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37.注視

『これでよろしかったでしょうか?』


不思議そうな顔を隠そうともせずランカは

振り返った。




破竹の勢いで冒険者としての格を上げ続ける

【ディーエル・ファミリー】はもう王都では

話題のパーティーとなっていた。


冒険者の登竜門として必ず受けることに

なるであろう薬草の採取の依頼のついでにと

ずっと王都の北に巣くって人々の頭を悩ませていた

魔物の群れを片づけたり、見合った報酬が払えない

ような貧しい近隣の村の依頼を進んで受けては

完璧にこなして見せたり、どこで仕留めてきたのかも

わからない竜属の素材を持ち込んできたりと話題には尽きない。

そして何とそのパーティーは国中から慕われている

あの王女の縁者でもあるらしい。

互いに親し気に笑い合う姿は何度も王都に

住まう人々が目にしたことだった。


今は王都の話題はただの冒険者の一団である

【ディーエル・ファミリー】で持ちきり

になっていた。




「ちっ、なるほどな・・・」


王都の下水道で覇王子の舌打ちが響いた。


ジャイアントラット・・・

討伐難易度は低い。


取るに足らない魔物ではあるがそれが王都の

下水道で異常繁殖して王都を悩ませていた。

取るに足らない魔物でも王都に侵入すれば

戦う力のないものにとって脅威となる。


討伐依頼は冒険者ギルドに何度も出されたが

殲滅するには程遠く、一時的にその数を

減らすことはできても文字通り鼠算的に

その個体数を回復しては同じことを繰り返した。


もはや捨て置けぬとその討伐を国で受け持つこと

になると覇王子の一党がそれを請け負った。

くだらねぇ仕事・・・とタカを括っていたが

部下からの報告ではその進捗はどうも芳しく

ないらしい。


陣頭指揮に当たっていた第3王子からの報告に

覇王子は重い腰を上げて現地を視察した。


幾重にも張り巡らされた配管や経年劣化で

崩れた壁の隙間・・・広い王都の地下にある

下水道であいつらが潜めそうな場所は幾らでもあった。

それら全てを根絶するとなると、どれほどの

工数がかかることなのかは容易に理解できた。


「まぁ、気長にやるしかねぇな・・・」


覇王子の一党は、剣を振るい、炎を放ち、

泥に塗れて戦った。

だが、朽ち果てた迷路のように狭く入り組んだ

場所で無数の鼠を相手にするその力は強大すぎた。

下水道を崩落させずに、数万の鼠を仕留める。

その繊細な力加減ができない覇王子たちは

戦場ですらしなかった苦戦を強いられた。

それでも覇王子の一党が根気強く下水道に向かうことで

民への被害は無くなったがそれでも

その殲滅をすることは何年かかってもできなかった。




『下水道のジャイアントラット討伐依頼?』


どう考えても容易いはずの仕事だ。

なのに何でこんな高額な報酬が提示されているのだろう?


「ああ、それは・・・」


エルの説明によれば、この依頼を出したのは

この国そのものであるらしい。

覇王子一派がその仕事をずっと請け負っていたが

王座を争うために今はそこまで手が回らないらしい。

最近は冒険者という外注まかせになっている。

だが何だかんだでこの仕事を担当しているのは

あの覇王子だ。中途半端なことをしては目を

付けられるに決まっている。

高額にも拘らずその依頼に人気が無かったのは

その為だった。


『出来高で報酬が上乗せというのは

 嬉しい限りだな』


『ねぇ、この依頼受けようよ!』


事情を知ってか知らずかディーエル・ファミリーは

その依頼を受けることになった。



「う・・・」


『流石に匂いますわね・・・』


下水道に到着すると確かに多くのジャイアントラットが

生息しているのが解る。

そしてそれらが至る所で巧妙に身を隠していることも。


魔法で焼き尽くすなり何なりといくらでも方法はあるが

問題があるとすればこの老朽化した下水道そのもの

であろう。ジャイアントラットがいるせいで

補修もままならなかったその場所は迂闊なことをすれば

崩落してしまうかも知れない。

高額な報酬も納得といったところだ。


『なるほど・・・難儀ですわね』


少し気が滅入っていると何処からともなく

ピチャン、ピチャン―――

水が滴る音が聞こえた。

その音の発生源はごくわずかな配管からの

水漏れであったが、その音は確かにその狭い

通路に響き渡っていた。


「ねぇ、こんな小さな水音でも響くんなら・・・」

「もしかしてランカお姉ちゃんなら・・・」


皆で館に転移するとランカに一緒に来て手伝って

欲しいとお願いした。

大事な家族とも呼べる存在たちのお願いを断る

理由なんて無かったランカと共に再び下水道に立つと

ランカは言われるままにバンシーとしての力を開放した。


その泣き叫ぶ声は狭い通路で響き渡り下水道中に

こだました。

聴覚に優れたその種族はそれが仇となり・・・

その響き渡る声を耳にしないものはいなかった。

バンシーの咆哮はもはやただの物理ではない。

壁を透過し、隙間に染み込み、聴覚という

その優れた武器ともなるはずの逃れられぬ器官から

直接死の波動を送り込まれた。


『お見事っ!』


『流石ですわね』


『『 わんわんっ!! 』』


『考えてみればこの場所では最強の魔法よね』


「すごい!!ランカお姉ちゃん!!」


「依頼達成の証に何匹か持って行かなきゃですかね・・・」






・・・?


いや、何と言うかあまりにもお安い御用すぎますが

これに一体何の意味が?

口々に称賛を受けてもランカは不思議そうな表情を

浮かべるだけだった。




覇王子の数年が、冒険者のたった一日に敗れた。

その事実は、王都の噂好きたちの格好の餌食となり、

比較されるたびに覇王子のプライドを酷く傷つけた。


――【ディーエル・ファミリー】


その覇王子の舌打ちは、もはや鼠に向けられたものではなかった。
























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