに乗り込むのだった。




