運命の幕開け
[残酷な描写あり]となっていますが、そこまでではありません。
遥か悠久の時、人は魔族の奴隷として存在していた。
人間の肉を何よりも好む魔族は人を飼育し、喰らい、絶対的な弱肉強食の世界を築いていた。
彼らの頂点に立っていた者は『最上級捕食者』と呼ばれる者たち。
生命力、身体能力がずば抜けて高く、数千年もの寿命を持ち、大半の魔族が嫌う太陽光でさえ動じる事がない特殊な種族。
最強の名を欲しいままにした、最も新しい彼らの個体数はたった二人。
しかし、そのたった二名の存在でさえ魔族界では脅威の他になかった。
長い歴史で稀に生まれる魔族亜種、『最上級捕食者』は自然の摂理を崩さぬために全てが感情の欠落と言う欠陥を抱えているはずだったが………
その二名の内の一人…青銀の髪をした青年だけは異例だった。
好奇心旺盛で感情豊か、興味を持つはずのない同胞にまで進んで接する事を好み、ありとあらゆるものに興味を抱いた。
対するもう一人は今までの最上級捕食者と変わらずに、無表情無感情の人形の様な男。
感情豊かな青年は彼に興味を示し、執拗に接し続けた。
人形の様な男もいつしかその青年に微かな興味を抱き始め、その言葉に耳を傾け、短いながら言葉を交わすようにもなっていく。
しかし…………
今から三千年ほど前、何億年もの歴史を持つその揺るぎない支配体制に大きな異変が生じる。
現在人々に『闘神族』と呼ばれる事となる青年が発狂し、世界中にはびこる魔族をことごく排除し始めたのだ。
その矛先はもう一人の最上級捕食者にも向けられ、二人は壮絶な戦いを繰り広げた。
世界の三分の一と魔族の大半をわずか一ヶ月で死滅させた戦は青年の死によって終わりを告げる事となる。
魔族を排除するも人間には決して矛先を向けなかった『闘神族』の青年により、それ以降、人の生き方は大きな変革を迎えた。
二人の戦を恐れ、逃げ隠れた魔族から解放された人々は独立し、自分たちの手で初めて歩み始めたのである。
人は多大な犠牲を出しながらも、遥か昔に魔族が逃げ隠れた巨大な遺跡の上に国を築き、太陽が光り輝く時間だけの自由を手に入れる事に成功した。
そして三千年の月日が経った今、光りなき夜に行動するのは人々の肉の味を忘れられない魔族たちと、彼らを狩る事をなりわいとした狩人だけである。