第16章 それぞれの道
その頃守屋は、武市半平太の切腹を阻止すべく、城下に居た。
武市は岡田以蔵と違って切腹であった為、城内での執行であった。
城内に入るには警備が厳重でそう簡単には入れない。
しかし守屋にはそんな事は関係なかった。
正面から中に入り武市半平太の切腹を阻止するつもりでいた。
城内に入る門には2人の門番が立っていた。
守屋は覚悟を決めて刀を抜いた。
だがその時であった。
後ろから守屋を呼ぶ声が聞こえる。
「おい守屋」
守屋が振り向くとそこに立っていたのはわんわんと恭子であった。
「なぜおまんらがいるがじゃ」
「たまたまだよ」
「嘘言うなや!」
わんわんは軽く笑みを見せる。
「まぁお前らを止めにきたんだけどな」
「なんじゃと?」
「まぁ今ごろ拓司は、もっさん達に止められてると思うけどな」
守屋は暫く黙り込んだ。
「なぁもう諦めて俺らと帰る道探そうぜ」
わんわんの後ろに居た恭子も守屋に訴えかける。
「守屋君お願い一緒に帰ろう」
守屋は刀を強く握りしめた。
「うるさい!!今更後には引けんながじゃ!!」
守屋はわんわんに斬りかかった。
わんわんは恭子を後ろに下げて身構えた。
「ったくこの強情者が」
刀と刀が交わり、辺りに鉄の交わる音が鳴り響く。
守屋は我を失い何度もわんわんに斬りかかる。
だが全てを見切っているかの様にわんわんは攻撃をかわす。
「無駄だよ。そんなデタラメな剣筋が当たるわけないないだろう」
「うっさいき!!!」
「今のお前に本気になる気にもならん」
それでも守屋は意地になって刀を振り回す。
「しゃあない」
わんわんは守屋の隙を見て、1歩間合いを詰め、守屋の懐に入り込むと、右肘で溝打ちを食らわした。
守屋は膝をついて悶絶した。
「だから言ったろう?お前は隙だらけなんだよ」
「うぐぅぅぅくそおおおおおお!!!」
その時坂本達が合流した。
「やってんな。おーいわんわん!」
「ん?」
わんわんは坂本の呼びかけに振り向く。
その時あった。
わんわんが坂本の方に振り向いた瞬間守屋は短刀を取り出して、恭子の首筋に付近に刀を突きつけた。
「あっ...」
「ばか守屋何やってんだよ!!」
「キョーーーーー!!!」
恭子は刀を突きつけられ怯えていた。
「うるさいんじゃ!!!!おまんら早よ消えろ!!!」
坂本は守屋に冷静になる様に呼びかける。
「も、守屋それはダメだって...お前今自分が何してるかわかってんのか?」
のりおも坂本と同じく守屋を宥めた。
「そうだぞお前...今ライオンの尻尾を踏みかけてるぞ...お前のオデコに死相の死が浮かびあがってんぞ...」
「今ならまだ間に合うってば...お前5年で忘れちまったのかよ...なんでよりによって恭子を人質に取るんだよ...麻美でいいじゃないか...」
麻美はムッとした表情をする。
「おい!!麻美ならいいのかよ!!」
「お前らうるせーんだよ!!!」
坂本とのりおは目を合わせてため息をついた。
「守屋君、僕らは止めたからね」
「うわ...みるみる殺気が上がっていく...」
わんわんは刀を強く握りしめて恫喝した。
「おい!!!てめぇ何してんだよ!!!」
坂本は麻美にもう少し離れる様に指示を出す。
「あかんわ。守屋殺されるぞ」
「やばいですね〜」
「守屋はヤケになって見境つかなくなってるやん。しかもわんわんが1番大事に思ってる恭子を人質に取るなんてアホやな」
「やっぱりまだ好きなんだねわんわん」
「そりゃそうだろ。恭子が居るからわんわんは他の女と恋愛が出来ないんだよ」
「じゃああの時別れなければ良かったのに...」
「まぁ色々あったからなぁ〜でもわんわんは自分から恭子に告白はしないと思うよ」
「本人が言ってたの?」
「いや、でもわかるよ見てれば」
「ふーん。男って面倒臭いね」
わんわんは守屋を睨みつけ激怒する。
「てめぇもう許さないからな!」
「近寄るな!!!近寄ったら喉掻っ切るからな!!」
わんわんは刀を投げ捨て、守屋を睨みつける。
暫くの間沈黙になる。
最初に異変に気がついたのはのりおである。
「やばいっすね。わんわんさんめっちゃやばいですね」
麻美はのりおの言ってる事がよくわからなかった。
「どうしたの?」
続いて坂本も気づく。
「やばいやばい。ここからでもわかる。怖えーぞここからのわんわんは」
「あんたら何言ってるの?」
わんわんは守屋に1歩ずつ近づく。
麻美は大声でわんわんに叫ぶ。
「わんわん!キョーが殺されちゃうよ!!」
「いや...麻美大丈夫だよ。恐らく守屋は動けない...それどころか声すら出せないと思う」
「え?なんで?」
「殺気が尋常じゃない...あの目で見られたら恐怖で動けんよ」
「いやーこれは凄いな、後ろにいるだけで動けなくなるっすね。まるで頭の後ろにも目があるみたいっす」
「そうだな、守屋はもろそれを食らってるからな」
「全然わからない...」
「まぁ分かりやすく言えば、今守屋は頭に拳銃を突きつけられてる様なもんだな」
「あーそれならわかる...」
わんわんは鬼の形相で守屋の目の前に立った。
守屋は坂本の言う通り、恐怖で体全体が震え、声も出ない。
守屋の短刀を取り上げ、恭子の体を自分の方に引っ張り寄せる。
そして守屋の頬を力一杯殴った。
守屋は勢いよく地面に倒れ込んだ。
つかさず守屋の上に跨り、胸ぐらを掴む。
「誰が寝て言いつたんだよ!!」
守屋の頬を何発も何発も殴る。
何発も殴られ守屋は気を失った。
それでも辞めずにわんわんは守屋を殴りつける。
麻美と恭子は泣きながら大声で叫んだ。
「もう辞めてそれ以上やったら守屋君死んじゃうよ!!!」
「お願いもうやめて!!!」
だがわんわんの耳には2人の声が入ってこなかった。
そして更に1発入れようと右腕を構えた瞬間、坂本がわんわんの右腕を抑えて止めた。
「もう終わりだって!!」
その一言でようやく我にかえるわんわん。
守屋の頬は殴られて大きく腫れ上がっていた。
そして同時刻、武市半平太の切腹が行われた。
武市半平太の切腹は壮絶であった。
三文字割腹の法と言い、3度腹を掻っ捌いた。
切腹は自ら腹に刀を刺すため、恐怖でそう簡単にできる事ではないが、それを3度も腹に突き刺すと言うのは、並大抵の事では出来ない。
武士としての意地を上士に見せつけたのであろう。
武市半平太享年37歳。
これで土佐勤王党の主だった主力が、この世から去ったのである。




