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きっと一生縁がないもの  作者: 冗長フルスロットル
第二章 恋人たちの10月
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シルヴィとニコラスが庭を一周してからガゼボに戻った時、ラザールは彼のお気に入りの歴史書を読んでいた。イヴェットとアリーヌはテーブルの上に置かれた三冊の本について話していた。


平和で穏やかな、でもナルフィ城での日常とは絶対に違う、晴れた日の午後ののんびりとした時間に、シルヴィは嬉しくなって思いっきり秋の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。これから大好きな剣の稽古をし、明日はお忍びで出かけることを思うと、味もにおいもないはずの空気がなぜだかおいしく感じられて、シルヴィはまた嬉しくなった。


うーんと大きく背伸びをしてからシルヴィはニコラスを振り返った。彼はシルヴィが柱に立てかけておいた二本の剣を拾い上げ、そのうちの一本を軽く投げてシルヴィによこした。


シルヴィは難なく宙を舞った剣を受け止め、刃が潰されている練習用の剣を鞘から抜き、鞘をそっと地面に置いた。


兄姉たちがいるガゼボの屋根の下で剣の稽古をするわけにもいかず、シルヴィはガゼボから出て、ガゼボが作り出す影へとさっと移動し、ニコラスが来るのを待った。


ニコラスがシルヴィに追いつくと、二人はさっそく剣をぶつけ合った。


ラザールは本当なら妹に剣などに興味を持ってほしくないし、親友にそんな妹に付き合ってほしくはなかった。彼は武器を持つのは男の領分だと考えていたし、女性とは守るべき存在だと信じていたからだ。だが、ラザールが言って聞くようなシルヴィではない。


やれやれと思いながらラザールはガゼボの横で剣の練習に励む二人(主にシルヴィ)を一瞥し、すぐに本に目を戻した。


一方、イヴェットもアリーヌもそもそも剣の練習というものを近くで見たことがない。シルヴィとニコラスが本気の真剣勝負をしているのではなくただ単に剣の稽古をしているだけだと分かりつつも、二人はそれまでしていた本に関するおしゃべりをやめ、シルヴィとニコラスの対戦を手に汗握りながら見守った。


「シルヴィったらすごいじゃない!」


アリーヌは笑顔でシルヴィを応援したが、イヴェットは二人が怪我をしないか見ていてひやひやした。


「あっ、ニコラス王子、危ないっ!」


ニコラスにはアリーヌやイヴェットの声を拾い上げる余裕があったが、剣の稽古に全神経を集中させているシルヴィには姉たちの声が耳に入らなかった。


「大丈夫だよ。あの剣は刃を潰してあるんだ。もし当たっても斬れないから怪我なんてしない」


心配そうにシルヴィとニコラスを見つめる妹と婚約者を安心させてやりたくて、ラザールは再び本から目を離し、二人にそう告げた。


「そう分かってはいても、見ているとどきどきしちゃうわ!」


「本当ですね」


アリーヌはもちろん、姉であるイヴェットもシルヴィが剣を振るう様子を見るのはこれが初めてだった。彼女たちはシルヴィとは違って典型的なティティス貴族の令嬢であり、ラザールが信じるところの守られるべき存在だったため、剣を握ったことも握ろうと思ったこともなければ、そもそも体力がない。


だから彼女たちは次々と技を繰り出すシルヴィの俊敏な動きに驚き、感動さえした、それを難なく受け止めたり受け流したりするニコラスのことももちろんすごいと思ったけれど。


「シルヴィ……かっこいい……」


アリーヌはしなやかに体を動かすシルヴィに見とれ、思わず呟いた。


「本当ですね……」


同意しながら、イヴェットはついついスヴェンのことを考えてしまう。


イヴェットは妹であるシルヴィを尊敬していた。シルヴィには自分にはない魅力がたくさんあるからだ。例えば人の目を気にしない芯の強さだったり、行動的なところだ。淑女の鑑などと称えられているせいでどうしても世間の反応を気にしてしまったり、物事に対して受身の姿勢を取ってしまったりする自分とは正反対だ。


自分と妹は違う人間なのだから、性格や個性が違って当たり前だ。


頭ではそう理解しつつも、イヴェットはスヴェンのことを想うと心配になってしまう。


スヴェン様も、ニコラス王子のようにシルヴィのような強い女性がお好みなのかしら……?


まだ彼のことをよく知らないイヴェットに当然分かるはずもなく、彼女は不安になった。


ティティス帝国内の貴族の間では、シルヴィではなくイヴェットのような女性が人気がある。しかしスヴェンはティティス人ではない。彼の祖国アンテではどのような女性が好まれるのだろう。


ああ……、もしスヴェン様がシルヴィのように強い女性がお好きだったら、どうすればいいのかしら……?


自分がシルヴィのようには振る舞えないことを、イヴェット自身が一番よく分かっている。


彼に好かれるために背伸びをして別の性格になろうとしても、それはきっとうまくいかないだろうし、イヴェットが望む生き方ではない。


それが頭では分かっているのに、心はスヴェンの理想の女性像や彼の好みを知りたくてたまらなかった。少しでも彼の理想に近付いて、ちょっとでもいいから彼に気に入られたかった。


そんな自分を、イヴェットは浅ましく思った。貪欲に彼の愛を求めずにはいられない自分自身を、卑しいと思った。それでもイヴェットは自分の欲求を制御することはできなかった。


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