6 本当の好きと嫌い。
本当の好きと嫌い。
十六夜はふっと、ぎゅっと眉をよせていた顔から力を抜いて、にっこりと笑顔に(可愛らしい顔に)なりました。
ふーん。なるほどね。
じゃあ、せっかくだから、世界が終わるまでの間、この(もうなくなってしまう)空を最後に飛ぶことに付き合ってもらおうかな?
そんなことを十六夜は思いました。
十六夜はばさっと一度大きく背中の白い翼を広げて、羽ばたかせると、今いるところよりも、もっと、もっと、さらに高いところに向かって、青色の空の中を飛び始めました。
絶対に逃がさない。
そんな十六夜を見て、同じように、五百枝も白い翼を羽ばたかせて、青色の空を飛ぶ高さを上に、上にとあげていきました。
……、高い。
もっと、高くなる。
いったい、どこまで高いところに行くつもりなんだろう?
いつもは飛ばない高さの(本当なら警報が鳴るような、飛行危険区域と呼ばれる)空までやってきて、五百枝は真剣な顔で、とても集中しながら、風を読み、白い翼を動かしています。
白い雲がすぐそこにあります。
とても大きな雲。
十六夜は、この雲よりも、もっと高いところまでいくつもりなのかな?
空の飛びかたから見て、十六夜はこの空を飛ぶことが初めてではないと五百枝は思いました。(きっと発信装置と警報装置を切って、こっそりとこの空を飛んでいたのでしょう)
五百枝の周囲にはとても美しい広大な雲の海が広がっています。そのとき、世界にさらに少しの変化が起こりました。
太陽が沈み始めています。
空の色が青色から赤色にゆっくりと染まっていきました。
落ちかけている赤い色をした夕焼けの光をうけて、白い雲は真っ赤に色づいていきます。
それはとても美しい風景でした。
その美しい風景の中には巨大な空を突き破るような大きさの天使たちの翼を休める宿木である真っ白な世界樹の姿も見えていました。