6.蘇生
王都から遠く離れた、小さな村。
「お父さん! 早く帰ろうよ! 今日はごちそうなんだから!」
少年は弾むような足取りで振り返る。
「そうだな。」
父親は肩に担いだ獲物を見て、満足そうに笑った。
「今日は罠に大きな鳥がかかっていた。母さんも喜ぶぞ。」
「やったー!」
少年は嬉しそうに駆け出した。
川辺を通りかかった、その時だった。
「お父さん、あれなにー?」
少年が指差した先には、川岸に一人の青年が倒れていた。
全身は血に染まり、服は裂け、川の流れに半ば沈むように横たわっている。
父親はその姿を見た瞬間、顔色を変えた。
「まさか……!」
肩に担いでいた獲物を放り捨て、父親は一目散に川辺へ駆け寄った。
「しっかりしろ……!」
青年の手首に指を当てる。
脈は、ない。
鼻先に手をかざしても、呼吸は感じられなかった。
「……死んでる。」
父親は思わず息を呑む。
(この服……。)
(王都の貴族……いや、それ以上の身分かもしれない。)
(なぜ、こんな辺境の村に……。)
その時だった。
「――っ!」
倒れていた青年が突然大きく息を吸い込み、激しく咳き込んだ。
「はぁ……っ、はぁ……っ。」
父親は目を見開く。
「なっ……。」
確かに脈も呼吸もなかった。
死んでいたはずだ。
それなのに、青年はゆっくりと上半身を起こし、周囲を見渡す。
「……ここは、どこだ?」
やがて父親と目が合うと、青年は頭を下げた。
「すみません。私はティシアと申します。ここはどこですか?」
父親は何が起こったのか理解できず、口をぱくぱくと動かすことしかできなかった。
「お父さん、この人大丈夫?」
少年の声で、父親はようやく我に返る。
「あ……ああ。」
「ここは王都から西にある、ベルン村だ。」
そう答えながらも、父親の視線はティシアから離れなかった。
(間違いない。さっきまで……この青年は死んでいた。)
「ベルン村だ。王都から馬車で三日はかかる。」
「……そうですか。」
(あれから、一日ほど流されていたのか……。)
ティシアは腹部の傷へそっと手を当てる。
確かに刺されたはずなのに、傷は跡形もなく消えていた。
「お父さん!」
少年がティシアの手を取って笑顔を向ける。
「今日はね、お父さんが大きな鳥を捕まえたんだ!」
「だから、ごちそうなんだよ!」
「お兄さんも一緒に食べよう!」
ティシアは目を丸くした。
「え……。」
「でも、私は、、、」
父親は困ったように頭をかきながら笑う。
「まずは飯だ。話はそれから聞こう。」




