38 まったく反撃の余地なし
返事がないのでクラリスが顔を上げると、イザベラは首席をじっと見つめていた。おそらく戦いに夢中になっているのだろう。
リヒターは散々に打ちのめされ、結局ヴァルターの手から自分の青い木剣を取り戻すことはできなかった。
最後体力が尽き、地面にひざまずくまで戦った。
「ここまででいいだろう。 リヒター、列に戻れ」
クロードがついに口を開き、悠然とクラリスを指差して言った。
「次は君だ」
ヴァルターはリヒターを一瞥し、イザベラとアルベルトに彼を助け起こすよう合図を送ると、木剣を掲げてクラリスを指差した。
「全力を出せ」
クラリスが前に出て以来、滝のそばは静まり返っていた。今日、クロードは明らかにこの弟子たちを苦しめるつもりだった。
クラリスはヴァルターの向かい側へ歩み寄り、自分の赤い木剣をしっかりと握りしめた。
ヴァルターはクラリスの姿勢を見て尋ねた。
「準備はいいか?」
クラリスは剣を掲げ、始められることを示した。
クラリスは先手を打ち、二人の距離を詰め、ヴァルターの黒い木剣が十分に振るえないようにした。
しかし、それはヴァルターにとって難題ではなかったようだ。
クラリスに押され始めた直後、彼は黒い木剣をクラリスの背後へ投げるように振り抜くと、素早く横へ身をかわしてクラリスを迂回し、次の瞬間、岩にぶつかって跳ね返った黒い木剣を、逆手で受け止めた。
リヒターは目を丸くした。まさか、そんなことが可能なのか?
ヴァルターはクラリスとの距離をうまく引き離した。
クラリスは思考の行き詰まりに陥った。
師匠が言った通り、剣は剣士にとって命そのものであり、誰も自分の命を投げ出すような真似はしない。しかし、ヴァルターは……
「パッ――」
ヴァルターの黒い木剣がクラリスの肩を打ち抜いた。
クラリスの瞳には信じられないという色が浮かび、左手で肩を押さえながら、自分の手にある赤い木剣をうつむいて見つめた。
あり得ない……
アルベルトは目を覆い、これ以上見たくない様子だった。
「しっかり見て学ばないと」
イザベラはアルベルトの手を引き下ろし、注意を促した。
アルベルト「……はい」
「まだ終わってないわ!クラリス、気を取り直して!」
イザベラは、クロードが終わりの合図を出す気配がないのを見て、クラリスに声をかけました。
クラリスは技を崩され、リヒターと同じように自尊心を打ち砕かれ、動揺した隙にヴァルターにさらに激しく打ちのめされました。
イザベラは眉をひそめてクラリスを見つめた。
長い間一緒に訓練してきたのだから、リヒターもクラリスも、実力はこれほど低いはずがない。
それなのに、二人ともまったく反撃の余地がないまま打ちのめされている。
なぜだろう?
クロードは眉をひそめるイザベラを見て、さらに笑みを深めた。
「経験不足。 やられる回数が少なすぎるのさ」
イザベラはクロードの意図を悟ったようだった。
「よし、もういいぞ」
クロードが声をかけると、ヴァルターは手を止めた。
「次は……イザベラ」
「イザベラ……」
アルベルトはイザベラの手を引っ張り、心配そうな表情を浮かべていた。
「大丈夫よ」
イザベラはアルベルトの頭をポンと叩き、列の前へ進み出た。
リヒターとクラリスの顔色はどちらもあまり良くなかった。
二人から見れば、今のイザベラの実力は自分たちよりもはるかに下だ。本当にヴァルターと対戦するなんて……
ヴァルターはイザベラを頭から足まで一瞥した。
「三手譲ってやろうか?」
「結構よ」
イザベラはきっぱりと断り、視線をヴァルターの黒い木剣に向けた。同じ木剣なのに、どうやったらこの人のようにカッコよく扱えるのだろう?
ヴァルターとの対戦に、イザベラは不安を感じるどころか、むしろ少しワクワクしていた。
「本当に要らないか?」とヴァルターがもう一回聞いた。
イザベラはそれを聞くと頷き、ゆっくりとヴァルターの向かい側へと歩み寄った。
「……準備はいいか?」
ヴァルターはイザベラのきらきらと輝く瞳を見て、一瞬呆気にとられた。
イザベラはうなずいた。
「準備万全、よろしく!」
言葉が終わるやいなや、ヴァルターは攻撃を仕掛けた。
これで三度目だ。
毎回、彼の攻撃の速度と角度は全部異なる。
イザベラは緑の木剣を振り上げ、先ほどヴァルターがクラリスを受け止めた時の最初の技を使った。
ヴァルターの目には驚きが浮かんだが、それでも彼が再び剣を振るうことに何の影響も及ぼさなかった。
イザベラは次々と身をかわしたが、彼の黒い木剣に追いかけ回されるような状態だった。
今回、傍らで様子を見ていたアルベルトは賢くなったようだ。
ヴァルターの黒い木剣がイザベラに迫るたびに、アルベルトは突然、非常に甲高い声で叫んだ。
三度も「龍の咆哮」が響くと、場にいる者たちは皆、耳を塞いだ。
……
「……黙れ! うるさいわ!」
クラリスは振り返ってアルベルトを睨みつけた。
「さっき私が殴られてた時は、なんで叫ばなかったの?」
「さっきは思い出せなかっただけだよ」
アルベルトはひどく悔しそうな顔をした。
イザベラはその隙に、苛立ちを隠せないヴァルターに奇襲を仕掛けた。
ヴァルターがリヒターと戦った時の技を真似て、ヴァルターの黒い木剣に向かって自分の緑の剣を振り下ろした。
この場面は、なんと先ほどヴァルターがリヒターと戦った時の技を完璧に再現していた!
「ほお、悪くない」
さすがクロードでも声を上げた。
緑の木剣の剣先が黒い木剣を押し下げ、そのまま黒い木剣に沿ってヴァルターの手の甲へ迫っていった。手の甲に突き刺さろうとしたその瞬間――




