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ブロンズソードだって魔王を倒したい!  作者: ゴールドメダル男
2/2

通りすがりの魔王

旅立ちの前に、宿でミーティングが開かれた。

ゴーレムは外に立っていて、窓から顔だけ出している。


俺はテーブルの上に置かれ、議題そのものになっていた。


「だから、このボロ刀を持って行っても邪魔なだけでしょ。何の役に立たないわよ、絶対に。ロープだってスパッと切れないのよ。はっきり言って、もはやゴローの弱点でしかないわ。絶対にここの村長に預かってもらうべきよ」


ゴロー、絶対にという言葉を多用する女を信用するな。


村長に預かられるなんて、冗談じゃないぞ。


きっと昔話を延々と聞かされる日々が待っている。


「俺様もこいつは置いていくべきだと思うね。なんなら、今、粉々にしてやろうか」


スカイの奴、ゴーレムに転生したからって、調子に乗りやがって。


「わかった。わかったから。俺だって、ゴローの負担になっていることはとっくにわかっているんだ。なあ、ゴローもういいだろう。俺を武器屋に売ってくれよ。それが皆のためだ。この世界のためだ」


俺の声はゴローにしか聞こえていない。


「ダメだ。ホッシーは連れて行く。問題は誰が持つかだ。正直、ちょっと重たい」


「はあ? 何言っているのよ。どうしても持っていきたいなら、自分で持ちなさいよ」


「だって、俺、勇者だよ。いつまでも、銅の剣持っているのもねえ…」


わかっているよ。はっきり言えばいいだろう。ダサいと思っているんだろう。銅の剣を持っていることがダサくてもう嫌なんだろう。


「まあ、確かに勇者にこんなボロ刀持たせるのも、世間体があれね…。私だってお姫様だし、それじゃ…」


ゴローとユキティが、スカイを見る。


「お、俺様だって絶対に嫌だからな! 最近腰痛が酷くてさ。重いものは持つなって、お医者さんに止められているんだよ」


スカイが拒むが、ジーッとゴローとユキティがスカイを凝視し続ける。


「はいはい。わかりましたよ。そのかわり、新しい仲間が入るまでだけだからな」


スカイはそう言って、違う窓から、大きな手を入れると、俺をつまむ。


「頼りになるわ! ありがとうスカイ!」


ユキティがスカイのほっぺにキスをする。


バキッ!!


スカイの奴、ユキティにキスされて驚いて、指に力を入れやがったな。


真っ二つに折れた俺が宙に舞う。


床に落ちる前に、ゴローがキャッチしてくれる。


「医者を、誰か医者を呼んでくれーーーーー!!」


「医者って、銅の剣を治せる医者なんていないわよ…」


ユキティごもっともだ。俺はもうダメだ…。


「しっかりしろ、ホッシー!! 俺はお前が一緒じゃないと勇者でいられなんだ!」


「なによそれ、どういうことなの?」


「この世界に転生したとき、俺とホッシーは農民だった。クワを持っていたし、あの服装は農民だったに違いない。俺はショックだった。異世界で農民も悪くはないが、勇者になってモンスターを倒しまくって、最後には魔王を倒すつもりでいたからな。ホッシーは異世界に転生したショックでまだ眠っていたから覚えていないと思う」


ああ、確かにそんなことがあったなんて知らないぞ。


「でも、勇者になっているじゃないか。ゴロー、お前何をしたんだ?」


スカイの奴、年下のくせにタメ口放題だな。もともとそういうキャラだったのだろうが、ゴーレムになってさらに態度まででかくなっているのだろう。


「取引をしたんだよ。通りすがりの魔王と」


「通りすがりの魔王って、そんなことあるの? っていうか、どんな取引をしたのよ?」


「えーっと、魔王が畑に実っていたトマトを丸かじりしながら、『さっきさ、勇者を倒しちまってさあ。暇なんだよなあ、俺っち。なあ、お前、勇者にならないか?』とスカウトしてきたんだ」


「いいなー、俺様もやっぱりゴーレムより勇者がよかったなあ」


黙れキラキラネームのガキが! ここからが大事な話だ。


「で、通りすがりの魔王の提案で、一人は勇者に、一人は銅の剣になることで、プラスとマイナスのバランスがとれるから、ジョブチェンジすることができると言われたから、俺は迷わず勇者になったというわけさ」


つまり、ゴローが農民から勇者にランクアップするために、俺は農民から銅の剣にランクダウンしたという訳か……。


魔王よりもゴローを倒したくなってきたぞ。


「まあ、この手の取引にはやっぱ条件があってさ、『もし、その銅の剣をなくすようなことがあったら、レベルを十分に上げる前に、俺っちが貴様を倒しにくるからな!』と魔王に言われたわけよ。だから、ホッシー! 今、お前に死なれたら俺は困るんだ! 魔王がやってきて、戦うことになってしまうんだ! 今のレベルでは秒殺だぞ、秒殺!」


ああ、もうなんだかそれでいい。おーい、魔王、早くこっちにこいよー。


「でも、銅の剣って、折れただけで死ぬの?」


ユキティが首をかしげる。


「大丈夫じゃね? 血も出てないしさ」


なんて軽い…、スカイ、お前が俺を真っ二つに折ったんだぞ。確かに折れたときは同様したが、痛くもなんともない。なぜなら俺は銅の剣だからだ。いや、今は折れた銅の剣だが…。


さらにランクダウンしている…。


クソッ、せめて包帯で巻いたりして、くっつけてくれよな。


「そうだな。これはこれで、持ち運びしやすくなった。うん、こっちのほうがいい。これなら、鞄に入れて隠すことができる。恥ずかしくもない。やっぱり、ホッシーは親友だから、俺が持つよ」


「………」


ユキティとスカイが、今までのミーティングはなんだったのだと言葉を失う。


こうして俺は、完全に勇者のお荷物となった。


しかし、希望もできた。魔王が俺を銅の剣にしたのなら、魔王に出会うことができれば、俺をゴローのかわりに勇者にしてもらうこともできることだろう。


いや、欲張りすぎはよくないか。農民に戻してもらえるように、魔王に頼んでみよう。


ようやく俺にも、この冒険の目標ができたのであった。


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