1.憑依
辺り一面、真っ暗闇な空間に、彼は佇んでいた。
彼は車に轢かれたはずだった。
死後の世界なのだろうか……。
暫くすると、ある一点に光が差し、同時に老男が現れた。
「誰?」
「神様じゃ」
「神様?」
「間違って死なせてしまってすまんのう?」
「死んだ? 俺が?」
「そうじゃ。お詫びに、お主を現世に生き返らせてやろうと思う。じゃが……」
「じゃが?」
「お主の体は、轢かれて使い物にならなくなってしまったからのう。代わりに他の人物として生き返らせてやりたいが、希望はあるか」
「聡美になりたい」
「聡美と言えばお主の彼女だったな。あい、わかった。お主をその体に入れてあげよう」
突如、彼の体は落下した。
落下を始めたかと思うと、辺りは東京の景色に変わり、彼はある家に吸い込まれ、その住宅の一角である女の子の部屋の、ベッドで眠っている磯貝 聡美という端正な顔立ちをした長髪の少女の体に重なった。
*
朝日が差し込み、聡美は目を覚まして瞼を開けた。
大きく伸びをして起き上がる聡美。
「誰かいるの?」
気配に気付いて訊ねる。
「俺がわかるのか?」
聡美の横に彼の幻が現れた。
「拓海……?」
「俺、神様の手違い死んじゃったんだ」
「え?」
「それで、別の体に入れるって言われて」
「私の中に拓海が?」
「うん。なんか変な感じだけど、よろしくね」
聡美はベッドから降りると、部屋を出てトイレに入る。
「あ……」
拓海は頰を赤らめる。
聡美は気にせず用を足してトイレを出ると、洗面所で顔を洗って部屋で制服に着替える。
今日は高校生になって始めての登校日である。
聡美はカバンを取り、一階のリビングへ移動した。
「おはよう」
朝食を食べている弟の幸雄に挨拶をする。
「おはよう、姉ちゃん」
聡美は椅子に座って朝食を食べると、その舌触りと味覚が拓海にも伝わる。
「美味いな」と、拓海。
「ごちそうさま」
朝食を食べ終えた聡美はカバンを手に玄関へ移動する。
「先に行くわね!」
革靴を履き、家を出る。
高校まで行くには、家の近くのバス停からバスに乗って最寄り駅へ行き、そこから電車に乗って隣町へ出る。
駅に着いたら、そこから五分ほどの道を歩き、見えてきた学校の門を抜けて校内に入る。
他の中学を卒業して入学した学友になるであろう生徒たちが、聡美の美貌に見とれている。
「磯貝さん」
背後から呼ばれる。
振り返ると、そこには中学時代のクラスメイトの男子がいた。
そのクラスメイトの男子は、名を鉄 明と言う。
「鉄くん!?」
「同じ高校だったんだね」
「奇遇だね」
聡美と明は、校舎に向かって並んで歩きだした。




