兄妹チェック
「ジュヌヴィエーヌ?」
エルドリッジの部屋で大量の絵姿を渡された帰り。
それらを抱えてジュヌヴィエーヌが私室に向かっていた時、背後から名を呼ぶ声に振り向く。
「まあ、オスニエルさま」
「父上の部屋に行った帰りか? あ、一枚落ちたぞ」
同じく自室に戻る途中だったオスニエルは、そう話しながら、屈んで一枚の紙を拾い上げる。
「ん? なんだ、これ」
運んでいる最中にうっかり落としたらしいそれを、オスニエルはマジマジと見てから、怪訝そうに首を傾げた。
「・・・ニールセンじゃないか。何故こいつの絵がここに?」
そう問いかけた時、オスニエルの視線はジュヌヴィエーヌが抱えている大量の紙の束に向けられた。
そして、自分の手元にある絵と、ジュヌヴィエーヌの腕の中のそれらとを見比べる。
「・・・え、まさかそれも全部?」
ジュヌヴィエーヌが頷くと、オスニエルはどういう事だと目を見開いた。
「・・・酒癖とかギャンブルとかは分かる。仕事が不真面目というのも分かる。だが、なんだこの最後の方は。整理整頓が下手とか、飽きっぽいとか。もはやイチャモンでしかない」
「本当よねえ。まったくお父さまったら心が狭いわ」
さて、今ジュヌヴィエーヌは自室にて預かった絵姿を改めて確認している。
しかも、何故かオスニエルとエティエンヌと一緒に。
いつもジュヌヴィエーヌとはそれなりの距離を置くオスニエルだが、ジュヌヴィエーヌに渡された絵姿の話を聞き、エティエンヌまで巻き込んでチェックし始めたのだ。
「ふう・・・でもこれ、すごい枚数ね。この数日間に、よくこれだけかき集めたものだわ。ある意味、尊敬しちゃう」
五分の一ほどを確認したところで、エティエンヌが感心した様に呟いた。
だが、オスニエルは「いや」と、呆れまじりに首を横に振る。
「そこは尊敬するところじゃないぞ、エチ。これはいくら何でも多すぎだ」
「あら、そうかしら。変な男がジュジュさまに寄って来ても困りますもの。厳しいくらいでいいのでは?」
「整理下手とかは別に大した問題でもないだろう。そこまで厳しくされたら、父上の基準に合格する者などおらんぞ」
「ふふ、そういえばオス兄さまも、片付けはあまり得意ではないものね?」
「なっ」
欠点をさらっとバラされ、オスニエルの顔が赤くなる。
「・・・そう言うエチは整理整頓は得意だが、とんでもなく不器用だよな」
「まっ!」
「刺繍なんか傑作だからな。前にもらったハンカチは、記念として大事に引き出しの底にしまってあるんだぞ」
「なによ、縫い目がガチャガチャでみっともなくて使えないって、正直に言えばいいでしょ?」
何故か急に不穏な空気を醸し出し始めた兄妹を前に、ジュヌヴィエーヌはおろおろと視線を彷徨わせた。
と、テーブルの上に広げ始めた絵姿の山に目が留まり、思い出す。
ジュヌヴィエーヌは、最後にエルドリッジから別種類の絵姿を渡されていたのだった。
「・・・っ」
まずい事にそれらも一緒に重ねて運んで来てしまっている。
見られるのは少々気不味い。ジュヌヴィエーヌはそっと向かいに座る二人を見遣る。
エティエンヌとオスニエルは今もなお、ああだこうだと言い合っている。
注意が逸れているのを幸いと、ジュヌヴィエーヌはそっと手を伸ばし、さり気なくチェックしながら、目当ての絵の数枚をそっと引き出す。
そして、それをそのまま背中側に隠そうとして―――
「どうした、ジュヌヴィエーヌ。何かあったか」
「あら! ジュジュさま、気になる方でもいらしたの?」
―――呆気なく見つかった。




