エピローグ
『白猫聖女』シロノワ。
それは歴代で唯一の、猫の『聖女』様であった。
今まで歴代の『聖女』様はうら若き少女ばかりであった。
その『白猫聖女』は今までの『聖女』様とは異なる点がおおかった。
猫であることもそうだが、その力も。
まるで、ずっと昔から準備をしていたとばかりに彼女は『聖女』としての力を使いこなした。
『魔王』討伐も、驚くべきほどの速さで終えた。歴代最強とも名高い『聖女』様である。
そしてその『白猫聖女』は、ずっと一人の女性の傍に居た。
その女性の名は、デルハンナ。
貴族の庶子として生まれ、心苦しい生活を送っていた。
しかしシロノワが『聖女』として見出される前から交流を持ち、『白猫聖女』にとっての唯一の飼い主であったとされている。
だからこそ『飼い主令嬢』などと周りから言われたりもしていた。
特別な力を一つも持たないその令嬢は、護衛騎士と恋仲になり大神殿で神職として生きていくことになる。
時が経ち、デルハンナの命が尽きた時、シロノワも永き眠りについたとされている。
『白猫聖女』の名は世界に轟き、歴史に名を刻んだ。
『飼い主令嬢』の名は、一部でだけ、語り継がれていった。
――ご苦労様でした。シロノワ。
『あんたのためじゃないわ!』
――分かっていますよ。それにしても女神である私にそんな口を聞くなんて貴方ぐらいですよ。
『ふんっ! 女神なんて知らないもの!!』
それは『魔王』討伐が終わったある日の出来事。
誰も知らない、女神様と『白猫聖女』の会話。
――ふふっ、そんな風に威嚇しても可愛いだけよ。可愛い猫ちゃんですねぇ。
『私を撫でていいのはハナちゃんだけなの!!』
――分かってますよ。
女神様は楽しそうに声をあげている。
『それで、何の用?』
――満足か、聞きに来ました。私も初めての試みでしたからね。
『もちろん。だってハナちゃんが危険な目に遭わなくて済んだもん』
――ふふっ。本当にシロノワはデルハンナのことが大好きですね。だからこそ、その思いに打たれて、私は貴方を代わりにしたのですけど。『魔王』討伐にデルハンナが向かっても危険な目に遭いながらも、結果幸せにはなったと思いますけどね。
そう、あくまで『白猫聖女』は代わりである。
『白猫聖女』はもとはただの猫だった。ちょっとだけ、敏感だった。そして利口だった白猫。
だけど、敏感すぎたがゆえに神の気配を微かに感じ取った、ちょっとだけ変わった白猫。
『聖女』という立場は華やかな歴史ばかり残っているが、その実、それだけではない。
『聖女』として幸せになる前にそれだけの苦労をしている。『魔王』退治なんて、結局のところ戦わなければいけないということ。
『白猫聖女』は、デルハンナが好きだった。
危険な目になんて遭わせたくなかった。幾ら危険な目に遭って幸せが待っていたとしてもそれが嫌だった。
――本当に驚いたんですよ。代わりをやるなんて祈りが届いたときは。
『白猫聖女』の祈りは、女神様に届いた。
大好きな少女が、危険な目に遭うのが嫌だから自分が代わりにやるといったそんな白猫の願い。
そしてその申し出を女神様は受け入れた。
――それに見合った力を手に入れたらっていって、本当に貴方ってば手に入れるのですもの。本当に献身的な猫ちゃんですよね。シロノワは。
『ハナちゃんのためなら当然!! ハナちゃんが危険にも遭わずに、『勇者』ともかかわらなくてよかった。あんたも『勇者』を配偶者にしたものは幸せかもだけど大変って言ってたものね』
――そうですね。『勇者』はそれだけ特別ですから。特に今、デルハンナは『聖女』ではなくただの少女としていますから、『勇者』が近づけば嫉妬したものがどう動くか分かったものじゃないですし。でもマテッドはちょっとかわいそうでしたね。
『あいつ、ハナちゃんに気づいてた!! ハナちゃんの祈り届いて嬉しそうにしているし、むかつく!!』
――『聖女』と『勇者』は本来、惹かれあうものですからね。
『説明したのに、最後もハナちゃんに話しかけてるし!!』
――まぁまぁ、いいじゃないですか。もうマテッドはデルハンナのもとへ来る気はなさそうですし。
『当たり前。ハナちゃんは、当たり前の幸せを手に入れるの!!』
――ふふっ。あの護衛騎士はデルハンナを大切にしてそうですものね。シロノワも、デルハンナと『聖女』としての力でつながってますからデルハンナが死ぬまでずっとそばに居られるようになってますからね。少しぐらい感謝してくださいよ。
『……ふんっ。そのことは感謝しているわ! ありがと!』
――可愛いですね。なでていいですか?
『ダメ!!』
女神様と、『白猫聖女』のそんな会話は誰にも聞かれることはない。
「シロちゃーん、どこにいるの??」
シロノワの耳に、デルハンナの呼ぶ声がする。
『ハナちゃん!!』
その声を聞いたシロノワは、すぐにそちらに向かう。
その様子を女神様はひっそりと覗いて、笑っている。
――本来なら『聖女』になるはずだった少女は、それを知らずにただの少女として生きている。
真実を知るのは、女神様と『白猫聖女』と、そして『勇者』だけ。
ちょっと時間かかってしまいましたが、こちらで終わりになります。
自分の仲良くしている白猫が『聖女』だったというところから始まるデルハンナのお話でした。
最後まで思いついていたのに途中悩んで少し時間がかかってしまいましたが、最後までかけてほっとしています。
元々はデルハンナが『聖女』だったのですが、デルハンナが大好きなシロノワが危険な目に遭わせない!と決意した結果、こんな未来になりましたという物語です。
楽しく書いたので、楽しんでもらえていたら嬉しいです。感想などいただければ嬉しいです。
2022年12月13日 池中 織奈