変態の決意
リリアンが言葉を失っているとすでに蚊帳の外であった変態の声が響いた。
「ミーが払うざます!」
「ゴールド…さん?」
「足りない分はミーが払うざぁまぁす!」
ゴールドの専属のボディガードが急いで主人を制止した。
「ゴールド様! そんな事をおっしゃっては………奈落への依頼で身を滅ぼした人々もたくさん居るんですよ」
「黙るざぁます! リリアン嬢の大切な父上の思い出はこのミーが取り戻すざます!」
(あの変態。金に物を言わせた恰好の付け方を心得すぎでしょ)
もうキャロルは馬鹿らしくて突っ込む気にもなれなかった。
「……テメェ、マジで払うんだろうな」
ハルトの言葉にキャロルは勢いよく振り向いた。
「あんた! 何言ってるのよ! レニが…」
「奈落は何度も行ってる。まぁ、最高が五百メートルまでだけどな」
バイクから大剣と銃を取り出すとハルトはゴールドを振り向き、不気味な笑みを零した。
「不本意だが、テメェの盾、努めてやるよ」
「え?」
『盾』という言葉に耳を疑うゴールドに切っ先を向けながらハルトが意地の悪い笑みを浮かべる。
「もちろんテメェも来るんだろ? 俺は物探しっつー面倒くせぇ仕事はしねぇ。カメオを探し当てるのはテメェの仕事だ」
「ちょっ! ハルト?!」
飛び出したキャロルを押し戻しながら『彼』はコートを彼女に投げ渡した。
「テメェに奈落はまだ早ぇ。そのお嬢と待ってな。下に行くのは俺とあいつだけだ」
ハルトに銃を向けられながら、ガタガタと震え、顔が真っ青になったゴールドはあらかじめ申請していた通行許可証を橋の番人に提示する。
「御武運を」
番人が橋の隣にある鉄製の扉の鍵を開いた。中には壁の厚さ分のトンネルが続き、奥から気味の悪い風の音が響いている。
十数メートルの距離を進んだその奥に、もう一枚の扉が出現し、ハルトはその鉄扉を開け放った。
率先して壁の外に一歩踏み出すと、延々と続くような奈落の底が漆黒の口をあけて広がっていた。
「ひっひぃぃ! こ……こここ、ここが奈落ざますか?」
漆黒の底から吹き上がる冷たい風が背筋を凍えさせる。
「一筋縄じゃいかねぇぞ」
そう呟き、サングラスを外すと、ハルトは持参した高度計を手に、遺跡の下に無限のように続く朽ちた岩階段を躊躇う事無く下りていった。




