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不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第七章 『過去戻しの回廊』
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88.あなたは誰ですか

「レビテーション」


ノアの周囲に風が巻き起こる。足元から吹き上がった風が身体を包み込み、ノアがゆっくりと宙へ浮かび上がっていく。


風圧で髪が乱れる。だが、ノアはデルトを見ていた。


ノアは空中で姿勢を整えると、天照をデルトへ向けた。


「アースショット」


ノアの前方に、二つの岩が生み出される。岩は勢いよく飛び出し、デルトへ向かって一直線に迫っていく。


デルトは身体を横へ滑らせ、一つ目の岩を躱す。続けて飛来した二つ目の岩へ向かって、剣を振るった。


ガキンッ!


岩が真っ二つに斬り裂かれる。砕けた岩の破片が、デルトの足元へ転がった。


ノアは宙に浮いたまま、デルトを見つめる。


「……やっぱり、強いです」


デルトは足に力を込め、地面を蹴った。一気にノアとの距離を詰める。


ノアは風魔法を操り、空中を後方へ移動する。


(デルトに近づくのは危険です。このまま遠距離から……)


ヒュンッ!


風を切り裂く音が響く。


「――!」


ノアは咄嗟に顔を逸らす。瞬間、一本の矢がノアの頬を掠めていった。


「……クロスボウ?」


デルトの手には、いつの間にかクロスボウが握られていた。


ノアは移動を続けながら、天照をデルトへ向ける。


「ファイアショット」


火球が生み出され、デルトへ向かって飛んでいく。デルトは火球の軌道を見極めると、身体を僅かに逸らした。


火球が、横を通り過ぎる。


「避けると思いました」


ノアが手を振る。


その瞬間――


デルトの横を通り過ぎた火球が、方向を変えた。


「――!」


ドォンッ!


火球がデルトのすぐ横で爆発する。爆風が周囲へと広がり、デルトの身体を飲み込んだ。


ノアは地面へ着地すると、天照をデルトへ向ける。


「フォス・レーザー」


天照から赤い光線が放たれる。一直線に伸びたレーザーが、デルトを捉えた。


赤い光が鎧を焼き、金属が溶けていく。


ジュウゥゥ……


肉が焼ける音が、空間に響く。


「…………」


(これで……デルトを――)


ノアの手が震える。同時に、レーザーの出力が不安定に揺らぐ。


その隙を、デルトは見逃さなかった。


レーザーの中から、デルトが飛び出す。ノアへ向かって、一気に距離を詰める。


「……!」


ノアは咄嗟に天照を向け直した。


デルトを止めるために次々と岩を撃ち出す。


ガンッ!


デルトは岩を避けながら突き進む。


「まずいです……!」


ノアは風魔法を発動する。


足元から巻き起こった風が身体を包み込み――


「――っ!」


ノアの身体を後方へ大きく吹き飛ばした。


ブンッ!


デルトの剣が風を切りながら振り抜かれる。


ノアがいた場所を、鋭い斬撃が切り裂いた。地面を転がりながら距離を取り、すぐに立ち上がる。


息が荒い。


そして――


手が震えていた。


(やっぱり……デルトを殺すのは…………)


ノアは震える手を、もう片方の手で押さえる。


デルトはそんなノアを見つめながら、クロスボウへ新たな矢を装填する。


「……!」


クロスボウがノアへ向けられる。


「アースショット!」


ノアは天照を向け、三発の岩を撃ち出した。


三発の岩が、時間差をつけてデルトへ迫る。デルトは岩の軌道を読みながら、距離を取りつつ躱していく。


一発目。


二発目。


そして――三発目。


岩がデルトの目の前まで迫った。


ノアが手を振る。


「――っ!」


岩の表面が大きく割れた。


そこから無数の棘が伸び、デルトへ向かって一斉に突き出される。


デルトは身体を大きく捻った。棘が鎧を掠め、そのまま背後へ突き抜けていく。


デルトは体勢を立て直し、ノアを見据える。


「………」


ノアもまた、デルトを見つめる。


(……何か、おかしいです)


────────


鋭い植物が地面から次々と突き出してくる。


「っ!」


フシは身体を捻り、紙一重で躱す。


ドゴォンッ!


