6 トーナメント
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魔術大会は自由参加だ。
ポイントはもらえるので、出場したほうが得ではある。
「あたし? もちろん出るわ」
自信に満ちた顔で言い切るエレナ。
背筋をそると豊満な胸が強調され、リボンタイがなめらかな隙間に吸い込まれていった。
エレナが出るならこちらも頑張らなきゃ。
人知れず決意を新たにし、ウイエは前を向く。
当日まではつつがなく準備が進行し、生徒たちも落ち着いて他の授業に集中していた。
最後の夜が落ち、そして明ける。
朝から登校すると、体育館へと集合が掛かった。
いよいよ魔術大会の本番。
模擬戦と同様に特殊な術式の下、安全を加味して、戦うのだ。
トーナメントは二日に分けて、後半は客も交えて、大々的に行われる。
皆、注目を浴びることを楽しみにしている。
ウイエもひそかに気合を入れてきた。
せっかくの晴れ舞台なのだから、変わったものは欲しい。
少し伸びた髪を三つ編みにして、一本にまとめた。
根本できらめく髪飾りは兄が託してくれたもの。
エレナからはかわいいと好評だった。
そのときは「そう」とクールな返答をしつつ、内心では喜んでいたウイエ。
惜しいのは日焼けがあっさり引いてしまったこと。
多少は強そうに見えると思ったのに、残念だ。
肝心の本番は授業に出席するつもりで頑張る。
控室。
シンプルな戦闘着(指定されたもの)に着替えた集団が、まばらに待機する。
隅っこで周りを観察し、ぼーっとしていると、急に手前に詰めてくる影。
ズカズカとやってきたのはロジェだった。
「言っとくが、俺は負けたとは思ってねェからな」
ハイラムとの決闘のことを言っているのかと、ウイエは察する。
わざわざ喧嘩を売りに来るなんて、構ってほしいのだろうか。
「私だって、負けるつもりはないから」
眉を釣り上げ、口を曲げる。
身長差から睨み上げるような姿勢となった。
「一対一じゃ言い訳ができない。残念だったね」
「フン。抜かせ。ハンデごと奪ってやらァ」
捨て台詞を残すと、ロジェはどかどかと足音を鳴らして、生徒の群れへと姿を消した。
隣ではエレナが不安気に、様子をうかがっていた。
とにもかくにも試合は始まり、ウイエたちは順調に勝ち残る。
出番がないタイミングは、控室にこもって観戦する。
透明な鉱石を引き伸ばした液晶に、映し出される試合。
今はエレナの番。
踊り子の少女が自己バフをかけて、舞を踊るように対戦相手を駆逐していく。
ほぼ物理で突破した形だ。
エレナがステージを後にすれば、今度はウイエが表に出る。
彼女の能力も優秀だが、こちらだって負けていない。
絶対防御とカウンターを駆使して、戦いを制した。
準決勝へコマを進めたところで、エレナのほうは敗北が決定。
八位となる。
彼女のためにももっと上を目指そう。
おのれを奮い立たせたて、ステージに上がる。
待ち受けていたのは、暗赤色の頭をした少年。
準決勝の相手――
ロジェでなくてよかった。
そんなことはありえないと、肩をすくめる。
こなたアルフ・ミュルクヴィズ、かなたウイエ・ディギル。
フィールドで向き合う二人。
体を固くし、身構える。
喧嘩別れした相手と再会したような気まずさ。
知り合いが相手だからか、妙に戸惑っている。
まさか本当にかち合うなんて。
こんな展開、予想できなかった。
せめて、一矢報いられたらいいな。
願い事をするように思ったとき、審判の旗が上がり、試合は始まる。
まずはアルフが尖った形の杖を掲げた。
左手を前に出す。
伸ばした指から魔術が繰り出された。
対処しようとバリアを展開。
貼ったと思ったが、揺らぐ境界。
なにかがおかしい。
体内で魔力が乱れている。
視点が揺らぎ、ピントが合わない。
ぶわっと汗が噴き出した。
なにが起きたのかと混乱する。
そしてハッと顔を上げた。
ビュンと影が飛び、距離を詰める。
懐に飛び込むアルフ。
バリアが見えていないかのように迷いなく、スピーディ。
ウイエはあっけに取られる。
バリアを張り直す余裕はない。
動けないし、無防備だ。
彼がナイフを向ける。
尖った切っ先が、バリアと接触。
赤い光が放たれ、視界が染まる。
瞬間、精神がかき乱される感覚。
風が吹く。
髪が荒れ狂う。
なにか起きているのか分からない。
戸惑っている間にバリアが反る。
カウンターがこちらに作用。
弾かれた。
思いっきり吹っ飛び、フィールドに転がる。
乾いた地面の感触を味わう間もなく、体から感覚が抜け、目の前が真っ白になった。
勝負ありと、旗が上がる音を聞く。
気が付くと医務室にいた。
決勝トーナメント表が更新され、左の階段にラインが引かれる。
少年が勝ち進んだと分かった。
分かっていたとはいえ、唖然とする。
少しは抵抗できると思ったのに、完敗だ。
アルフがあんなに強いなんて……。
放心状態のウイエに、控えめな足音が近づく。
白衣の女性がそばに寄って、顎で入口のほうを示す。
いわく、幻術を喰らって昏倒していたらしいウイエ。
ダメージはないので、ピンピンしている。
何事もなかったかのように控え室に戻ると、さっそくエレナと遭遇した。
「大丈夫だった?」と声をかけられ。
「容赦ないわよね。あんたが相手なんだから、手加減しなさいよっていう」
「そうされたところで結果は見えてたけど」
平坦な声を出しつつ、半笑いになる。
アルフの強さは分かっていた。
戦力差が大きすぎたからこそ、精神的な負荷を負わずに済んだとも言える。
「でもあなた強いわ。ここまで勝ち上がったことがなによりも証拠だもの。さあ次も頑張って」
力強く言い、肩を叩く。
「次?」
気の抜けた声で聞き返し、瞬き。
「ええ、三位決定戦」
「あ、ああー」
完全に忘れていた。




