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きっと一生縁がないもの  作者: 冗長フルスロットル
第二章 恋人たちの10月
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出された食事とスヴェンが昼間出かけた先で購入した土産代わりの焼き菓子を食べ終えると、スヴェンは部屋に戻ることを他の面々に告げた。彼らも昼間の遠乗りの疲労があったため、さっさと休むことになった。


自分の部屋に戻ったスヴェンはイヴェットに短い手紙を書いた。それから侍女を呼び、イヴェットの部屋に届けるようその手紙を託した。


明々後日の歌劇のチケットが無事に手に入ったこと、その翌日にアリーヌがフォルニートへ戻らなければならなくなったこと、明々後日が全員で出かける最後の機会になるだろうからそれまでに体調が回復することを願っていることを彼は書き綴った。


それを侍女とアレクシア経由で受け取ったイヴェットの胸は熱くなった。


スヴェンの手紙を読んで、彼女の胸はいっそう締めつけられた。スヴェンから手紙をもらうのも、彼の筆跡を見るのも、これが初めてだったからだ。


(スヴェンのほうは反省の念を書き記した手紙を毎週のようにナルフィのイヴェットに宛てて送っていたのだが、その手紙は彼女の父ユーリのところで止まっていたため、彼女はそのことを全く知らなかったのだ。)


これがスヴェン様の字……。


初めて見る彼の字は角ばっていて、本来なら左から右へまっすぐ同じ高さで書かれるべき各行が少しだけ右上がりになっていた。彼の筆跡の特徴を目にしたイヴェットはたったそれだけのことなのに感動してしまった。


ろうそくの明かりを頼りに何度も何度もその手紙を読み返してから、イヴェットは泣きたくなって手紙を自分の胸に押しつけた。


彼が自分に手紙を書いてくれたことも、手紙の中で自分の回復を願っていると書いてくれたことも、そして自分に本やお菓子や花を贈ってくれたことも、全てが嬉しくてたまらなかった。


ああ……、だめ……。


イヴェットの体から力が抜け、彼女は手紙を抱きしめたまま横になった。


こんなことをされては、信じたくなってしまう……!!


頭では流されてはいけないと分かっているのに、絶対に冷静さを失ってはいけないと分かっているのに、彼に自分の心全てを明け渡してはいけないと分かっているのに、スヴェンの誘惑はあまりにも甘くて、イヴェットは降伏したくなる。身も心も全てを彼に捧げたくなってしまう。


これ以上スヴェン様を好きになるのは危険だわ……!!


イヴェットは頭を振って必死に冷静さを取り戻そうとした。


けれど彼女の心はその危険こそを望んでいたから、イヴェットはその衝動をもうどうすることもできなかった。


いっそこのまま流されてしまったほうが楽なのだろうか。我を忘れ、自分の心の赴くまま、彼をもっと好きになってもいいのだろうか。もっともっと愛してしまってもいいのだろうか。


スヴェン様のことを、もっと好きになりたい……!! 


たとえ悲しい未来が待っていたとしても……、たとえもう一度同じような目に遭って前以上に苦しまなければならないとしても……!!


そう認めてしまったら、イヴェットの冷静さはあっけなく崩れ去ってしまった。


将来また同じようなことになって傷つくことになったとしても、でも、それでも、今はスヴェン様を信じたい……。


スヴェン様をもっともっと愛したいし、愛してほしい……。


後悔したとしても、この気持ちはもう止められない……。


彼女の激情はイヴェット本人を呑み込み、彼女は自分の感情に押し流されることになってしまった。


ところが、今の今まで絶対に手放さないようにしてきた頑なさを捨てて自分に素直になってしまうと、自分が想像していた以上に楽になり、イヴェットはこのまま押し流されていたいとさえ思ってしまった。それくらい心地よかった。


イヴェットは別の種類の覚悟を決めた。


スヴェンを信じきらないようにするという覚悟を捨て、それをこれから先どんな未来が待ち受けていたとしても後悔しないという覚悟に切り替えた。


イヴェットはスヴェンと顔を合わせない状況に置かれたことにより、自分の本心と向き合うことになった。


それがいい結果を生むのか、それともそうでないのか、今のイヴェットには分からなかった。


それでも、自分の心に従って生きることを決めたから、今彼女の胸を占めるのは不安ではなくて喜びだった。


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