避けた直後、背後の地面に突き刺さった植物が土を大きく抉った。


「…………!」


フシの額から汗が流れる。


(植物一つ一つに意思があるみたいに動いて近づけない。しかも――)


地面から伸びた太い蔓が、フシのいた場所を薙ぎ払う。


ブンッ


フシは身を屈めて躱す。そのまま、蔓が岩へ直撃する。


ドガァンッ!


岩が砕け、破片が周囲へ飛び散った。


(当たったら、ただじゃ済まない……!)


フシは弓を構え、男へ向かって矢を放つ。


ヒュンッ


矢が風を切りながら、男へ一直線に飛んでいく。


パシッ


その瞬間、男の足元から蔓が伸びた。矢に絡みつき、その動きを完全に止める。


(どれだけ強く撃っても防がれる)


男は何もせず、その場に佇んでいる。ただ、金色の瞳だけがフシの動きを追っていた。


「──ッチ」


フシは懐から形成晶を取り出す。


(この植物が精霊魔法なら、どこかに魔法陣があるはずだ)


フシは形成晶を握りしめる。


「ゴーレム! 魔法陣を探して破壊しろ!」


形成晶から植物の蔓が勢いよく伸びる。


地面を這い、土を押し退けながら地中へ潜っていく。蔓は地中を進み、魔法陣を探し始めた。


男の前で、植物が次々と集まり始める。蔓が絡み合い、何本もの枝が束になっていく。


(何かする気だ)


フシは弓を引き絞る。


何本もの矢を一気に放つ。


ヒュンッ! 


だが――

男の前へ伸びた蔓が矢を絡め取り、すべて止めてしまう。


「……面倒臭い」


その間にも、植物はさらに集まっていく。


ミシミシ……


ミシミシミシ……


大量の蔓が軋み、巨大な塊となっていく。


そして――


集まった植物が、一気に解き放たれた。


巨大な槍のように束ねられた蔓が、地面を抉りながらフシへ向かって突き進む。


(避けられない!)


フシは咄嗟に腕を前へ突き出した。


植物が身体へ届く――その直前。


ピタッ


植物の動きが止まった。先端から、ボロボロと崩れていく。


フシの手には、反魔晶が握られていた。淡い光を放つ反魔晶が、植物の魔力を押し返している。


「貴重な一回を使っちまったよ」


その直後――


バキッ


地中から、何かが壊れる音が響いた。


「……!」


男の周囲にあった蔓が、一斉に力を失う。葉が萎れ、枝が枯れ、地面へと落ちていく。


(魔法陣を壊せたか。今がチャンス!)


すぐさま弓を構える。


弦を引き絞り――

同時に二本の矢を放った。


男の背中から、再び蔓が伸びた。


(まだ魔法陣を持ってたか)


蔓が伸び、一本目の矢を掴む。

続けて、二本目の矢へ向かって別の蔓が伸びていく。


だが――

二本目の矢を捕らえる直前、蔓がみるみるうちに枯れていく。


その矢には、反魔晶が取り付けられていた。


(効果が持続しているうちに届いてくれてよかった)


矢はそのまま進み――


ズブッ


男の腹部へ深々と突き刺さった。腹部を押さえ、膝をつく。


(急所から逸れた……)


フシは男の背後で蠢く蔓を見つめる。


(同じ手は使えない)


