薄れ行く意識の中で
空に輝く星たち。眩い月明かり。
「外に出て星空を見上げたいな」
まだ幼かった私の言葉に母はこう答えた。
「そうね。外で見られたらそれはとても幸運な事でしょうね」
空に輝く星たち、眩い月明かり…今私は外に居る。外に居るのに…
「わぁステキィ! キレイィ…何て言える状況じゃないでしょうよ!」
入り組んだ壁の奥に身を潜めながらキャロルは一人で今の状況に鋭い突っ込みを入れた。
彼女は狩人の仕事を補助するフリーのサポーターだ。
本来サポーターはあくまで狩人の補助であり、ナビゲーションや弾丸装填などの人間らしい仕事しかしない。優秀な補助士の中には狩人と共に闘ったりと色々な役割に回る者が居るらしいが、キャロルはあまり優秀な部類には入ってはいなかった。
「っくっそ~あのヘボハンター…ふざけんじゃないわよ」
決して魔の者がはびこる夜にサポーターが一人で行動することはないが、今キャロルは一人だった。
最近仕事がなく、生活が切羽詰って来たので、昼、紹介場に仕事を求めに言ったが、めぼしい物が見つからず、どうしようかと考えていた所一人のハンターに今夜の狩りをスカウトされたのだが……よりにもよって奴は対象魔族を見つけるや否やキャロルを置いて逃げ出してしまったのだ。
「思えば私を見るアイツの目は変態の目だったわね。人の身体を舐め回すように見やがって…綺麗な足ざますねぇとか、私の胸を見ながら話してたのもムカツクわ。狙ってた獲物が結構高額だったし、今夜だけの付き合いだからとか思ってたけど………」
ハッキリ言って大失敗だった。
見た目はともかく、キャロルがその変態ハンターのスカウトに乗ったのは持っていた武器が全て一流のものだったからだ。
まず一般のB級狩人が持てるような代物でなかったし…まぁ金を積めば裏ルートで買えるだろうが…今思えば金とスケベ心は豊富にありそうだったが持っている武器は新品同様ピカピカだった。
「あれが『一流ハンターもどき』ってやつだったのね。もぉ最悪!騙されて死んだなんてカッコ悪すぎる」
一人で愚痴を零しながらキャロルは息を整えた。
ここで太陽が昇るまで魔族をやり過ごせればかなりラッキーだが、変態ハンターが追っていたのはB級狩人クラスの…どちらかというと大物の部類だ。獲物を逃がしてくれるとも思えない。
「お願いよ~。ホント見つけないでよぉ」
そんな祈りも空しく、キャロルは自分の頭上から注がれるもう一つの息づかいに身体を凍えさせた。
勢いよく頭上を見上げるとキャロルが身を潜めていた壁に張り付くように、魔族が鋭い牙をギラつかせながら口を大きく開けていた。
「!」
逃げるより先に、開かれた口の奥から吐き出された酷い悪臭の息が彼女の全身に降りかかる。
(ヤバッ!毒ガス!)
一瞬で神経を侵され、逃げようと踏み出した足がグラリとよろけ、倒れ込む。
「くっ」
神経ガスに自由を奪われた身体を何とか進めようと思うが、体は全く言う事をきかず意識も遠のいていく。
ドシャ…………
背後で魔物が地面に飛び降りる音が聞こえた。
(マジでここで終わり?)
その時薄れゆく意識の中で感じた絶望を打ち消すかのような銃声。
奈落の底に続くような遺跡の隙間を挟んだ向こうに誰かが居た。
見たこともない鋼鉄の騎馬に乗った白衣の人物が硝煙を上げる銃口をこちらに向け笑っている。
顔は………
そこでキャロルの意識はぷつりと途切れた。




