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きっと一生縁がないもの  作者: 冗長フルスロットル
第二章 恋人たちの10月
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一方のルミアは、お互い以外何も目に入らないと言わんばかりのイヴェットとスヴェンの態度がおもしろくなかった。彼女は今は自分が注目されるべき時だと信じていたため、自分の存在を無視するように見つめ合う二人に対しむっとしたのだ。


だが、ルミアは上流貴族に属する人間なので、そんな本心などおくびにも出さず、気を取り直して初対面のシルヴィに向き直った。


「シルヴィ大公女とは初めてですわよね? ビュスコー侯爵家のルミアと申します」


「どうも」


シルヴィはルミアに興味がないことを少しも隠そうとしなかった。全く予想していなかったシルヴィの素っ気ない反応に、ルミアは面食らった。


なんて失礼な女なの!? こんなに礼を欠いた女がナルフィ大公家の大公女ですって!? ふざけてるわ!!


内心憤慨しながらも、ルミアは何とか顔に浮かべていた笑みを保った。


「それから?」


ルミアは急に目をぎらつかせてアリーヌに三人の男性を紹介するよう催促した。これこそがルミアがアリーヌに声をかけた一番の目的だった。


「彼は私の婚約者のラザール、それからこちらはアンテ王国のスヴェン王子とスコル王国のニコラス王子よ」


アリーヌはルミアに一人一人を簡単に紹介し、逆に一同にルミアのことを紹介した。


ルミアはいつもアリーヌに見せる意地悪さを完全に封印し、にっこりと微笑んで


「アリーヌ、私もあなたたちのお席に混ぜていただけないかしら? 一緒に来たお友達がもうすぐ帰ると言うので」


とアリーヌに尋ねた。


ルミアの真の狙いは男三人に色目を使うことだろう。それが透けて見えたため、アリーヌはどうやって断ったものか知恵を絞り出そうとした。


「悪いけれど、遠慮して下さらない? 初対面の方が一緒だと、どうにも疲れてしまうの」


そうはっきりとルミアを拒絶したのはアリーヌではなくシルヴィだった。シルヴィはルミアのような女性が好きではないのだ。せっかくの家族や自分の恋人との楽しい時間を男に色目を使うような雌猫に邪魔されたくなかった。


シルヴィがこのようにはっきりとした物言いができるのも、彼女のほうがルミアよりも身分が上だからであり、他人にどう思われようがどう噂されようが気にしないという彼女の性格のせいだ。アリーヌもシルヴィと同じでルミアよりも身分が高いので、ルミアに対して堂々とできたらいいのだが、幸か不幸かアリーヌにはシルヴィほどの勇気はなかった。


シルヴィのあまりにもはっきりした態度に、ニコラスとスヴェンは噴き出しそうになるのを必死にこらえ、ラザールは手で顔を覆い、イヴェットはおろおろしたが、今までにルミアにさんざん馬鹿にされてきたアリーヌは胸がすく思いだった。


ルミアは一瞬顔をしかめたが、男性たちの手前慌てて取り繕った。


「まぁ、それは失礼いたしました。とても残念ですが、今日のところは退散いたしますわ、私は邪魔者のようですから」


というルミアの何とか同情を引こうとするような言い方に、シルヴィとアリーヌはいっそうむかっとした。


「そうしていただけるとありがたいですわ。ごきげんよう」


シルヴィはつんと澄まし顔になり、


「ルミア、また今度ね」


とアリーヌがルミアに退場を促した。


「ごきげんようっ……!!」


ルミアは顔を引きつらせながらアリーヌたちに背を向け、自分の席へと戻っていった。その後彼女の友人に何か言ってから、彼女はアリーヌたちを振り返ることなく店から出ていった。


「シルヴィ、あんまり敵を作るなよ……」


ラザールが呆れながら忠告した。


しかし素直に聞くシルヴィではない。


「いいのよっ!! 私は結婚したらスコルへ行くんだから」


「シルヴィ、すっごくかっこよかったわ! 彼女にはいつも嫌味を言われていたから、すかっとしたわ。どうもありがとう」


アリーヌがシルヴィに礼を言うと、ラザールが不思議そうな顔をした。


「嫌味? 彼女が嫌味を言うのか? そんなふうには見えなかったけど……」


アリーヌとシルヴィは二人そろって腕を組み、顔をしかめた。


「兄上みたいな鈍い男って、ああいう感じの女にすぐ騙されるのよね」


「本当よね」


「……………………」


ラザールはどう反応するべきか分からず、言葉が見つからなかった。


そんなラザールに助け舟を出すように、スヴェンとニコラスが


「だが、ああいう女のほうが絶対数が多いからな」


「確かにな。絶対数が多いから、男は騙されるんだよ」


とラザールに理解を示した。


「多いかしら? 私だって姉上だってアリーヌだって違うじゃない?」


「お前もイヴェット大公女もアリーヌ大公女も数少ない例外なんだよ」


ニコラスがシルヴィに向かって投げかけた言葉に真っ先に反応したのは、シルヴィではなくラザールだった。


「………そう……なのか……?」


いまだに半信半疑なラザールを押し切るようにシルヴィが


「とにかく、兄上の結婚相手がああいう女じゃなくてよかったわ!」


ともらしたから、アリーヌはくすっと笑った。


「あら、シルヴィ、私を褒めてくれるの?」


「ええ、もちろん!」


シルヴィがそう即答したため、平和な笑いが起こった。


そう……なのか……。


そうなんだな、俺の結婚相手がさっきのあの女の子みたいな感じじゃなくて、よかったのか。


シルヴィが言うなら、きっとそうなんだろう。


女心とか女性の世界に縁のないラザールは妹の言葉を信じることにし、他の皆より少々遅れて笑いに加わった。


笑いが収まったところで一同はまずお茶を注文した。スヴェンは甘いものが好きというわけではないので、甘くない肉詰めパイを注文した。考えるのがめんどくさいラザールも同じものを注文し、ニコラスはシルヴィに選択を任せた。


女性三人は連れ立ってもう一度店先のテーブルに戻り、そこで食べたいものを指差して女給に注文した。


出されたものの味だけではなく、貴族階級に属する彼女たちにはあまり見慣れない素朴な柄の皿や茶器も店の雰囲気も全てがすばらしく、アリーヌが期待していた以上だった。おまけに一緒にテーブルを囲んでいるのは気心知れたイヴェットやシルヴィだ。そしてこの後にはアリーヌが夢見ていた歌劇観賞が待っている。


アリーヌはおいしいお菓子とお茶をお供にシルヴィたちとの会話を楽しみ、最高に幸せな時間を堪能した。


明日アリーヌは帰らなければならない。そのことだけが残念だが、せっかくの楽しい時間に集中するため、彼女はその事実を考えないように努めた。


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