普通の矢を撃っても、次は防がれる。


なら――


「今だ!」


フシは短剣を引き抜く。


男が体勢を立て直す前に、地面を蹴った。この機会を逃すわけにはいかない。フシは短剣を握りしめ、とどめを刺すために男へ駆け出した。


だが、男はゆっくりと顔を上げる。


「フシ」


その声は、空っぽだった。


愛情も、喜びも、懐かしさもない。


ただ、名前を呼んだだけ。


それなのに――


フシの足が止まった。


「…………」


短剣を握る手に、力が入らない。目の前の男が誰なのか。


本当に自分の父親なのか。そんなことを考えるより先に、身体が反応していた。


「……父さん?」


バシッッ


横から伸びてきた蔓が、フシの横腹を直撃する。あばらから、鈍い音が響いた。


「が……っ!」


フシの身体が吹き飛び、そのまま地面を転がる。土が服に付着し、背中を擦る。


「……油断した…」


フシは痛みに顔を歪めながら、身体を起こす。


男は立ち上がり、フシを見る。その目は何も映っていない。


「…………」


フシは横腹を押さえながら、男から目を離さなかった。力を振り絞り、弓を構える。


今は、この状況をどう乗り切るかだけを考える。


ヒュンッ


矢を放つ。


男へ向かって一直線に飛んでいく。


だが――


パシッ!


男の前に伸びた蔓が、矢を絡め取った。


フシは周囲を見回す。


男の向こう側。そこに、先ほど使った反魔晶が転がっている。


(反魔晶は……拾えそうにない)


フシは男の腹部を見る。そこからは、今も血が流れ続けている。


(急所を逸れたとはいえ、俺の矢は貫通力が高い)


(相手も余裕はないはずだ)


フシは矢筒から新たな矢を取り出す。


「……っ」


突然、頭の奥を杭で打ち込まれたような痛みが走った。視界が大きく揺れる。目の前の景色が二重にぶれ、地面が傾いたように感じる。


「……はぁ……」


口の中に、嫌な苦味が広がっていた。唾を飲み込むだけで吐き気が込み上げてくる。


(あの蔓……毒でも仕込まれてたか)


冷たい汗が背中を伝う。


(気分が悪い……)


それでも、震える腕に力を込め、弓を引き絞る。息が浅くなる。胸が苦しい。心臓が嫌なほど速く鳴っている。霞む視界の中で、男だけを見据える。


「そこだ」


弦から指を離す。


ヒュンッ!


矢が風を切り、男へ向かって飛んでいく。男の蔓が矢を防ごうと伸びる。


だが――


矢が軌道を曲げる。弧を描きながら蔓の隙間を抜け、男の死角へ回り込む。


そして――


男の目の前まで迫った。


パシッ


しかし、矢は呆気なく蔓に掴まれた。


「…………」


フシは小さく息を吐く。


「まあ……軌道を曲げた程度じゃ、防がれるよな」


その瞬間、矢を掴んだ蔓から、別の蔓が勢いよく伸びた。


男は咄嗟に身を引く。だが、遅い。


フシの蔓が男へ絡みつき、頭部を包み込む。


男の蔓もフシを倒そうと伸びてくる。


「じゃあな」


フシが手を握る。


グシャッ!


蔓が一気に締めつける。男の頭部が潰れ、身体から力が抜ける。


そのまま、男は地面へ倒れた。


(夢の中のアイデアだが、上手くいくとは思わなかったな)


「俺の勝──」


フシの言葉が止まる。


「……ごほっ!」


喉の奥が焼けるように熱い。


次の瞬間、口から血が溢れた。


「が……っ!」


血の生温かさが舌を覆い、鉄のような味が口いっぱいに広がる。フシは咳き込みながら、地面に血を吐き出す。


「ごほっ……ごほっ……!」


肺まで痺れているように苦しい。息を吸おうとしても、喉がうまく開かない。

手足から力が抜けていく。視界の端が暗くなる。耳鳴りが響き、遠くの音が水の中にいるようにぼやけていく。


冷たい汗が額から頬を伝い、顎から地面へ落ちる。フシは倒れまいと両手を地面についた。


だが、指先に力が入らない。


「……クソ……」


身体が熱い。


なのに、指先は氷のように冷たい。


「……毒……効いてきやがった…」

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