第11話 自炊の夏 寮の夏
陸の孤島学園には寮母の消える時期が、夏に三日、冬に三日ある。
寮母が消えるとどうなるか?
自炊が始まるのだ。
いつも通り朝の支度を終えて食堂にやってきた真城は、食材を前にして頬をポリポリとかいた。
「料理なんて、おれやったことねー」
「オレもー」
坂下もニコニコしながら答えた。
「俺もないが……なんとかなるだろ」
黒江は用意されていたエプロンを手にとった。
「今年の一年生は前向きだなー」
八雲が笑顔で言うのを、真城たちは真顔でジロリと睨む。
今年の居残り教師の1人が八雲で、食堂での作業の監視役なのだ。
「八雲ティーチャー、寮母さんに媚び売りたすぎだろ?」
「そこぉー、なんか言ったかぁー⁉」
真城がブツブツ呟いたのを耳ざとく聞きつけた八雲が突っ込む。
「なんでもないでーす」
「よろしー。早く作るぞー。朝食が夕食になっちまう。ご飯はもうじき炊けます。あとは味噌汁の仕上げと、卵焼きですねー。料理したくないなら、海苔とか並べる係をしてくださーい。魚を焼こうという猛者はいますかー⁉」
八雲の言葉に皆、首を振った。
運動部の生徒も今の時期は帰宅している者が多いため、一年生は十人足らず、二年生も数人で三年生に至ってはゼロだ。
総勢でも20人足らずの男子ばかりの厨房に、朝っぱらから魚を焼こうという猛者はいなかった。
「ではそれぞれに分かれて調理開始してくださーい」
あちらこちらで、あーでもないこーでもないという声が上がっている。
真城たちは卵焼き作りだ。
「オレ、甘いのがいいー」
真城が溶いた卵のなかに砂糖をぶちこもうとするのを黒江が止める。
「俺は出し巻き派だな?」
「早くも意見が分かれておりまーす」
坂下はキャラキャラと笑っている。
食堂内では、たくさんあるテーブルのあちらこちらにガスコンロが置かれていて、グループに分かれた生徒たちがそれぞれに調理を行っていた。
「うおっ、鍋がっ!」
「おいおい、味噌汁作るだけなのに、そんなに沸騰させてどうするっ。うおぉぉぉ、危ないっ」
慌てる八雲のほうが危ないと真城たちは思ったが、自分たちもそれどころではない。
「オレはオレ好みの卵焼きを作るぜっ! って、うおっ⁉ 卵がボッコボコ沸騰してるぞ⁉」
「熱過ぎるところに卵液を入れすぎるから……あれ? 俺のは形にならねぇ」
「盛り上がってまいりましたっ!」
真城が大騒ぎするよこで、黒江は首を傾げている。
坂下は口だけ忙しく動かして2人の間をチョロチョロしていた。
「んー、なんでこうなった?」
真城は卵焼き用の長方形になったフライパンの上で黒く焦げている、いい匂いなの不快な匂いなのか分からない匂いのする卵の残骸焼きを覗き込んだ。
「俺も分かんねぇ」
黒江のフライパンのなかでは、焦げなかった代わりに、まとめることが出来なくて形にならなかった卵液が、スクランブルエッグのようになっていた。
卵焼き作りに見事失敗した真城と黒江の横で、杉田が美しいだし巻き卵を作り上げ、坂下が拍手しながら褒め称えていた。




