【02】 ハッピーハイツ203号室
その日の午後、
丹沢は市役所の公用車を借り、
若石元気ではなく、
新人職員宮入芽衣と一緒に
爽香の住所登録されている部屋に向かった。
課長が若石の外出を
許さなかったからだ。
課長は新人を付けることで、
少しでも調査の妨害を図った。
15分ほどして、
丹沢と芽衣は、
速水爽香が住所登録した建物に着いた。
丹沢と芽衣の二人が車から降りた。
二人は2階建ての共同住宅
『ハッピーハイツ』の階段を上った。
『203号室』が
爽香の借りている部屋だった。
しかし、表札は無い。
二人は部屋の前に立つと、
最初に電力のメーターを見た。
電力メーターの
アルミニウムの円盤が
非常にゆっくりと回っている。
丹沢は、
何百回と調査している経験から、
それは冷蔵庫の電気量ぐらいで
回る速さだと判断した。
芽衣「ノックしますか」
丹沢「うん」
芽衣がゆっくりとドアをノックした。
『トントン』
しかし返事はなかった。
しばらくしてもう一度、
『トントン』
返事が無い。
丹沢「人の気配がないな」
芽衣「そうですね」
そのとき突然、
隣の部屋のドアが開いた。
部屋から70歳ぐらいの女性、
市原和子が出てきた。
和子がチラッと2人の方を見た。
丹沢「あ、すみません。
私、美浦市役所の者なのですが、
こちらに住んでいる方、
ご存知でしょうか?」
和子「さぁ」
丹沢「見たことがないですか?」
和子「ないね」
丹沢「過去に一度も見たことがないですか?」
和子「ないね」
丹沢「住んではいますよね?」
和子「どうだかねぇ?
少なくともここ数日間は夜、
明かりがついたのさえ
見たことがないね。
それ以前は覚えてないわ」
そう言うと、
さっさと階段を降りて行ってしまった。
芽衣「ありがとうございました」
芽衣が下りていく和子の背中越しに
御礼を言った。
だが、和子はそれに応えることもなく
行ってしまった。
丹沢と芽衣は
『ハッピーハイツ』の近くに車を止め、
車内から203号室を
見張ることにした。




