13 異界、ダンジョン、魔物
一旦顔を合わせてから、別々に動く。
ダンジョンに行く準備をしに、一人で商店街を巡る。
金属の匂いに釣られ、足を止めた。
柱をくぐった先、くり抜かれたスペースに、防具が鎮座する。
薄く引き伸ばされた鎧がワンピースのように、トルソーを覆っていた。
「軽そうだろう? 頑丈だよ」
宣伝通り、さらりと着こなせ、つるりと光る面。
「ダンジョンに行くなら追加要素なしじゃ、心もとないだろ?」
武器はベーシックなスタッフには、水晶を取り付けてもらう。
ずっしりとした重みを両手に、防具屋を出る。
ギラギラとした陽射しの下で、手をかざす。
いよいよ戦いだ。硝煙の匂いが鼻先をかすめ、鼓動が跳ね上がる。
果たしてうまくやれるだろうか。
すっぽりと影に包まれ、立ち尽くす。
ひんやりとした空気がふくらはぎをかすめ、足元がおぼつかない。
「大丈夫よウイエ」
ポンっと肩を叩く。
「あたしたちにはあの、ブラックスターがついているんだから!」
高らかな声を聞き、隣を向く。
玉子のような目の玉が生き生きと、輝いていた。
そうか、彼が……。
脳内のアルフは、攻撃力が高そうな見た目の杖を、携えていた。
ならいけるか。
根拠もなく口の中で唱え、肩の力を抜く。
「さぁて、土産物の種類を見なきゃ」
エレナはカタログを掲げる。
テンションが高めな女友達を尻目に、気持ちを落ち着かせたところで、ひと心地ついた。
とにもかくにも装備は整い、聖女像の前に戻る。
先に待っていたハイラムは、青紫のブリオーにガチガチの鎧、タイトな下衣を合わせた格好だ。
彼が現れるだけでただの市街地が、伝説の舞台に早変わり。
まるでおとぎ話に出てくる騎士のようだった。
ウイエの隣に立つ、エレナ。
サイドテールに持ち上げた髪が、ふんわりと揺らめく。
編み込みの根本にブルーの蝶が輝く。
踊り子風の垂れ袖で、華やかに映える。
やけにキラキラとしていると思えば、細やかな宝石が、陽光を反射していた。
「市場、見てきたかしら? 宝石がお買い得よ」
「贋作じゃないの?」
「冒険者の血と涙の結晶を、悪く言うんじゃありません」
一瞬話が飛んだと思い、きょとんとする。
「知ってる? ダイヤモンドの魔窟があるんですって」
胸元を流れるトルマリンが、万華鏡のように、きらめく。
「ああ、文字通りの掘り出し物だったのね」
「そうそう。ダンジョン産の石は、かわいくないんだけど。あたしの手にかかれば、この通りよ」
朱色の房を持ち上げ、耳裏に滑り込ませる。
手元で揺れる苺色のクォーツ。
「素敵ね」
「今度ウイエにも分けてあげるわ」
「いいの?」
「ええ! 一緒に探索しましょう」
声を高くし、笑顔を零す。
談笑が始まり和やかな時間が流れた。
「そういえばアルフ、いたっけ?」
数十分待って、裏通りのほうから、鈍い足音が近づく。
暗がりから膨張したローブがぬるりと浮き出て、迷彩柄のマントが、ゆったりと揺れる。
裾の広いパンツから見えるサンダルは、ずいぶんと傷んでいた。ブーツ丈に革が編んである。
一つ一つのパーツは珍妙なのに、三角帽子を被ることで、魔術師らしく見えるのが不思議だった。
「よ、待った? あそこのカフェ旨かったぞ」
何食わぬ顔で、手を上げる。
目をそらす二人。
ツッコんでも無駄なので、移動を始める。
ギルド内部に設置された円の装置を踏むと、目の前が白く溶けた。
洞窟の前にふわりと着地、固い地面を踏む。
前を見据える。
緑深い場所に馴染む形で、ダンジョンが顕現していた。
「なにこのオーラ。生ゴミでも詰まっているの?」
魔の領域に吸い込まれそうな雰囲気に、体感の温度が下がり、鳥肌が立った。
「だから気をつけて進むぞ。ほら、早く」
ウキウキと背中を押すアルフ。
有無を言わさず、突入する。
洞窟は墓場のように静かだった。
びくびくしながら進むと、冷たい空気が、背を撫でた。
張り詰めた顔で振り向けば、尖った刃が目に飛び込む。
「きゃああああ!」
夜道に襲われたような心地で、悲鳴を上げる。
とっさに割り込むアルフ。
影から飛び出たように見え、気配すらなくて、気づけない。
敵も味方も意表を突かれた。
相手が目を剥いた隙に、闇の力を発動。
革の装備をまとった体が飲まれ、地の中へ沈んだ。
漆黒の沼から吐き出された男は、倒れ伏す。
トレジャーハンターのような見た目。もしくは辻斬り――そんな風貌の男を、視界に収める。
「大丈夫か? ディギル」
「うん」
おずおずと頷く。
引きつった表情の裏で、声を押し殺した。
なんか、聞いていたのと違う。
いや、こんなものだとは覚悟をしていたけれど!
冒険ってもっと、遊園地のアトラクションに乗るような、心躍るものじゃなかったのか?
やっぱり兄の言うことは、宛にならない。だから帰らぬ人になるんだよ!
内心は沸騰し表面は、青ざめる。
ガチガチに防具を固めてきてよかったと思いつつ、全く安心できない。
「引き返そうか?」
「ううん、大丈夫」
ウイエはかぶりを振る。
アルフの力があれば、恐るるに足らない。
彼はきちんと守ってくれた、約束通り。
拳を握ると手首のラピスラズリが揺れた。青さを主張する石を視界に入れると、まるで極夜に星を見つけたように、心が落ち着く。
深く息を吸って、吐いて。
首の裏を撫でられたかのような気配を感じて、アルフを見上げる。
少年は視線をずらした。
次のフロアへと進む。先導するアルフが頼もしい。
鍵を開け、碑文を解く。正しいルートへ進むのだ。
道中、宝を守る硬貨が揺らめきながら、攻めてくる。
全員で撃ち落とす。
投げたチャクラムをキャッチしたエレナを前に、固まったままのウイエ。
バリアを張って、攻撃を防いだだけ。
落ち着きもなくキョロキョロとしつつ、視線を止めた。
近くに宝箱があったので、のそのそと近づく。
開けゴマ。
「あ、ウイエ、ちょっと待って!」
慌てて呼び声が掛かる。
「ん?」と固まるも、もう遅い。
「きゃあああ!」
飛び出したのはミミックだった。
モンスターの出現をスイッチに、ゾゾゾと重たい音。
目の前に壁が立ちはだかる。
フロアに閉じ込められた。
即座にハイラムが前に出る。
長剣を抜き、斬撃がひらめいた。
ガンッ。
硬い音が鳴り、反動で下がった。
ならばと両手で剣を握りし直した、王子の後ろ。
奥でカチッと音が鳴る。
エレナはきちんと壁にできたスイッチを押していた。
解除。
扉が開いた。
ほっと一息、肩を下げた。
ハイラムは涼しい顔で剣を下ろす。
先ほど物理で突破しようとしていた彼。
ずいぶんと脳筋なんだなと思い傍観すると、相手の目がこちらを向く。
切れ長で涼しげながら、妙な圧があった。
「ディギル嬢は外したほうがいい。場違いだ」




