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星屑のリング  作者: 星歩人
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第四章 すばらしき仲間たち 第三話 お義母様

 女はそわそわしていた。十八になったばかりの息子が将来を約束しあった彼女を連れてくるというのだった。しかも、超がつくほどセレブなご令嬢だと聞き、わずかながらの体裁の悪さと、緊張感でいつになくギクシャクしていた。


 仮にも息子の嫁、自分の義理の娘になる人でバッカス家当主のご令嬢でもあるので、粗相があってはならず、田舎者呼ばわりされ、顧客の信用をなくすことになってはもとも子もない。

 それで、年齢相応の服装や化粧にすべきかと、女は思い悩んでいた。

 それにしても、父親譲りの技術屋稼業にどっぷりはまった息子が、女の子に興味を示し、恋仲になってそまうとは、よもや思っていなかたので、彼女の驚きようは尋常ではなかった。もちろん、周囲はその様子を伺い知ることはなかったが、彼女の頭の中には華やかな家族生活で彩られていた。

 息子の妻との楽しい会話、ショッピング、旅行、孫たちにかこまれた穏やかな日々。彼女がそこまで舞い上がってしまうのには理由があった。長女タニアの存在である。


 娘には、自分のようなヤクザな稼業に入ってほしくないと、お金持ちの御嬢様たちが通う学校に入れた。

 もともと、年下への面倒見は良かったので、後輩にも慕われ充実した学園生活を送ってたかに見えた。そして、名家の御嬢様とも大親友となったようだったが、彼女は科学の成績が良いことに目をつけられ、半ば幽閉にも近い形で学園から連れ去られてからは、態度が徐々に変わっていった。

 反社会とは言わないまでも権力に楯突く態度を徐々にとりはじめたのだった。それは、若い頃の自分を見ているようで、怖かった。あるとき、娘は言った。

「あたし、お母さんの助手をやりたい」と、その先の目的は、わかっていた。裏事情の精通者となり、幽閉された親友を助け出したいのだと。娘、タニアの一途な思いに負け、女は運び屋仕事の手解きをした。

 タニアはことの他、覚えがよく、十六になったのをきっかけに一人立ちをしてしまった。たまに家にはふらりと来るものの、浮わついた話はひとつもない。親友がいた頃には、お付き合いのあった人もいたけど、親友のことを諦めろという態度に腹をたて、絶交し、男、特に富裕層の男を見下すようにもなり、このまま男性と関わりを持たなくなってしまうのではないかとさえ、思えていたからだった。

 タニアの親友は何度かうちにも遊びに来たことがあった。プラチナブロンドの長い髪、透き通る程に白い肌、すらっとした美脚、丁寧な言葉使い、スポーツ万能で、料理や家事までこなさるスーパー御嬢様だった。セルゲイは、恥ずかしがってあまり話をしていない様子だった。彼女の名前ははっきりとは覚えていない。

 だが、彼女は、タニアをお姉ちゃんと呼んでいた。タニアの彼女に対する第一印象は、あまりにも神々しくて近づけなかったそうだが、校内球技大会で決勝で当たり、接戦の末に勝ってから二人は大の仲良しになったというのだった。


「セルゲイ、お前がロボットやデクドロイドじゃなく、生身の女の子に興味を持ってくれて、母さん嬉しいよ。

 それに、一年ちょっと前にだらしなさそうな、ハッカーの女に熱をあげてたこともあったじゃないか。髪は寝癖つけまくりで、目は髪に隠れて、生活はダラダラだった。天才肌には多いタイプで珍しくはないし、きちんとすれば、それなりの美人だったかも知れないけど、あれは無いわね」

 息子は、少し困った顔を見せたが、すぐに取り直し、母の肩を抱く。

「なんだよ母さん、クールな運び屋に似合わないださい物言い」

「ごめんね。あなたの彼女の写真を見てたら、新しい娘ができたような気がしてね。わたしもトシなのかしらね」

 などと、若づくりで業界のトップを突っ走ってきた彼女からは考えられないほどの弱き発言が飛び出すのだった。


『そろそろ、いいかしら』


 インターホン越しに彼女の声がする。息子は、ドアモニタに写る彼女の映像と声紋、認識コードを確認が完了すると、ドアが開いた。

 目の前には、きらきらと美しい光につつまれた清楚な少女がいる。

「お義母様、ご無沙汰してます。ウルスラ・バッカスです」

 女は、ウルスラと名乗る息子の恋人が言う“ご無沙汰してます“の意味をはかりかねていた。しかもウルスラという名前もどこかで聞いたような、聞かないようなですっきりしなかったが、黙っているのも失礼なので社交辞令的に「ウルスラさん、ようこそ。さあ、おあがりなさい」と即座に返した。

 しかし、女は、ウルスラの匂いに動物的なカンが即座に働いた。この匂いには覚えがあると彼女の五感はビンビンと感じとり始めたのだが、とっても感じの良かったものと悪かったものが同時にきてしまい混乱した。故に、ウルスラの背中に待ちなさいと言えずに、客間へ通してしまったのだった。


 客間での会話は、比較的穏やかなムードから始まった。生い立ちの話や学園生活の話、そして、現在の仕事との話、趣味や家族の話とごくごく普通の会話なのだが、ところどころ気にかかる話もあり、そのたびに女は怪訝に眉を狭めた。女はどうしても、ウルスラが気になり「ウルスラさん、以前どこかでお会いしませんでしたか?」と切り出した。

