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11 ご褒美

 千夏はチョッピリ後悔している。大川さんを助ける為とはいえ、露出狂のようにクラス全員の前で制服を脱いでしまった。痴女と言われたり、色目を使ったと女子に反感を持たれる可能性があったりと、更なる問題が起こる可能性もある。緊張ホームルームの後は部活の自主練があったが、流石に吹く気になれない、帰り支度をして帰途についていた。気分転換に街に繰り出して、人気のカフェでウルトラスーパー白桃パフェを食べに行こう、とお店に向かっていた。


 通り雨はすっかり上がって夕日が差し込んでいる。蒸し暑いアーケードを通っているが、今は考え事をするのも嫌な気分、周囲もあまり気にしていられない。


 店の前に来た時、ふと前を向くと……河原が同じお店に入ろうとしている。ちょうど同時に気付いたようで、河原もビックリしていた。


「河原くん……奇遇ね……」


「勅使河原さん……ここ、よく来るんですか?」


 さっきまでの事はなかったかのように、2人の会話は進む。


「気分転換のときはいつもここ。カロリー摂らないとやってられないでしょ」


「そう、だよね」


「そうだ、今回はありがとう。河原くんが緊張ホームルーム、企画したんだって? 私のために」


「でも……必要なかったみたいだね。勅使河原さんは凄いです!」


「気にかけてくれたことは嬉しいわ。それに無駄なこととは思わない…お礼はしないとね、ここは私に奢らせて」



 千夏は席に座り、ウルトラスーパー白桃パフェをパチパチキャンディトッピングで2つ注文した。そして向かいに座った河原に千夏は話しかけた。


「ねえ、河原くん。あの裏サイトって今どうなってるの?」


「自動的に消滅するように組まれていたので、もうないと思う。勅使河原さん、ホームルームの時は居なかったもんね……実際、サイトを開こうとしたら消えちゃったんだ」


「あらそう。綿密で用意周到なこと(笑) きっとあの柳沢ってやつの仕業ね〜あんなもの作れるほど優秀なのに……勿体ないわ」


「……そうだね。そうそう、勅使河原さんってモデルやってたんだ! 道理で美人な訳だ(笑)」


 河原からの普通な会話に千夏は爆笑しそうになった。千夏は河原をどこかで蔑視していたようだ。典型的な陰キャラ、常に後ろ向きで、自分自身も守れない、そんな風に決めつけていた。


「ねね、その勅使河原さん、ってのやめない? 千夏でいいわ! だから私もユーミ達と同じように千景って呼ぶことにする」


「でも僕なんかと話してると、また面倒事に……」


「そんなの平気よ! 私、強いから! あとさ、今日のホームルームで千景に対しての風向きも変わると思う。誰に聞いても〈あの事件〉のこと、教えてくれないけど……悪いのは千景じゃないって事くらい分かるよ」


「勅使河原さんは本当に強くて美しくて、素敵です」


「千景は素直なのね(笑) でもパフェのおかわりは無しよ(笑) それと、ち・な・つ でしよ!」


 千夏の心は晴れていく。これも千景のお陰である事は明白である。話せる良き友人が出来たなぁ、と感じた……いや……まさか……。



△△△△△△△△△△△△△△△



 千景はひっくり返りそうであった。あの、勅使河原さんが千景に話しかけている。千夏とファーストネームで呼べる許可も頂いた。しかし可愛い……容姿に増して笑顔が、仕草が、表情が……ヤバい。 


「千夏、この大きさのパフェはさすが食べられないよ。次回に繰越しって出来ないかな?」


「千景は……もう一度私とデートしたいって? 図々しいわね(笑) いいわ、パフェは借りにしといてあげる」


 冗談で言ったつもりが……恥ずかしい。話を変えなければ……。


「ありがとう! ところでさ、千夏のお母さんってデザイナーなの?」


「うん、あれは本当。でもモデルは……中2の時にやめたの。子供の頃は良かったけど、体型も変わってくるし、何となくクラスの男子にも変な目で見られるようになったし……」


 千景は思わず千夏を見渡した。


「ね、千景……今私の胸見たでしょ! どこが体型変化したんだって思って(笑)」


「いや、そんな…………見ました。ごめんなさい」


「素直でよろしい!」


「千夏、もしかしたら……さっきみんなの前で下着姿になったのって……はず……」


「バカね、みんなの前で脱いだのよ? 恥ずかしくない訳ないじゃない! 写真と違って動画! それもライブ配信(笑) あの時は必死だったの、事態を静めることに!  ところでさぁ、私の下着姿どう思った?」


「どうって…………素敵で…………」


「冗談よ、今の質問、忘れて(笑)」


 千景は千夏に翻弄されている。天真爛漫な立ち居振る舞いが、更なる魅力を写し出す。こりゃ、誰だって……好きになるだろう。


「千夏には敵いません(笑)」




 1時間くらい話していただろうか、千景は千夏とお店を出た。千夏は更に気晴らしの買い物に行くと言ってショッピングモールの方に行ってしまった。千景は日課になりつつある島さんのお見舞いに向かっている。




「あの、こんにちは 田中さん」


「あら、千景くん! 今日はどこか楽しそうね、何かあったの?」


「いや、別に…………」


 どこか舞い上がっている様にみえるのか、受付の田中さんに突っ込まれてしまった。ただ、いつもよりニコニコしている。


「そう。なら私から千景くんに、朗報! これ、彩理ちゃんから千景くんにって預かってるの」


 田中さんから小さなメモを渡された。


〜いつものありがとう 7月25〜27日の間ならママも居ないので、お見舞い可能です。都合付いたら来てください 島彩理〜 


 千景は左手でガッツポーズをした。


「千景くん、良かったわね。あなたの誠意が彩理ちゃんの心に届いたのよ!」


「はいっ! ありがとうございます。また来ます!」


 今日はモテモテだな……千景の気持ちは空を飛んでいた。

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