12 病室にて
「では夏休み中の注意事項は以上! くれぐれも事件や事故に巻き込まれる事のないように!」
大鷹先生の一言で夏休みが始まった。千景にとっては夏休み以上に待ちに待った日……午後には島さんの御見舞いに行く日である。御見舞いに行くことはユーミ以外には話していない、ユーミには島さんの御見舞いに北山さんを連れて行きたいと打診したが却下された。想像以上に北山さんは千景に対して敵意があるらしい。
千景は帰り支度をしている。ふと教室の後方に目をやると、千夏がユーミ達と笑顔で話している。その輪の中には大川さんも加わっていて、一昨日の話し合いが嘘のような、平穏な終業式を迎えている。蓮と達也も……相変わらず悪目立ちをしているが、千夏に絡んでくる様子はない。
帰り支度を終えた千景は教室を出る、刹那、千夏の視線がこちらを向いているような気がした。教室を出た後、追いかけてきてくれないか……まあそんな事はないだろう 千景の心の中にはさまざまな感情が渦巻いていた。
千景は幹線道路沿いを歩いている。千夏が追いかけてくる、なんて想像は霧散してしまった。食事を済ませ、御見舞いの品を買い、現実を踏みしめながら附属病院へと向かっている。
病院に着くといつもの田中さんから声をかけられた。田中さん、今日はいつも以上に奇抜な髪型……ピンク色のツインテール〜まるで魔法少女である。
「千景くん」
「田中さん」
「いよいよね! 御見舞いデート! 粘った甲斐があったじゃない(笑)」
「そんなんじゃないですよ 島さんとはタダのクラスメイトで……」
「まあいいじゃない! 若いんだから! 島さん美人だしね〜」
田中さんは病院の受付近くで普通のトーンで話しかけてくる、周囲にも内容が分かるくらい大きな声で。それに、田中さんは存在が極めて目立つ。
「田中さん、シーッ」
「あら、ごめんなさい。これ島さんの病室ね、北棟の5階502号室。あ、ちょっと待って、一応島さんに確認するから」
「はい」
田中さんはすぐに内線で確認をする、程なく確認が取れた。田中さんは千景に声を掛ける……
「よーし! ファイト! 千景くん!」
周囲の視線が痛い…………。
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千景は北棟の503号室前に到着した。本日はご両親が居ないとの話である。一人部屋だったりしたら気まずいな……そんな打算を心の中で繰り返している。そして……病室のドアを叩いた。
「はーい」
「河原です」
「どうぞ」
千景は病室に入った。薄暗い部屋だ〜窓には遮光カーテンがあり夏の日差しをシャットアウトしている。広くはないが一人部屋のようである。そして薄暗い蛍光灯、島さんはその蛍光灯に映し出されキラキラと輝いている、気がした。
「失礼します」
島さんはベッドの上で上半身を起こしてこちらを見た。何故か表情は強張っている。
「河原くん…………」
「お久しぶりです。島さん…………その……体調はどうですか?」
「うん…………少し良いかも」
島さんの態度はぎこち無い。ベッドの上の島さん、とても色白である。瞳は青みがかっていて、ロングの髪は限りなくブロンドヘアーに近いホワイト。西洋のプリンセスドールのようである。
「今日はありがとう……会えて嬉しいよ」
「私も……ねえ、座ってよ」
千景は椅子に腰掛けた。薄暗い部屋の中で見る島さんは、まるで妖精のよう……目の青さ、ブロンドヘアー、白い肌〜島さんは欧米人とのハーフ等ではない、産まれながらにして髪の毛の色素が薄いという病気なのである。
「あの……まずは……島さんに謝罪を……クラスの代表として……」
「そんなのいいわ!」
島さんは少し強めの口調で千景の言葉を遮った。
「私ね、河原くんに聞きたいことがあるの……聞いてもいいかしら?」
「あ、はい……」
島さんははっきりした口調で話し始めた。
「ねえ、どうして河原くんが全責任を背負ってるの? 私のこと守ってくれた河原くんが……」
「それは……色々あって……」
千景は島さんの質問に窮してしまった。
「なんで田所と柳沢を庇ったの? 友達だから?」
島さんには3人関係をきちんと話そう。千景は心に決めた。
「うん……実は、蓮とは幼馴染みで……。覚えてるかな、8年前の豪雨、その時僕が濁流に流されてしまって……救ってくれたのが、当時消防団員だった蓮の兄さんとお父さんなんだ」
「そんな関係……知らなかった……」
「蓮の兄さん、保さんと蓮の親父さんは……僕を助けた後に……流されてしまってそれっきり……だから、蓮は親友以上の存在なんだ。柳沢は……自宅を濁流に流されてしまって、唯一助けられたのが達也だから…………」
熊本中部において発生した集中豪雨、その豪雨において、身を投げ出して人名救助した蓮の兄と父親、その2人に助けられた千景、沢山の家族を一気に失った達也、千景にとって幼馴染のこの2人は特別な存在なのである。
「だから……守ったの?」
「何度も蓮と達也には、馬鹿なことはやめろって言ったんだ……でも聞かない……結果、島さんを助けられなかった。事件が起こったあと、僕はあの2人を助けたかっから僕が身代わりになったんだ。ユーミと大鷹先生は真相を知ってるけど、僕の気持ちを優先してくれたんだ。そして……島さんが目覚めたらまっ先にこの話をしたいと思って、なるべく御見舞いに来てたんだ」
「……伝えてくれて……ありがとう」
「現状を伝える事も僕の義務だと思ったから……」
島さんの様子が変わった。強い口調は影を潜めている。少し間を置いて、島さんが俯きながら話し初める。
「色々教えてくれて…………ありがとう…………そして、沢山御見舞い来てくれて……ありがとう…………」
そう言い終えると……島さんは千景の手を握った。柔らかい透き通った両手が、千景の右手を強く握った。千景はドキッとした。
「島さん……」
島さんも我に返ったのか、握っていた手を放した。無意識だったのだろう……。
「ご、ごめんなさい……手なんか握っちゃって。最近、誰とも話してないから、ちょっと寂しかったの……」
島さんは顔を上げ千景を見つめている。
「全然……僕が出来ることなら何でもやるからさ! それに美人さんと手を繋げるなんて、僕も嬉しいよ(笑)」
「河原くん……ありがとう! じゃあ、今日から友達になりましょ! 名前で呼んでもいい?」
「もちろん……その代わり僕も彩理さんって呼ばせてもらうよ! 友達だから!」
「それはダメ! 彩理、って呼んで(笑)」
彩理が初めて笑顔になった。千景は……なんだろう、胸が締め付けられる。心境の変化を悟られないように、千景は彩理に返事をした。
「分かったよ 彩理……ってなんだか恥ずかしいね」
「そうね……恋人同士でもないのに(笑)」
千景は少しだけ、落胆した。
「千景、あの……友達としてお願いあるんだけど……」
「なに?」
「また御見舞い……来てくれないかな……」
「もちろん! 喜んで! 僕、補習も部活もないから、いつでも、いや、また明日来る!」
「ありがとう……この時間なら両親は来ないから、期待してもいいかなぁ、クラスの事も聞きたいし」
「お安い御用です!」
千景は明日も御見舞いに来ることになった……そして、それは夏休み中の日課になるのである。




