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星空の少女は兄の影を追いかける  作者: 白雪
第2幕 B

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4 決闘の河原

 王子からしてみれば相手にはならないほどの雑魚だ。

 簡単にいなしてもよかったのだが。


「おい、そいつの相手は俺だ。テメェらは引っ込んでな、ハイエナども」


 ドスのきいた声に周りの者たちは、一斉に動きを止める。

 ぽかんと間の抜けた顔が、引きつった。


 り込みの入った、オールバック。

 襟足が長い。

 三白眼のツリ目。

 かっ色、筋骨隆々の体格に、腰パンをはいていた。


 相手の正体を知っている。


「ロジェ・シルヴェストル・ルイン」


 王家と血の繋がりがありながら、王候補にならなかった者。


 威圧感のある青年の外見を見ると。


「失礼しましたっ!」


 不良たちは舎弟のような態度で背を伸ばしくるりと回ると、波が割れるように逃げていく。


 けた影の間を堂々と歩くロジェ。

 王子と不良――両者は正面で向き合う。


「素性はどうあれ、彼らを抑えていただけるのは、ありがたい。これからルイン王国も彼らのような者が現れないように」

「なに寝ぼけたこと言ってんスか? ハイラム様。これからこの国は俺の手に落ちるってのに」


 仏頂面のロジェ。

 ヒエッとした空気が垂れ込む。

 ハイラムは表情を強張らせた。


「俺はあんたが王子だって呑む気は一切ないッスよ。みんなが教えてくれましたんで。権力でも、地位でも、力の前では無力だと」


 太陽が雲に隠れ、影が地面に横たわった。

 薄暗がりで落ちくぼんだ眼が、ギラリと光る。

 インディゴの内側の赤茶が、血の色を帯びた。


「怖いんスか? どこの馬の骨とも知らねェ輩に負けるのは」


 ニヤリと笑う相手。


「なにを焦ることはあるんスか? 運命はすでに決まってるものッスよね」


 煽るような物言いが、妙に核心を突いたように聞こえた。


「そんなに自分に自信がなけりゃあ、譲ってくださいッスよ」


 乞うように手のひらを前に出す。


 眉をつり上げ、切れ長の目で睨みつけるハイラム。

 張り詰めた表情。


「誰が譲るものか。私はルインの王となって、皆を導く!」


 当然のように主張し、声を張り上げる。


「だったら決闘だ! 受けて立つよなァ!?」


 途端にやる気になり出す相手。

 口を大きく開き、声を張り上げる。


「受けなければ負けることを恐れていると言ってるようなもんだ。恥ずかしいよなァ?」


 澄んだ目をした王子は、もちろんうなずく。


「ああ」


 必ず勝つ気で答える。

 二人は火花を散らした。





 夕空に暗雲が垂れ込める。

 河原のバトルフィールドに立つ二人。


 前方にゴツゴツとした肉体を誇示したロジェ。

 手には喧嘩用の棍棒があり、鉄のメッキで塗装してある。


 ジリジリと緊張感が高まり、空気がピリつく。

 荒々しい風が吹き、青紫のロングコートがひらひらとなびいた。


 王子はいよいよ地を蹴った。


 アルダーの剣を向ける。

 刃が輝く。

 光の粒を束ね、放出。

 焼き尽くす勢いだった。


 相手は棍棒を振り回す。

 鉄の表面が琥珀こはく色を帯び、強引に光を切り裂いた。


 真っ二つに裂かれ、飛沫のように散らばるりん光。

 ハイラムは相手から目を離さない。


「そんなもんッスかハイラム様、王宮に見初められた光属性とやらはよぉ!」


 高らかな声と共に、圧が迫る。


 ハイラムとて、負ける気はない。

 魔術大会の肩慣らしだ。

 真剣な表情で木の刃を振るった。


 本番と思い、全力で。

 打ち合い、衝撃が飛ぶ。


 一旦、距離を取るロジェ。

 背を向けたかと思えば、布を貫通する形で刃を繰り出す。

 木剣ではなく、本物の。

 グラディウスだ。


 ハイラムはとっさに腕を上げ、腰を落とす。

 じじじと退がりながらも、受け止めた。


 ロジェは表情を変えない。

 彼がすっと手放した棍棒が、つぶてまみれの地面を転がった。

 そちらへ視線を向けた矢先に、り飛ばす。


 避けた先へ吹っ飛んでいく、鉄色の棒。

 ハイラムはすぐに前をとらえ、身を乗り出す。


 力で押して、弾き飛ばす。

 ロジェは追突されたような勢いで、離れていった。

 こちらも退きつつ、体勢を整えたところで、襲来してきた刃。

 即座に光でかき消した。


 視界がくらむ。

 圧のある気配は感じる。

 敵の位置は分かっている。


 押せ押せと、光をまといながら突っ込むハイラム。

 正面を狙って勢いよく切り込む。


 相手はまだ動かない。倒し切れる。

 確信を胸に、思いっきりアルダーの剣を振り上げた。


 しかし――

 硬い音。冷涼な火花。


 やわらかな刃は頑丈なものに受け止められる。


 眉を寄せ、歪める。切れ長の目を細めた。


 手前にあったのは鉄のこぶし

 岩壁のような手に装着したナックルが、光を吸収する。

 白い色が飛び散って、かっ色の肌が照る。


 光が退き、元の深い顔色を取り戻したところで、相手は眉を上げた。


「それで終わりっスか? ハイラム様よぉ」


 得意げでも、あおるでもなく。

 彼は真顔だった。



 驚きどう目する王子。

 一瞬だけ動きが停まる。


 次は向こうの反撃の場。

 その前に。

 歯を食いしばり、肘を曲げる。

 とっさにアルダーの剣を向け、光を放った。


「遅ェ!」


 目の見えない位置から、瞬間的に武具が再出現する。

 姿勢を低くするや、振り上げる。

 刃で空間ごと魔力を飲み込んだ。

 風圧に荒ぶり、砂煙が舞う。

 輝きは不透明な景色に消えた。


 ハイラムは我が目を疑う。

 思考が麻痺まひして、視界が揺らぐ。


 なにが起きたのか分からなかった。

 手札が全て見切られ、なにも通じないなんて。


 体から力が抜け、膝が震えた。


 あっけなく尻もちをつき、ざらついた地面に触れる。

 然と敵を見上げた。


 尖った靴の足音が迫る。

 すすけた匂い。

 爪の伸びた指で握りしめたグラディウス。

 突きつけた刃の先が鋭く尖る。

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