第13話 なんだかんだで家事を楽しむ寮生活
朝食が終わって、洗濯をしたらどうなるか?
あっという間に昼食の時間がやってくるのだ。
恐ろしいだろ、はっはっはっ。
「おい、真城。誰と話してんだよ?」
黒江は不思議そうな顔をして真城に聞いた。
「えへへ。内緒~」
笑って誤魔化す真城は食堂の流し前にいた。
「真城って独り言多いもんな」
トマトとキュウリを運んできた坂下が、さりげなく言って去っていこうとするのを、黒江は襟首ひっつかんで聞く。
「そうなのかっ⁉」
「グエッ、やめろぉ黒江ぇぇぇ。くへっ」
解放された坂下は襟元を直しながら言う。
「マジだ。真城はひとりでブツブツ割と言うぞ。おれは気にしないで返事したり、無視したりしてっけど」
「そうなのかぁ~」
新しい真城情報に妙な感動を覚えている黒江はほっといて、坂下は次の作業をするために行ってしまった。
白い割烹着を着て流しの前にいる真城は黒江に声をかける。
「黒江もなんか手伝ってよ」
「ん。なにすればいい?」
「昼食は冷やし中華なんだって。だからオレは野菜を刻むために、今洗っている~」
バッシャンバッシャンと野菜を洗っている真城の割烹着は既にずぶぬれだ。
黒江も手を洗って割烹着を着ると真城の横に立ってまな板と包丁を用意した。
真城はまな板の上にキュウリを置いて宣言する。
「おー、じゃ刻もうぜ」
「おう」
真城は黒江と並んで野菜を刻み始めた。
「こんなんだっけ? 冷やし中華に載ってる野菜って」
真城は自分の刻んだキュウリを見て首を傾けた。
手元には野菜スティックサイズに切られたキュウリが転がっている。
黒江はぷっと噴き出した。
「もっと細く切れよ。それじゃ拍子木切りだろ? きゅうりは細切りのほうがよくないか?」
「おっ。黒江は料理したことあるのか?」
「冷やし中華くらいは作ったことある。薄焼き卵は作れないけど」
「すげぇー」
黒江は呆れたような視線を真城に投げた。
「こんなので感動する? ここに預けられるのって、共働きパワーカップルの家が多いのに。真城はマジで何も手伝わないの?」
「うん。ない。駐在先の家にはお手伝いさんいたし」
「逆にスゲーじゃん。あれ、真城ん家ってお金持ちな感じ?」
黒江に言われて真城はキャハキャハと笑う。
「そんなわけないじゃん! お金持ちじゃないよ。親の会社、福利厚生が現物支給の方が多くてさー。お手伝いさんとかもそうだっただけぇ~」
「そっかー」
「そうだよー」
夏休みってなんだっけかな? と思いながら、真城は黒江と並んで野菜を刻んだ。
坂下が麺を茹でて冷やしたり、杉田が美しい薄焼き卵を焼いたりして無事、冷やし中華は完成した。
だが美味しく食べて、後片付けをしたら午後二時を回っていた。
真城はつぶやく。
「家事の夏だな?」
「夏休みに何してんだかー。所帯じみた高校生活だなぁ~」
そう言って坂下がケラケラ笑った。
真城もケラケラ笑いながら言う。
「まー、楽しいからいいじゃん」
「うん? 楽しいんだ?」
黒江が怪訝そうな表情を浮かべて言うのに、真城は満面の笑みで答える。
「ああ。生きてるって感じ!」
黒江の耳から首にかけてが赤くなったのを見て、坂下はニヤニヤと笑った。
ずぶぬれになった割烹着を洗って干して。
気付いたら午後三時。
「夕飯も作らなきゃいけないからなー。あと二時間遊べるかな? 無理かな? 無理でもいいかな。寮母さん帰ってこないと森行けねぇし」
ブツブツ言っている真城に、黒江が聞く。
「だなー。で、この後、どうする?」
真城がニパッと笑って提案する。
「屋上に行こうよ、屋上っ」
坂下が呆れた声を出した。
「マジ? こんな暑い日に屋上へ行くなんて、馬鹿じゃね?」
キャラキャラ笑いながら真城が言う。
「いいじゃん。オレたちバカだもーん」
黒江はコクコクと頷き、坂下は「そっかー。そうだなー」と納得した。
「じゃっ、行こ!」
坂下と黒江を従えて、真城は全く全然目的がないままに、熱風吹きすさぶ屋上へと向かったのだった。




