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顔とスタイルほぼ100点!! しかしお頭はほぼ0点

 キャロルを置いた後、ハルトは入り組んだ路地を下に下り、ひっそりと隠れるように佇む店を訪れた。

 看板も何も出ていないその店の中は雑然とし、狩人の武器や洋服、何に使うか分からないような物体がひしめき合っている。

 さびれた扉を開くとすぐさま奥から男の怒鳴りが響き渡った。

「ここは店じゃねぇぞ! さっさと帰んな!」

「よほどの物好きじゃねぇとこんな所入んねぇよ」

 ハルトの声を聞くや否や、奥のカウンターから迷彩服に身を包んだ厳つい男が首を伸ばした。

「うおお! ハルトじゃねぇか! 半年ぶりだな!」

 男の顔が盛大な笑顔に変わる。

「相変わらず汚ぇ店だなバドル」

 そこらへんに置いてあるわけの分からない骨董を眺めるハルトを見ながら、男は席を立ち上がった。

「汚くても最強の結界柱を備えた最強の要塞だぜ」

 がははは! と豪快に笑いながらバドルと呼ばれる男はハルトの頭を雑に撫でる。

「おめぇこそ相変わらず小っせぇな。こんなのが特Sハンターなんだから驚きだぜ。娘は元気にしてっかぁ? 何歳だっけよ」

 頭に置かれた手を払い、散らかった店の中を見渡しながらハルトが「十四になった…」と答えると、バドルが再度がっはっはっと笑う。

「よくやるぜ!俺なんか三十過ぎても独身だってのにおめぇは十三歳で女にガキ生ませちまうんだからよ!」

「………………」

 ハルトの数少ない知り合いの中ではそういう事になっている。

 十三歳で一児の父親、母親に当たる女とは性格の不一致で別れ、現在は特S級狩人の傍ら子育て。

 …それが『ハルト』という男の経歴だった。

 その娘と『彼』が同一人物だとはキャロル以外の誰にも知られてはいない。


 知られてはいけない事なのだ。


「それで、今日はどうした?おめぇは俺の最高のお得意様だからな」

 その質問にハルトが短く答える。

「昨日、狩人殺しを狩った」

「うおぉ! 狩人殺し? 相変わらずだな。いくらの首だよ。あぁ?」

「大した事ない。五千万だ」

「ああ? 五千万? …何だよなめられてんな。五千万如きの小物が通常億の仕事しか受けねぇ狩人を狙うなんてよ。魔族の方で手違いでもあったか?」

 バドルが驚く事無く溜息を付き、ごちゃごちゃのテーブルの上に置かれた気味の悪い置物を横にスライドさせると、カウンターの後ろのやたら綺麗な壁が重い音を立て、ゆっくりと開いた。

先には薄暗い地下への階段が出現ぽっかりと口を開けている。

「それでどうしたよ」

 当たり前のようにその階段を下りていくハルトの後にバドルが続きながら聞いた。

「あの野郎、壁を破壊しやがった」

 階段を下りると下には広い射撃場が広がっていた。

 その射撃場の一角には様々な銃機器や剣が壁に掛けられており、灯台のような結界柱が四本とそこに立つオブジェのような女のマネキンが白と紫を基調とした皮製のロングコートを羽織っていた。

「何だアレ」

 ハルトの言葉にバドルは小さなコインを十枚手に再び豪快に笑う。

「最新作の結界柱だ。仕入れたはいいが何せ値段が化け物並みにデカくてな。買い手が見つからねぇ……それよりも……腕の方は訛ってねぇか?」」

 そう言うとバドルは何の前触れもなく、射撃場の一角に設置された簡易式のカウンターから十枚のコインをまとめて中空に放った。

 間髪いれずに十発の銃声が響き、十枚のコインは地に落ちる前に一枚残らず粉砕する。



 音の余韻をしばらく堪能するとバドルは、何事も無かったかのように抜いた銃をおさめるハルトを振り返った。

「やっぱりスゲェな。反射神経所じゃねぇ。その銃の反動を片手で受け止められるのはおめぇだけだぜ」

 子供のようにはしゃぐ厳つい男を鼻で笑いながら、ハルトはここに足を運んだ理由を簡潔に述べた。

「…一階の第三区間の壁だ。なるべく早く修理を頼む」

「おう!今夜までに壁変えといてやるよ。おめぇは可愛い娘と遊園地にでも行ってな」

 続けて壁に飾られる銃機器と一緒に並ぶ水晶のような四本の柱を眺めながら問う。

「…あの結界柱、性能は確かか?」

 ハルトの言葉に待ってましたといわんばかりにバドルが手を打ち付ける。

「話が分かるぜ! 間違いねぇ。こいつは最高の代物だぜ! 壁がぶっ壊されたって事は結界柱もぶっ壊されたんだよな!」

「いくらだ」

 バドルがにんまりと笑いながら両手で八本指を立てた。

「ちっ…ぼったくりやがって。」

「がっはっはっ! 俺も年に一度はドカンと稼がねぇとな!それなりの性能は保証するからよ」

 ペンを受け取ると、ハルトはコートの内ポケットから小切手の束を取り出し、言葉とは裏腹に、いとも簡単にとんでもない金額を書き込んだ。

「壁の修復費合わせて九億近い金を払うんだ。特典ぐらいつけろよな」

 とんでもない価値の紙切れを受け取るバドルが彼の視線を追う。

 目配せする先にあったのは白と紫のコートを羽織い、ブロンドのカツラを被った女のマネキンだ。

「おめぇ、マネキンなんてどうするんだ? 夜のお供にするなら本物の女の方がよくね?」

「そっちじゃねぇよ!あのコートを付けろって言ってんだ!」

 目を驚きに見開きながらバドルはハルトとマネキンを交互に見渡した。

「え?でもよ。あれ女物だぜ? おめぇの娘にゃ、ちと大きいだろう?せめて身長百八十近くはねぇと…」

バドルの理想の女性を模したマネキンに近寄り、触れると、ハルトは一人頷いた。

「問題ない。多分コレぐらいだ」

「コレ?」

 しばらくするとバドルは「おおっ」と声を荒げた。

「おめぇのコレか?娘に母ちゃんくれてやんのか?」

 バドルが小指を立て、ニヤニヤと笑っている。

「俺の補助士だ」

 ハルトの一言に目を丸め、バドルが素っ頓狂な声を荒げた。

「ほっ…? 補助士? マジかよ! 誰ともツルまねぇ特Sのハルト様が補助士かよ!」

「いけすかねぇクソ女だが。レニが気に入っちまってよ」

「ったく娘にゃ形無しだな」

 そう呟くとバドルが声を潜め「いい女か?」と聞き返した。

 その質問に癖のある笑みを浮かべながら、ハルトが答える。

「まぁ…頭はともかく…顔と身体は上の上って所だな」


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