1.王国の神
初投稿です。拙い所もあると思いますがよろしくお願いします。
この王国、ウラノスには古くから一つの言い伝えがある。
何もない荒れ果てた大地に神が降り立ち、人々に繁栄をもたらしたというものだ。
神の涙は恵みの雨となり、神の光は大地を優しく照らす。神の目は常に民を見守り、災いから守護する。
そして、最初に神の恩恵を受けた者は王となり、その血筋は代々この国を治めることとなった。
――――
「ティシア王子! 起きてください!」
誰かが私の肩を揺する。
「ん……ふわぁ……。何だ、エルミ先生か」
重たいまぶたをこすり、大きく伸びをする。
「今日は第一王子アノス様が十八歳を迎えられる成人式ですよ。そんな呑気に寝ている場合ではありません」
そう言って腰に手を当てるのは、私――第二王子ティシア・バシレウスの家庭教師であり、身の回りの世話もしてくれるエルミ先生だ。
先生は机いっぱいに積まれた本を見て、呆れたようにため息をつく。
「まったく……。意味もないのに夜更かししてまで勉強するなんて」
「意味はあるよ」
私は微笑みながら、本をそっと閉じた。
「お母様みたいに、たくさんの人を幸せにできる人になりたいからね」
お母様は六年前、私が十歳の時に病で亡くなった。
それでも私の憧れは、今も変わらない。
エルミ先生はもう一度ため息をつき、苦笑する。
「でしたらまずは、アノス様を幸せにするためにも急いで着替えてください。」
「……それもそうだね」
エルミ先生は先に部屋から出て会場へ向かった。
私は兄が嫌いだ。
物心ついた頃から、私の持ち物を盗み、失くした罪を私になすりつける。そして誰も見ていない場所では殴り、蹴ることも珍しくなかった。
その暴力は年々激しくなっている。
使用人も騎士も、その光景を見ても目を逸らすだけだった。
(どうして皆、助けてくれないんだろう……)
一度深呼吸をしたのち扉を出て会場へ向かった。
廊下を歩いていると、向こうから豪奢な礼服をまとった青年が歩いてきた。陽光を受けて輝く金髪は、この国の王族の象徴ともいえる色だ。
第一王子アノス・バシレウス。
「よう、出来損ない。今日もその黒くて地味な髪か。」
「…おはようございます。兄上、成人式はどうされたのですか、」
「いやなに、お前の顔を見るのも今日が最後だからな。せっかくだし、最後に会っておこうと思ってな。」
「確か、兄上が成人なさる時、私は別の国へ移るのでしたね。」
「……ぷっ。」
アノスは吹き出すように笑い、肩を震わせた。
「ははっ……そう聞かされていたのか。」
私は首をかしげる。
「ああ、お前は知らなかったんだな。」
アノスは口元を大きく歪め、愉快そうに笑った。
「俺が成人する日、お前は神への生贄として死ぬんだ。」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
死ぬ?
僕が……?
頭の中が真っ白になる。
「ああ、お前はやりたいことがあったんだっけ?」
アノスは私の顔を見ながら、鼻で笑った。
「母上みたいに、たくさんの人を幸せにしたいんだったな。」
その言葉に、胸が締めつけられる。
「可哀想にな。結局お前は、あの女の葬儀にも出られず、意思を継ぐこともできない。」
「…………」
「でも、今まで俺に何をされても耐えてきたんだ。最後くらいは、チャンスをやろう。」
アノスは不気味な笑みを浮かべたまま、私を見下ろす。
「この城の地下にある『神の扉』へ行け。」
「神の……扉?」
「ああ。伝承じゃ、神が降り立った場所だ。」
アノスは肩をすくめ、くつくつと笑う。
「運が良ければ助かる道があるかもしれない。まあ――」
その目には、嘲りしか浮かんでいなかった。
「せいぜい足掻いてみろ。」