「母さん、何言ってんだよ。一年前、惑星デュナンで惑星再生能力を持つ植物の捜索でトンでもない依頼して大迷惑かけた運輸業者至ろう。あそこの協同経営者で、テッド伯父さんやマリア伯母さんの友達だよ」

「一年前、大迷惑かけた? はて、そんなことあったっけ? 覚えてないわ」


 息子は思い出した。自分の母親は他人への迷惑の意識など基本無いのだと言うことを。そこで言い直すことにした。

「一年前、事務所を移転して拡張したろ。あんときの金が入った仕事だよ」

「ああ、あれ。

 どうりで、ウルスラさんとは、どこかでお会いしたと思ったのよ」

「あのとき接客したのはあたしの双子の妹のカレンの方ですわ。あたしは彼女の後ろの方に居ましたから、お気づきになってなかったと思いますわ。

 最近は、見分けがつきやすいように、あたしはロングに、妹はショートにしてますの。セルゲイが間違って妹にキスしたり、包容したら大変ですからね。あの子、喧嘩早くて、相手が殿方でもガチで殴りますから。体を寄せあってくるような男には免疫がないんです」

 セルゲイは、俺はそんなに鈍いやつじゃないぞ!と言わんばかりの顔をしたが、ウルスラは、話を合わせてと、ウインクをした。

「でもね、あなたとはそれよりも前にお会いしている気がするのよ。ひとつは、凄く嫌な思い出があって、もうひとつも、あまりいいとは言えないのよ。最終的にというか、あの子が出てきそうで」


 すると、女がびくつく音がした。音がしたのは台所のあたりからだ。

「ちくしょう、しけたもんしかねーなあ」と乱暴な女の声がする。

「まさか、姉貴」セルゲイは、身をすくめる。

「ちょっと、お待ちいただけないかしら」と、女は台所へと行くが、うきうき顔のウルスラも後から付いて行く。セルゲイにも来いと手招きするが、セルゲイは、壁に背中をつけ嫌だと拒んだ。けれどもウルスラは強引に連れていく、彼女の柔らかい手に握られると拒めなくなってしまうのだ。

 台所へ行くと、濡れた赤毛、パンティー一枚、首にかけたバスタオルで量胸を辛うじて隠している若い女がいた。若い女は、口にジャーキーを加え、ショットと呼ばれるアルコール缶を手に持っていた。

「ああ、母ちゃん。飯作ってよ。あたし、腹へってさー」

「タニヤ、あんた、いつ、どっから入って来たの」

「帰ったのは昨日、屋根裏部屋でさっきまで寝てた。玄関の鍵のコード変えたでしょ、屋根裏部屋だけ前のまんまだったから、布団あって良かった」

「今、来客中なの、もうしばらく屋根裏部屋に引っ込んでてくれない、仕事のこととか聞かないから」


 女は、タニアの背中を押し、台所から追い出そうとする。タニヤは横目で、軽く会釈するきらびやなお嬢様を目にした。彼女の目はえへと笑みを浮かべるウルスラに釘付けとなった。

「嘘、ウルスラちゃん? あんた、ウルスラちゃんでしょ」

 そして、母親の腕を振り払って、ウルスラに抱きついた。

「この匂い、スベスベで透き通るように白いお肌、絶対にウルスラちゃんだ。奇跡だ、いつ出て来れたの。あたし、消息がつかめなくて途方にくれてたのに」

 タニアはウルスラの左手の薬指にはめられた指輪を見逃さなかった。

「ウルスラちゃん、あんた誰かと婚約したの?」

 ウルスラは、キッチンの壁に背中を押しつけて怯えるセルゲイを指差した。

「えーーーーーー、アレと、嘘でしょう。え、じゃあ、エッチなことも、いっぱいしちゃったの?アレと、」

「ええ、っまあ、つきなみには」

 ウルスラはタニヤの迫力に押され、セルゲイとのこれまでのことを思いだし、思わず赤面してしまう。それを見たタニヤは獣のような目付きで弟に襲いかかる。

「セルゲイ、貴様。あたしのウルスラちゃんに恥ずかしいことしただと! 例え弟であっても許せん。そこに直れ、成敗してくてる」

 セルゲイは、大声をあげて、姉の気をそらすと隙をみて逃げ出し、それをタニヤが追いかける。

「しばらく、放っておきましょ」と、女はウルスラの髪を掴みくしゃくしゃにして、「穴明け名人さん」とニンマリ顔を近づけた。


「あれ、バレてました。ID認証とか違うのに」

「あたしわね、動物的な直感でわかるの」

「で、どうします?」

「しょうがないわね。息子があんたに惚れて、ナニしちゃってるし、娘の大親友でもあるから、チャラにしてあげるわ」

 義理の母になろうかという女の言葉に、要領の得なさを感じたウルスラは、低姿勢に表情を伺いながら、「あのう、お義母様。あの依頼で、現実に被害被ったのは、むしろわたしと妹なんですけど?」と言った。


「それが何? それって、一年も前に済んだ話でしょ」

 ウルスラは、女の意外な反応にキョトンとする。女は、咳払いをして、ウルスラをキッと睨み付けて言った。

「あのねウルスラちゃん、あたしがあんたにチャラにしてあげると言ったのはね。

 このタチアナ様に平然と嘘をついたということだよ!分かった?」

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