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不死身の王子  作者: ミミ
第一章 『孤独な王子の再生』
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5.神の死:サーナトス

暗闇だった。


光も、音もない世界。


ぼやけた意識の中で、一人の声だけが鮮明に響く。


「……其方が、私を目覚めさせたのか。」


ティシアはゆっくりと目を開く。


「……あなたは、誰ですか?」


暗闇の奥から、一人の青年が姿を現した。


「我の名はサーナトス。」


「兄アルジャの弟にして、死を司る神。」


その姿はアルジャによく似ていた。


長い白銀の髪に、整った顔立ち。


だが、背にあるはずの翼は根元から折れ、胸には大きな穴が穿たれている。


生きているはずのない、痛々しい姿だった。


「もう一度聞く。」


「我を目覚めさせたのは、其方か。」


「……恐らく、そうです。」


ティシアはゆっくりと頭を下げる。


「私はティシア・バシレウスと申します。」


サーナトスは静かに頷いた。


「そうか。」


「では、ティシアよ。」


「我を目覚めさせてくれたこと、感謝する。」


「だが、長く話している時間はない。」


「聞きたいことがあるなら尋ねるがよい。」


「我が答えられることであれば、すべて答えよう。」


ティシアは少し考えたのち、静かに口を開いた。


「アルジャや、あなたのことについて教えてください。」


サーナトスは小さく頷く。


「よかろう。」


「……どこから話すべきか。」


「まずは、ウラノスの民が神として崇めるアルジャについて話そう。」


「ティシア。この国に伝わる建国の伝承は知っているな。」


「はい。」


「神が荒れ果てた大地に降り立ち、人々に繁栄をもたらしたという話です。」


「その伝承は、嘘ではない。」


「あれに記されていることは、確かに真実だ。」


「……だが、語られていない真実もある。」


「この地に降り立ったのは、アルジャだけではない。」


「我もまた、兄と共にこの地へ降り立った。」


サーナトスは静かに目を閉じ、遠い過去を思い返すように語り始めた。


「当時、この地には魔力によって変異した生き物――魔物が数多く生息していた。」


「兄アルジャは人々へ恵みを与え、荒れ果てた大地を豊かな国へと変えていった。」


「そして我は、人々を脅かす魔物を狩り、この地の平和を守っていた。」


「民は我ら兄弟を神として崇め、その信仰は神である我らの力となった。」


サーナトスはそこで一度言葉を切る。


「……だが、それが悲劇の始まりだった。」


「私によって自らの信仰が分かち合われることを許せなかった兄は、強欲に心を支配された。」


「そして兄は、我が翼を引き裂き、神の刃でこの胸を貫いた。」


「神同士は殺し合うことはできぬ。」


「ゆえに兄は我を殺すことはできず、その代わりに力を奪い、この地の奥深くへ封印した。」


サーナトスは静かに息をつき、再びティシアへ視線を向ける。


「次は、我について話そう。」


「封印されたあとも、我の力が完全に失われたわけではなかった。」


「僅かに残った神力を使い、我は幾度となく人の夢へ語りかけた。」


「そして、欲に囚われず、他者のために涙を流せる者へだけ、封印を解く呪文を託した。」


ティシアは何かに気づいたように顔を上げた。


「……もしかして、その人はノミア・バシレウスという名でしたか?」


サーナトスは静かに首を横へ振る。


「いや。」


「おそらく、そのノミアとやらではない。」


「我が最後に夢へ現れたのは、遥か昔のことだ。」


「その者は呪文を石碑へ刻み、あるいは書物へ書き残したのだろう。」


「そして長い年月を経て、そのノミアとやらが偶然それを見つけた。」


「そう考えるのが自然だ。」


ティシアは俯き、小さく呟いた。


「では、なぜお母様は、その呪文を使わなかったのでしょうか。」


サーナトスはしばらく黙り込み、静かに口を開く。


「……恐らく、我が封印を解けば、この王国に大きな異変が起こると考えたのだろう。」


「兄アルジャの力によって成り立っているこの国は、我の目覚めによって均衡を失う。」


「ノミアは、それを理解していたのかもしれぬ。」


ティシアは息を呑む。


サーナトスは真っ直ぐティシアを見つめた。


「それでも、呪文を其方へ託した。」


「それはつまり――」


「王国を犠牲にする可能性があったとしても、其方だけは生きてほしいと願った、ということだ。」


その言葉を聞いた瞬間、ティシアの目に涙が浮かんだ。


「お母様……。」


その時だった。


パキッ――。


空間に一筋の亀裂が走る。


それを皮切りに、暗闇はまるでガラスのようにひび割れ始めた。


サーナトスは静かにその光景を見つめる。


「どうやら、時間が迫っているようだな。」


「時間……?」


「ここは其方の精神世界。」


「其方は崖から落ちた時、すでに命を失っている。」


「我は僅かに残った力で、肉体と魂の繋がりを辛うじて保っていただけだ。」


「この空間が崩れれば、その繋がりも途絶える。」


ティシアは息を呑んだ。


「つまり……私は、もう……。」


「ああ。」


「このままでは、完全な死を迎える。」


サーナトスはゆっくりとティシアへ歩み寄る。


「そこで、ティシア。」


「其方に一つ提案がある。」


「我の力は、封印された際に砕かれ、この世界の各地へ散らばった。」


「其方が我の呪いをその身に受け入れれば、不死の肉体を得ることができる。」


「其方は再び生きることができ、我は散らばった力を集める機会を得る。」


「……互いに利益のある契約だ。」


ティシアは静かに目を閉じた。


母の笑顔が脳裏に浮かぶ。


(お母様……。)


ゆっくりと息を吐き、再び目を開く。


その瞳に迷いはなかった。


「……やります。」


サーナトスは静かに微笑んだ。


「其方の決断に感謝する。」


次の瞬間、黒く深い力がティシアの全身を包み込む。


それは冷たくもなく、温かくもない。


ただ、死そのもののような静寂をまとっていた。


ティシアの意識はゆっくりと闇へ溶けていく。


薄れゆく意識の中、最後にサーナトスの声だけが鮮明に響いた。


「だが、これは祝福ではない。」


「永遠に死ねぬことは、人にとって最大の呪いでもある。」


その言葉を最後に、ティシアの意識は完全に闇へと沈んだ。

頭の中にあったイメージを一気に書き出したため、ここまでの更新は少し早めでした。

これからは物語を丁寧に進めていきたいので、投稿はゆっくりになると思います。

焦らず書いていきますので、これからも見守っていただけると嬉しいです。

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