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守護騎士としての最後の務め

前話、後半少しだけ修正しました。


今話はツァリ視点の話です。

聖都を覆っていた薄紫の霧が晴れ、人々が徐々に正気へと戻っていく。


自身を蝕んでいた呪言が消えていくのがわかる。


正気に戻った人々が、なぜ自分がここにいるのかわからない、といった様子で各々の家に戻っていく。


そんな人々に目も向けずに、ツァリはただ聖女アウルディアが焼失した場所を見続ける。


「アウルディア様…………」


呪言が消え、かわりに満たすのは深い後悔。罪悪感。


自分がもう少ししっかりしていたら。

呪言に負けない強さを持っていたら。


「なにが守護騎士だ……私は、アウルディア様を守らないといけない立場なのに、守ってもらってばかりではないか……!」


共闘した魔人戦。

あの時も、魔人の謀略にはまり碌に戦えなかった自分を、アウルディア様が守ってくれた。


いまもなお、アウルディア様は命を賭して自分を、この聖都の民皆を守った。




最後の最後、黒い炎に包まれながらアウルディアはツァリに念話を送っていた。


(ツァリ、私はこのままできる限り耐え、みなの憎悪をもっていきます)


「どういうことですか!?アウルディア様……!」


アウルディアを殺せと訴えかけてくる呪言が、少しだけ和らいだ気がした。


アウルディアの声が、静謐な空気が、念話でつながったツァリの呪言を少しだけはじき返す。


(ゲルマ―はなにかを狙っています。この聖都に住むみんなの怒りや憎悪を集めて、なにか恐ろしいことを企んでいる。だから、その目論見は私が潰します。この黒い炎は、おそらくみんなの怒りや憎悪の感情を使って発動させています。だから、ここで私が粘れば粘るほどみんなの感情はなくなっていく)


「ですが、そんなことをしたらアウルディア様は……!」


熱くないわけがない。

痛くないわけがない。


いまなお、自身を焼き続ける黒い炎に度し難いほどの痛みを感じているはずだ。


だが、念話からそんな痛みは一切感じられない。


いつもと変わらぬ、静かで、優しいアウルディアの口調そのままだった。


強い……なんて強いんだ、この方は……!


自然と、ツァリの瞳から涙が零れる。


これまで自分が守ってきた聖都に、みんなに、怒りの感情を向けられてなお聖都のみんなを守るためだけに動いている。


聖女としてこの聖都を守ってきた信念。


その信念は、魔人の謀略なんぞに屈したりはしない。



聖女……。



ツァリは、改めて聖女の強さを、冠する名前の重さを知った。


かつてこの聖都を造りあげたという初代聖女クラウディア。


この方は、クラウディア様にも匹敵するほどの聖女様だ……。


そんな聖女様を。

アウルディア様を…………!


(あなたが気に病むことではありませんよ、ツァリ)


しかし……!


(あなたはよくやってくれました。そして、おそらく大変なのはこれからです)


「これから……?」


(もう時間がありません。私が死んだあと、聖都を守る加護の効果がなくなります。すぐに次代の聖女が選ばれるでしょうけど……それまでの間、魔物や魔獣の襲撃は増えるでしょう。守護騎士であるあなた方の仕事は、とても大変なものになります)


「そんなもの……!あなた様が命がけで守るこの聖都を、魔物なんぞに潰されたりはしません!」


(ええ、頼りにしていますよ。あと、もう一つお願いがあります)


「なんでしょう?」


(フリーとリィンが連れてきた、獣人の子供たちのことです。あそこの孤児院はつぶれてしまいましたし、院長ももういません。建物自体はリィンが簡単になおしてくれましたが、次の院長が見つかるまで、あなたが子供たちと共にいてあげてくれませんか?)


「もちろんです!…………そういえば、フリーたちはいまどこに?」


孤児院で自分の現状を伝えたあと、フリーたちは文字通り飛び出していった。


彼女らの性格からして、まさかこの現状を放置してどこかにいくとは思えない。


(彼女たちは私が逃がしました)


「逃がした?」


フリーたちでも敵わないほどの存在がこの場に?


(逃がした、というのは適当ではないですね。この場にフリーたちがいたらおそらく私は助かっていたでしょう。でも、代わりに聖都のみんながどれだけの被害を受けたかわかりません)


その言葉に、ツァリも少しだけ納得した。


いまこの民衆は魔人の呪言により操られている。


もしこの場にフリーがいたら、魔人がどうでるかわからない。

ゲルマ―が魔人かどうかは知らないが、妨害は間違いなく入るし、激しい戦いが予想される。民衆をけしかけるかもしれない。


その時、おそらくフリーは民衆の被害など気にせずにアウルディアの救出を最優先にするだろう。


(フリーとリィンを、私のために無差別の殺人鬼にするわけにはいきませんからね)


念話から、アウルディアが笑った気配が伝わってくる。


こんな状況でも……この方は笑うのか……。


黒い炎に包まれて笑うアウルディアに、ツァリは言葉もでない。



(ツァリ、ゲルマ―を始末してください!)



聖女の強さに圧倒されていたツァリに、アウルディアから、強い念話が飛んでくる。


はっ、と顔を上げ、ゲルマ―を見るとアウルディアにとどめをさそうとしていた。

黒い炎に包まれてなお死なないアウルディアに焦れたのだろう。

槍を形成し、突き刺そうとしている。


咄嗟に剣を投げようとして、ツァリは一瞬動きが止まった。


ここでゲルマ―を始末すると、アウルディア様はまだ苦しむことになる。

一層ここで…………!


いや、なにを考えているんだ私は。


アウルディア様の覚悟を無駄にするつもりか……!



自分が一瞬考えた、愚かな思考と共に投げつけた剣は、正確にゲルマ―を貫く。



「申し訳ありません……アウルディア様……!」



ゲルマ―を始末したあとは、もうツァリには見届けることしかできない。



気高く、優しい、聖女アウルディアの最後を……。




魔力が尽き、あっという間に黒い炎に包まれて、アウルディアは一瞬で炭になり消えていった。


散っていったアウルディアがすべてを一緒にもっていってくれたかのように、聖都を包んでいた薄紫色の霧は晴れ、ずっと頭の中に響いていた呪言が聞こえなくなる。


「本当に、これでよかったのか……?」


涙を流し、膝をつくツァリ。


だが、悲しんでばかりもいられない。


アウルディア様に託されたものを、今度こそ守らなければ……!


剣を拾い、その足で孤児院の方へと向かう。



これから、この聖都は様々な苦難にさらされるだろう。


だが、命を賭して聖都を守ったアウルディア様のために。


私はここを守りぬかなければならない。


それが、守護騎士としての最後の務めだ…………。

読んでくださりありがとうございます!

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