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星空の少女は兄の影を追いかける  作者: 白雪
第2幕 B

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37/43

6 トーナメント

 ***


 魔術大会は自由参加だ。

 ポイントはもらえるので、出場したほうが得ではある。


「あたし? もちろん出るわ」


 自信に満ちた顔で言い切るエレナ。

 背筋をそると豊満ほうまんな胸が強調され、リボンタイがなめらかな隙間に吸い込まれていった。


 エレナが出るならこちらも頑張らなきゃ。

 人知れず決意を新たにし、ウイエは前を向く。


 当日まではつつがなく準備が進行し、生徒たちも落ち着いて他の授業に集中していた。


 最後の夜が落ち、そして明ける。

 朝から登校すると、体育館へと集合が掛かった。


 いよいよ魔術大会の本番。

 模擬戦と同様に特殊な術式の下、安全を加味して、戦うのだ。

 トーナメントは二日に分けて、後半は客も交えて、大々的に行われる。


 皆、注目を浴びることを楽しみにしている。

 ウイエもひそかに気合を入れてきた。



 せっかくの晴れ舞台なのだから、変わったものは欲しい。

 少し伸びた髪を三つ編みにして、一本にまとめた。

 根本できらめく髪飾りは兄が託してくれたもの。

 エレナからはかわいいと好評だった。

 そのときは「そう」とクールな返答をしつつ、内心では喜んでいたウイエ。


 惜しいのは日焼けがあっさり引いてしまったこと。

 多少は強そうに見えると思ったのに、残念だ。



 肝心の本番は授業に出席するつもりで頑張る。


 控室。

 シンプルな戦闘着(指定されたもの)に着替えた集団が、まばらに待機する。


 隅っこで周りを観察し、ぼーっとしていると、急に手前に詰めてくる影。

 ズカズカとやってきたのはロジェだった。


「言っとくが、俺は負けたとは思ってねェからな」


 ハイラムとの決闘のことを言っているのかと、ウイエは察する。

 わざわざ喧嘩を売りに来るなんて、構ってほしいのだろうか。


「私だって、負けるつもりはないから」


 眉を釣り上げ、口を曲げる。

 身長差からにらみ上げるような姿勢となった。


「一対一じゃ言い訳ができない。残念だったね」

「フン。抜かせ。ハンデごと奪ってやらァ」


 捨て台詞を残すと、ロジェはどかどかと足音を鳴らして、生徒の群れへと姿を消した。

 隣ではエレナが不安気に、様子をうかがっていた。



 とにもかくにも試合は始まり、ウイエたちは順調に勝ち残る。

 出番がないタイミングは、控室にこもって観戦する。


 透明な鉱石を引き伸ばした液晶に、映し出される試合。


 今はエレナの番。

 踊り子の少女が自己バフをかけて、舞を踊るように対戦相手を駆逐くちくしていく。

 ほぼ物理で突破した形だ。


 エレナがステージを後にすれば、今度はウイエが表に出る。

 彼女の能力も優秀だが、こちらだって負けていない。

 絶対防御とカウンターを駆使して、戦いを制した。


 準決勝へコマを進めたところで、エレナのほうは敗北が決定。

 八位となる。


 彼女のためにももっと上を目指そう。

 おのれを奮い立たせたて、ステージに上がる。


 待ち受けていたのは、暗赤色の頭をした少年。

 準決勝の相手――


 ロジェでなくてよかった。

 そんなことはありえないと、肩をすくめる。



 こなたアルフ・ミュルクヴィズ、かなたウイエ・ディギル。

 フィールドで向き合う二人。


 体を固くし、身構える。

 喧嘩けんか別れした相手と再会したような気まずさ。

 知り合いが相手だからか、妙に戸惑っている。


 まさか本当にかち合うなんて。

 こんな展開、予想できなかった。

 せめて、一矢報いられたらいいな。


 願い事をするように思ったとき、審判の旗が上がり、試合は始まる。


 まずはアルフが尖った形の杖をかかげた。

 左手を前に出す。


 伸ばした指から魔術が繰り出された。


 対処しようとバリアを展開。

 貼ったと思ったが、揺らぐ境界。


 なにかがおかしい。

 体内で魔力が乱れている。

 視点が揺らぎ、ピントが合わない。

 ぶわっと汗がき出した。


 なにが起きたのかと混乱する。

 そしてハッと顔を上げた。


 ビュンと影が飛び、距離を詰める。

 ふところに飛び込むアルフ。

 バリアが見えていないかのように迷いなく、スピーディ。


 ウイエはあっけに取られる。

 バリアを張り直す余裕はない。

 動けないし、無防備だ。


 彼がナイフを向ける。

 とがった切っ先が、バリアと接触。

 赤い光が放たれ、視界が染まる。


 瞬間、精神がかき乱される感覚。


 風が吹く。

 髪が荒れ狂う。

 なにか起きているのか分からない。


 戸惑っている間にバリアが反る。

 カウンターがこちらに作用。


 弾かれた。


 思いっきり吹っ飛び、フィールドに転がる。

 乾いた地面の感触を味わう間もなく、体から感覚が抜け、目の前が真っ白になった。


 勝負ありと、旗が上がる音を聞く。



 気が付くと医務室にいた。


 決勝トーナメント表が更新され、左の階段にラインが引かれる。

 少年が勝ち進んだと分かった。


 分かっていたとはいえ、然とする。

 少しは抵抗できると思ったのに、完敗だ。

 アルフがあんなに強いなんて……。


 放心状態のウイエに、控えめな足音が近づく。

 白衣の女性がそばに寄って、あごで入口のほうを示す。


 いわく、幻術を喰らって昏倒こんとうしていたらしいウイエ。

 ダメージはないので、ピンピンしている。


 何事もなかったかのように控え室に戻ると、さっそくエレナと遭遇そうぐうした。


「大丈夫だった?」と声をかけられ。

容赦ようしゃないわよね。あんたが相手なんだから、手加減しなさいよっていう」

「そうされたところで結果は見えてたけど」


 平坦な声を出しつつ、半笑いになる。


 アルフの強さは分かっていた。

 戦力差が大きすぎたからこそ、精神的な負荷を負わずに済んだとも言える。


「でもあなた強いわ。ここまで勝ち上がったことがなによりも証拠だもの。さあ次も頑張って」


 力強く言い、肩を叩く。


「次?」

 気の抜けた声で聞き返し、瞬き。


「ええ、三位決定戦」

「あ、ああー」


 完全に忘れていた。

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