40話
いつも持ち歩いている白いポシェットのジッパーを開け、スルメが取り出したのは、先端に涙の形をした半透明の鉱物が付いた鎖だった。
「スルメ君、それってもしかしてペンデュラムかい?」
「ペンデュラム?」
賢治の言葉に愛嬌が首をひねる。
「ダウジングのための道具だよ」
「ダウジングって、なんか聞いたことあるかも………」
「棒や振り子を使って水脈や鉱脈を探す手法のことだ。そのほかにも落とし物を探したり、犯罪捜査にも使われたようだ。もちろん科学的根拠はないが、結果を出したという報告はいくらでもあるらしい」
「それを使って苦楽を探すつもりなの?」
愛嬌の問いかけに、スルメは自信ありげに頷いた。そしてスマホの画面に地図を表示させ、その上に鎖を伸ばす。先端の鉱物が空中でわずかに震えたかと思うと、やがてゆっくりと回転を始めた。
「おお、実際にダウジングをやっている所を見るのはこれが初めてだ………」
賢治は目を輝かせている。
「なんか意外かも………」
「何が?」
「あんたって、科学的根拠のないものは信じないタイプの気がしてたから」
「根拠があろうがなかろうが、結果が出ればそれでいいんだ」
「まあそれはそうだけど………」
二人の視線が注がれる中、スルメは片手でペンデュラムを持ち、もう片手でスマホの画面を拡大していく。
スルメは超能力者である。
だからこそダンジョンで普通の探索者よりもはるかに結果を残してきた。ダウジングもその理由の一つだった。
ダンジョンという場所は入り組んだ迷路のようになっており、特に第一階層は東京ドーム二つ分とも言われる広大さだ。通常であれば下層への魔方陣を探すだけでも一苦労。しかしスルメは、この技を駆使して最短距離で踏破してきた。
今回も、それを応用して苦楽の居場所を探ろうというのだ。
「苦楽は東京にいる………」
スマホの地図が徐々に拡大されていく。ペンデュラムはくるくると安定した回転を続けているが、それが何を意味するのかは、ふたりにはまだ掴めていない。
「とりあえず北国に逃げたわけじゃなくてよかったわね」
地図の拡大が止まった。
「ここ、苦楽は今きっとここにいる」
「どこかの建物みたいだけど、どこだろう………私あんまり地図とかよく分かんないんだけど、なんか近くに目印とかないの?」
「それだったらストリートビューにしてみればいい。そのほうがきっと分かりやすいと思う」
スルメは頷き、人型アイコンを画面にドラッグして落とす。瞬間、画面はリアルな街並みに切り替わった。
昼間なのに光の届かない、狭く薄暗い裏路地。
ビルの壁面には古いポスターが貼られ、かすれた色の看板が乱立している。その中でもひときわ目を引いたのは、路上に設置された移動式の電光掲示板だった。
ピンクと蛍光イエローが目に痛い原色のフォントで、こう書かれていた。
『極楽ぱいぱい喫茶もみゅもみゅ♡♡♡』
しばし沈黙。画面を見つめたまま、三人の呼吸が止まった。
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